慕容暐4 一雌復一雄雙飛入

さて、慕容泓ぼようおうサイドである。

その部下の高蓋こうがい宿勤崇しゅくきんすうらは、

慕容泓よりも慕容沖ぼようちゅうのほうが

リーダーとして優れていると感じていた。


しかも慕容泓の罰則がやたらとキツい。

なので慕容泓を殺し、慕容沖を立てた。

えっ……。


そして慕容沖を皇帝の代理に立て、

国の制度、官僚システムを整えた。

あれっ慕容垂ぼようすいって

話じゃありませんでしたっけ?


復興燕軍は、長安ちょうあんから

80キロほどのところにまで迫る。


苻堅ふけん、ここで息子の苻暉ふきを派遣。

防衛に充てようとした、が、惨敗。


慕容沖はいちど長安を通過、

長安の北西にある阿房宮あぼうきゅうを拠点とした。



ところで、前燕が滅ぼされたころ。


苻堅は慕容沖の姉、清河公主せいがこうしゅ

側室として自らの後宮に引き入れ、

それはもう、すごいことになった。

当時苻堅33歳、公主14歳。

立派なロリコンである。


しかしロリコンの勢いはとどまらない。

弟の慕容沖も、とてもウホッだった。

なので(ウホッ)した。

なお慕容沖は当時12歳。

立派なペドである。


苻堅の夜のお仕事は、

もっぱらこの二人に注がれた。

他の側室など、相手にしている暇もない。


長安の人びとは、苻堅のこのありさまを

このように歌ったそうである。


一雌復一雄 雙飛入紫宮

 ひとときにメスが、

 またひとときにオスが。

 二羽のツバメが、

 紫微宮しびきゅうを飛び交っている。


鮮卑せんぴなんぞを可愛がっていると、

いつ乱がおこってもおかしくないぞ、

そう、恐れたのだ。


苻堅の側近、王猛おうもう

お前やめろ、ほんとやめろよバカ。

そんな勢いで、なんとか慕容沖から

苻堅を引きはがした。


その頃、慕容沖らの母が死亡。

その葬儀は、燕の儀礼で行わせた。


長安の人びとは、その寵愛ぶり、

そのひいきぶりに、思わず歌う。


鳳皇 鳳皇 止阿房

 あぁ、鳳皇。

 阿房宮におとまりなさいな。


鳳凰とは伝説の霊鳥である。

あおぎりの林以外に住まうことはなく、

竹の実以外は食べない、とされていた。


なので苻堅、阿房宮にあおぎりと竹を

数十万株ほど植えた。

「さあ鳳凰、阿房宮においで」

ってなもんである。


ところで何にも関係ないですけど、

慕容沖の幼名は鳳皇ほうおうでした。

ええ、何にも関係ないんですけどね。




泓謀臣高蓋、宿勤崇等以泓德望後沖,且持法苛峻,乃殺泓,立沖為皇太弟,承制行事,置百官。沖去長安二百里,堅遣子平原公暉拒之,沖大破暉軍,進據阿房。初,堅之滅燕,沖姊清河公主年十四,有殊色,納之,寵冠後庭。沖年十二,亦有龍陽之姿,堅又幸之。姊弟專寵,宮人莫進,長安歌之曰:「一雌復一雄,雙飛入紫宮。」咸懼為亂。王猛切諫,堅乃出沖。及其母卒,葬之以燕后之禮。長安又謠曰:「鳳皇,鳳皇,止阿房。」堅以鳳皇非梧桐不栖,非竹實不食,乃蒔梧竹數十萬株于阿房城,以待鳳皇之至。沖小字鳳皇,至是終為堅賊,入止阿城焉。


泓が謀臣の高蓋、宿勤崇らは泓が德望の沖に後れ、且つ法を持せるの苛峻なるを以て、乃ち泓を殺し、沖を立て皇太弟と為し、行事を承制し、百官を置く。沖の長安より去ること二百里、堅は子の平原公の暉を遣りて之を拒ましめんとす。沖は暉が軍を大破し、進みて阿房に據る。初、堅の燕を滅せるに、沖が姊の清河公主は年十四にして殊色有らば、之を納め、寵すること後庭に冠ず。沖は年十二にして亦た龍陽の姿有らば、堅は又た之を幸いす。姊弟は寵を專らとし、宮人に進みたる莫くらば、長安は之を歌いて曰く:「一なる雌に復た一なる雄、雙なるは飛びて紫宮に入る」と。咸な亂の為りたるを懼る。王猛は切諫せば、堅は乃ち沖を出だす。其の母の卒せるに及び、之を葬ぜるに燕后の禮を以てす。長安は又た謠いて曰く:「鳳皇、鳳皇、阿房に止まれ」と。堅は鳳皇の梧桐に非ずば栖まず、竹實に非ずば食わざるを以て、乃ち梧竹數十萬株を阿房城に蒔き、以て鳳皇の至れるを待つ。沖が小字は鳳皇にして、是に至りて終に堅が賊と為り、入りて阿城に止まりたるなり。


(魏書95-23_文学)




この辺の苻堅の行動見てると「理想に燃えた偉大なる王」って評価、どうなのよって思わざるを得ないですわよね……いやこれもある意味で理想の形なのかもしんないですけど……。

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