君を守る唄
うみのも くず
ー
「……う…くず…っ…っ…」
啜り泣くような声に僕は目を覚ました。隣を見ると、一緒に寝ていた鬼利さんが微かに身体を震わせている。その閉じた瞼から涙が溢れ、頬を伝っている。
「鬼利…鬼利さん…」
頭をそっと撫で、涙を拭う。震えるか細い声で僕の名前を呟いている。その口に優しくキスをする。
「鬼利さん…大丈夫だよ…僕はここだよ…」
名前を呼びながら声をかける。
鬼利さんは度々魘される。酷く辛い過去の夢に、呑まれてしまう。無理やり起こすのも可哀想な気がして静かに抱き締める。
苦しさで空を掴む手に触れる。傷だらけの手。たくさん辛い思いをした証拠。僕の小さな手を包み込む、大きな大好きな手。
「…鬼利さん…」
僕はどうしたら…
ふと鬼利さんと出会った時のことを思い出す。そう言えばあの時も、鬼利さんは苦しんでたな。まさか悪魔だなんて思わなかった。こんな僕に、声をかけてくれて。凄く嬉しかったな。優しい、大好きな僕の鬼利さん…
すぅっと息を吸って、歌を口ずさむ。
あの時のように。
「…~♪」
僕に名前を授けてくれた人から教えて貰った子守唄。僕の名前は「イキル」…。あの人が生かせてくれたから、僕は鬼利さんと出会えた。一度は途絶えてしまった魂だけれど、こうして鬼利さんが救ってくれたんだ。
人間でなくなってしまったとしても、鬼利さんと一緒。僕はここに生きている。
(…落ち着いたかい?綺麗な歌だろう)
森本さん…ふと昔の記憶が過ぎった。
研究所にいた時、恐怖に脅える度に森本さんが歌ってくれてたっけ。子守唄っていうみたい。聞いてるだけで和らぐ、不思議な歌。
(子守唄と言うのはね、安心させる為の歌なんだ。よく私の母が歌ってくれてね…)
僕の歌で鬼利さんを安心させられるかな。醜いと言われた僕の声。優しく、暖かな旋律が響く。
君が愛してくれるこの声で、君を守れるのなら。君の為に、僕は何度でも歌う。
「~♪」
ぴくっと鬼利さんの体が動き、強ばった顔が徐々に穏やかになっていく。
良かった。僕の声は届いてるみたい。
鬼利さんの寝顔を見つめながら、僕は歌い続ける。苦しそうな声は、いつの間にかすぅすぅと落ち着いたいつもの寝息に変わっていた。
「…鬼利…大好きだよ…」
その頬を撫でて、そっとキスをする。まつ毛、悪魔の痣、傷跡すらも鬼利さんの全てが愛おしい。
かっこいいけど…やっぱり可愛い。
思わず唇にもキスをする。ふにっと優しく触れる感覚。鼓動が高鳴って、むずむずする。途端に恥ずかしくなって布団に潜り込む。
「…おやすみ鬼利さん…愛してる」
もぞもぞと体をくっつけて、暖かさを感じながら僕は眠りに落ちた。
君を守る唄 うみのも くず @Kuzha_live
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます