第5話泥棒

「大変よ!! 大変!!! 」


数か月後、私はマネージャーから言われた。一人暮らしを始めてすぐのことだった。


「あなたの家に泥棒が入ったみたいなの! すぐに帰って!! 警察には二時間しかないと言ってはあるから」

私は急いで部屋に戻った。駆け出しのタレント兼モデルなので、そんなに立派なマンションではないが、そこそこの広さはあった。


「ファンの仕業ですかね・・・ひっくり返されている」


家に帰るとクローゼットから何からひっかきまわされている。


「お金は大丈夫ですか? 」

「まだそんなに稼いではないので・・・・貯金もそんなになくて」

通帳の隠し場所を見てみたら、何事もなくそこにあった。


「良かったですね、宝石類は無くなっているように見えますが」

「ああ、金のピアスとかダイアの小さなものとかが無くなっているかな」

「他にとられたものはないですか? すぐ仕事に戻らなければいけないでしょうから」

「そうですね、見て見ますか」

高価なものと言えば、後は香水くらいなので、私は洗面所に行った。


「香水はあるか、使いかけでもリサイクルショップは引き取るらしいけれど、売るときは二束三文だもの」

と小さな洗面所兼お風呂の脱衣所を見渡すと


「体重計がない」


間違いなくこの部屋にあった。私はこの体重計のメーカーに少々腹を立てていたので、引っ越したがそのまま持ってきていた。レンタル料も取られていないから、窃盗まがいになるかもしれない。


「どうかされましたか? 」警官が私に聞いたが

「いえ、別に」

「ちょっと、不思議な感じの物取りですね、目的が今一つはっきりしない」

「そうですか」


とにっこりと笑った。そしてすぐに仕事に戻り、それが終わると私は一人体重計の会社にタクシーで乗り込んだ。謝罪と、あることの提案のために。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る