さよならは言わない

あれから一切連絡が途絶えた。

LINEをしても素っ気ない。着信には出ない。

思い切って自宅に掛けてみよう。

我ながら気持ち悪いなと思う。

告白も出来ずにうだうだしていたら厄介事に巻き込まれた。



『はい、香納です』


少し疲れた雛夕の母親の声がした。


「健翔です。雛夕と連絡が取れなくて……」

「え?! た、健翔くん? あの、その……」




「雛夕! 」

「……ダメじゃない。カノジョの傍にいてあげなきゃ。高木さんすごく繊細な人よ。大切にしてあげて。お母さんも口軽いなぁ」


呼吸器をつけ、病室のベッドに横たわる雛夕。


「発作出たんだろ? なんで黙ってた? なんでおばさんに口止めした? なんで俺の話を聞いてくれない? 」

「質問ばかりね」


苦しいのか眠いのか、時折目を細めたり閉じたりしている。


「……もしかして、悪化してるのか? 」

「してないわ」

「じゃあ、なんで……」

「なんでばっかりね」


今にも消えそうで、俺の方が病気になったみたいに不安で気持ち悪くなってくる。

苦しいのは雛夕なのに……。

消えたら嫌だ。

俺から離れないでくれ。

声にならない叫び。

布団に顔を埋める。


「俺は、俺が好きなのは雛夕、お前だ。不安になるだろ? いつどこで倒れるかわからない、病気どうだったかとか聞くに聞けない」


クスクスと笑い声が上から降ってくる。


「健翔はあまえん坊さんだったの? 酷いなぁ、言わないでいたのに……」


小さく口が動く。

『わ・た・し・も・す・き・だ・か・ら』と。

すうっと微動だにしなくなる。


───ピピーッピピーッピピーッ。


バタバタと医者と看護師が駆けてくる。


「急いで手術室に! 」





「先生……」

「尽力は尽くしましたが……」


手術室の赤いランプが消えた後の二人の声がやけに遠い。

嘘だろ? 雛夕。嘘だと……。

一人、病室に戻ると雛夕の体がベッドにあった。


「……雛夕、雛夕」


涙が出てきた。


「今後どうされますか? 」

「そうですね……。あら? 健翔くん、いつの間に」


愕然とした。

雛夕が死んだのになんで泣いてないんだよ。


「彼は? 」

「雛夕のカレシ、よね? 健翔くん」

「なら、聞いてもらっても大丈夫ですね。してしまう状態で、治療は絶望的だったので残念でした。お体が弱いので片方に慣れるまで時間が掛かると思います。また日を改めて。失礼します」

「いえ、仕方ないです。ありがとうございました。健翔くんちょっとお願いね」


俺は雛夕を抱きしめた。


「よかった。生きてて」


眠る雛夕の手に小さな紙袋を握らせた。



数週間後の今日、雛夕は車椅子で卒業式に参加した。

胸に俺が渡した小さなガラスドームが揺れていた。


Fin

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明日の君に会いたい 姫宮未調 @idumi34

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