40.急転
ミンティリスは書類上のフェリス公爵家の養女になるや否やフェリス公爵と会ってもいないのに第二王子の婚約者に内定した。
ミンティリスが第二王子に養子縁組の話を聞いた1週間後の事だった。
あまりに突然だった。
そしてその話は内定なのにも関わらず、すぐに学院中に広まった。
いや、ナルシリスが広めたのだ。
雁字搦めになってしまったミンティリスだったが、婚約者に内定し、周囲に認知されたことで第二王子は安心したのかミンティリスに紳士的に接するようになり、結果ミンティリスも絆されつつあった。
なんと言っても第二王子がイケメンだったのは大きい。
☆★☆
あっという間に時間は流れ、ナルシリスの卒業まであと1ヶ月となった。
アーティア達の魔神の手がかり探しの方はハッキリ言って難航していた。
直接ナルシリスの周囲を探れないのが大きな原因で、何の手がかりも得れなかった。
ミンティリスは何度か学園内でナルシリスの茶会に呼ばれていて、その内一回だけミンティリスの友人も招待された時アーティアも参加したがやはり尻尾を出すナルシリスでは無かった。
アーティアは兎も角、ジャンやジジの方も同様だった。
かといって全く進展が無いかと云えばそうでもなかった。
ウィリアム第二王子を仲間に引き込む事に成功していたのだ。
ウィリアムは元々リリアーシアを義姉になる人として慕っていたので、取って代わったナルシリスを苦々しく思っていた。
卒業まで残りの日が少なくなっていく中、意を決して全てを打ち明けたアーティアの手を取って、泣いて喜んでくれたのだった。
そんなある日、アーティア達はウィリアムから急報を知らされた。
国王夫妻が揃って病気により急逝した。
国王夫妻が病気とは聞いたことなく前日まで元気だったそうだ。
気丈に振る舞っているが、急に両親が揃って居なくなってしまったウィリアムの悲しみは如何ばかりかと、アーティアはウィリアム気遣ったがウィリアムは首を降った。
感情を見せないのは流石に王族だった。
「義姉上、今は感傷に浸る暇は有りません。僕は当面忙しくなるので学院にこられません。それよりもーー」
ウィリアムはこれもナルシリスの仕業ではないかと考えていた。
しかし証拠も無く断罪は出来ない。
王城内の勢力も王太子派(ナルシリス派)の方が強いのだ。
下手に動けば排除されるのは自分の方だった。
とは云えこのまま静観するのも危険だ。
ナルシリスがこのまま第二王子派を放っておくとも思えなかった。
葬儀の事もあるが、早急に王城に戻らなければならない。
「早くに学院に戻れるように頑張るので義姉上達も気をつけて。ミンティの事、くれぐれも宜しくお願いいたします義姉上」
「殿下もくれぐれもお気をつけて」
ウィリアムはミンティリスの事を心配しつつも王城に戻っていった。
☆★☆
数日後、国王夫妻の逝去と王太子が学園卒業と同時に国王になる事、ナルシリスが王妃になる事が合わせて発表された。
但し、挙式は喪があける3ヶ月後となった。
挙式自体は当初の予定より3ヶ月遅れとなったが、代わりにナルシリスは卒業と同時に実質的には王妃となるのだ。
この様な発表はストロンシア王国の歴史を紐解いても前例が無い。
もっとも連合国の中でも5指に入る強国ストロンシアが政治空白に見舞われる事はない。
緊急時の為の備えは出来ている。
国王決裁が必要な案件でも国王不在時は、行政案件に限り宰相の独断で決裁出来る様に法で定められているし、他の案件も有力貴族からなる議会で承認の上、宰相が代理決裁できるのだ。
実際のところ、現在の議会の過半数はナルシリスの意のままだがその事を知る者はナルシリス本人のみだった。
☆★☆
新王即位の公示があった翌日、第二王子はアーティアが思わず疲労回復の魔法を使ってしまう程に疲れた様子で学院に戻ってきた。
実際王族のウィリアムが隠せない程に忙しさで疲労していたが、学院に戻って直ぐにアーティアとジャンを呼び寄せて人払いをした。
アーティアの魔法で多少回復したウィリアムは、アーティアとジャンに現在の王城内の勢力と状況についてアーティアに説明してくれた。
帝国の皇子であるジャンに内情を話してでもナルシリスの脅威を止めようと、王国王子としての覚悟がウィリアムにそうさせたのだった。
ジャンもウィリアムの意志に帝国皇子としてではなくウィリアムの親友として対応した。
「もう兄上の即位まで日が無い。そこで僕に考えがあるんだけどーー」
そしてウィリアムは意を決して、必死に考えた作戦を2人に話し始めた。
☆★☆
ついに期限である卒業の日がやって来た。
アーティア達はついに魔神の手がかりを見つけ出すことが出来なかった。
本来は卒業パーティーが開かれる予定だったが、喪中につき自粛に。
その替わり、全生徒のみならず親も強制参加の集会が催される事になった。
そしてそれはナルシリスのシナリオでもあった。
「諸君。本日は急な召集となり申し訳なかった」
壇上に立つ王太子アルドリヒの言葉は謝罪から始まった。
アルドリヒの隣には当たり前の様にナルシリスが立ち、2人の背後には側近や護衛が並んでいる。
それらの一団の脇に第二王子がミンティリスを伴って少数の護衛と共に立っていた。
その一団の中にはミンティリスの侍女に扮したアーティアも居たのだが、カロンの力で更に姿を変えておりアーティアに気づく者は居ない。
「本来であれば本日卒業する者達の為にパーティーが開かれる筈であったが、皆も承知の通り国を揺るがす不幸にこの国は見舞われた。私としても青天の霹靂な知らせで、余りにも急な事に何かの間違いではないかと何度も思った程だ」
ここで一旦王太子は言葉を止めた。
そして国王夫妻が揃って急逝するという事態に王太子、第二王子の悲しみは如何ばかりかと心を痛める聴衆の心情を理解するかのように王太子は周囲を見渡し頷いた。
「皆の心配嬉しく思う。しかし私は王族として、王太子として悲しみよりも先に国の為に動かねばならぬ身。私が悲しむ事によって国民が困窮する様な事になってはならないのだ。そしてその様な事態は先王も決して望むまい。故に、私はここに宣言する。この私、アルドリヒ・ナルーツ・ジエル・ストロンシアが新たなる指導者となり、この度の国難を乗り越え、この国をより発展の栄光へ導くことを」
力強い宣言の数泊後、割れんばかりの盛大な拍手が湧き上がった。
その拍手にナルシリスの口角が少し上がる。
その笑みは見るものによって違って見えただろう。
あるものには王太子の決意を称える婚約者の笑顔に。
あるものには策が成った稀代の悪女の笑みに。
圧倒的に前者が多く、後者はごくごく少数だ。
(ふふふ。ここまではいい感じね。後はウィリアムとフェリス公爵を国王夫妻殺しの反逆者として断罪すれば全ては私の思うまま。この力があれば怖いものは無いわ)
王太子が片手を軽く上げれば、この盛大な拍手は鳴り止み、仕上げの断罪劇が幕を上げる。
ナルシリスは婚約者がなかなか手を上げない事に苛ついた。
(長い! いつまで悦に入っているのよ。 とっとと始めろよ)
実際のところ王太子が拍手を止めるまでに待機した時間はわずか15秒程。
その永劫とも感じた長い長い15秒の果て、ようやく王太子は片手を上げたのだった。
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