39.久々の学園と動き出す陰謀
「アーティア様よろしくね」
「こちらこそ宜しくお願いしますね。ミンティリス様」
学園の終学期の開始と共にカロンの体を借りたアーティアは男爵の養女として学院に入ってきた。
この時期の入学は異例だが、元公爵家令嬢として学業にも励んでいたアーティアの学力に問題がある筈もない。
むしろミンティリスと同じクラスになる為に手加減したくらいだった。
その努力?の甲斐あってか無事同じクラスになれた。
同じクラスにしたのには勿論理由がある。
ミンティリスの貴族令嬢教育が継続中だったからだ。
長期休暇中に行った特訓のおかげで最低限の合格をアーティアは出したが、まだまだ不安。
アーティアが何でも屋をやっている期間中は手紙で情報交換をしながら課題を出していた。
ミンティリスも元公爵令嬢の模範解答が貰えるのでなんとか第二王子の前でボロを出さずに済んでいたのだった。
一時的にとは云え、再び学院に帰ってきた事にアーティアは感慨深さを感じていた。
火傷を負ったあの日から随分経った様な、案外短かった様な。
しかし卒業が目的でここに居るわけではない。
ナルシリスが卒業するまでに目的を達しなければならないのだ。
アーティアは気を引き締め新たな学園生活をスタートさせた。
☆★☆
「前の席に座っても宜しいですか?」
昼食時、食堂で目立たない席に座っていたアーティアに話しかけて来た男が居る。
「殿下」
殿下と呼ばれた男は立ち上がってお辞儀をしようとするアーティアを手振りで制した。
「お邪魔をするのはこちらだ。正式な挨拶は不要で」
「はい」
この男はジャンである。
ジャンは帝国の第二皇子として学園に潜り込んでいた。
その間の皇太子としての公務は皇帝や宰相に押し付けてきた。
皇帝は1つ条件を出し皇太子の行動を許可したのだが、それはまたジャンの望みでもあった。
兎も角、ここで2人が出会うのは予定調和だった。
ジャンは高等部の最高学年でアーティアは中等部の最高学年。
ここ以外で会うのは不自然なので、元からここで落ち合う予定だった。
しかし目見麗しい帝国第二皇子(ジャンはここでは弟の名を名乗っている)の隣を狙うご令嬢は多く、2人の出会いは多くの注目を浴びてしまった。
これは誤算であり、その日は結局一緒に食事をしただけで情報交換も出来ずに終わってしまった。
なので幸いにもアーティアは第二皇子の気まぐれに巻き込まれただけと周囲には判断された。
その日以降は作戦を変えてアーティアはミンティリスやその友人と一緒に食事を取る事にした。
するとミンティリスにぞっこんの王国第二王子がやってくるのでミンティリスのサポートをする為と、ミンティリスを通じて第二王子から何か情報を得れないか探るのが目的だ。
アーティアはミンティリスの親友として第二王子に認識され、学園内限定で直接話しかけることを許可された。
そのタイミングを見計らってジャンはその輪の中に入ってきた。
最初ジャンがミンティリスを狙っているのではないかと警戒した第二王子だったが、ジャンはこっそり第二王子にアーティアが狙いなので協力して欲しいと伝えた。
先日ジャンがアーティアに接触したことを知っている第二王子はその言葉を信用し、協力を約束した。
この4人+ミンティリスの友人が一緒に昼食を取るのが当たり前になるのに時間はかからなかった。
第二王子は気付かなかったがそれは、ジャンとアーティアが自然と情報交換出来るようにする為のカモフラージュでもあった。
周囲には帝国第二皇子と王国第二王子が友誼を結んだ様に見せかけたのだ。
アーティアはあくまでミンティリスの取り巻きの令嬢の1人に映るように配慮した。
ナルシリスだけでなく他に敵を作らない為だった。
一方ジジは教師の1人として学園に紛れ込んでいた。
アーティアが依頼主の男爵家に養子縁組して学園に入学してきたのとは別にどんなコネがあったのかジジは教えてくれないが、ジジが学園に無事潜り込めているのはアーティアには大変に心強い。
☆★☆
「急に呼び出してしまって済まない」
「お心遣い有難うございます殿下。お召によりミンティリス参上致しました」
ミンティリスは終業後、第二王子専用の控室に呼び出されていた。
様になってきた優雅なカーテシーをしてみせる。
「殿下などと、2人の時はウィリーと読んでくれと何度も言っているではないか」
「そ、その……大変嬉しく存じますが正式な婚約はまだですから不敬になってしまいわすわ。 それに恥ずかしゅうございます」
「はは、ミンティは恥ずかしがり屋だな。」
前半の建前を無視し、後半だけを拾った第二王子。
2人の時はと第二王子は言ったが、そんは事がある筈ない。
しっかりと第二王子の側近が王子の背後に控えている。
第二王子にはいないも同然なのだろうが、ミンティリスにとってはそうではない。
こちらを見定めるような複数の視線をバンバン感じている。
なにが死亡フラグにつながるのか判らないのだから必死に失礼の無い様に振る舞うのに精一杯だった。
いつもの昼食時の様に隣にアーティアがいたらどんなに心強いかとミンティリスは思うが、呼ばれているのはミンティリスだけ。
1人だけ呼ばれた理由は簡単に想像がついた。
アーティアからは冷静に対応するようにと言われている。
第二王子の控室は王族用とあって豪華の一言に尽きた。
教室1室をまるまる使って王族が休憩するのに相応しい内装に変えられている。
そんな広い部屋の中央に設置された豪華なソファに腰掛ける第二王子に勧められて、ミンティリスは第二王子の隣に座らされた。
(近い! 勘弁してー! 何で誰も止めないの)
最初躊躇ったミンティリスだったが第二王子の強引さに負けてしまったのだった。
内心を表情に出さずに笑顔でいる貴族の在り方を第二王子に鍛えられて、ミンティリスも完璧にマスターしてしまった。
アーティアにこの点だけは教えることがないと太鼓判を押されている位だ。
とは云え第二王子の隣に座り、引きつり笑いとは感じさせない微笑みを浮かべてみせたミンティリスに余裕はない。
これ以上グイグイこられたら悲鳴を上げてしまうギリギリの状況でもあった。
そんな状況の中、第二王子の発言を待つ。
「ミンティにどうしても早く知らせたくて、呼び出してしまった」
そんな風に始まった第二王子の話は、ミンティリスの養子縁組先が決まったという内容だった。
ミンティリスの新たな家名はフェリス。
ナルシリスのシナリオ通り、ミンティリスはフェリス公爵家の養女となる事が決まったのだった。
「将来僕は新たな家を興すことになるから本当はミンティを公爵家の養女にする必要はないんだけど、いろいろと煩い連中が多いからね。 将来の事を考えればこれが一番の近道だし。ミンティもその方がいいと思ってね」
饒舌に説明する第二王子ウィリアムの説明にミンティリスは逃れられない運命を感じていた。
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