37.なんでも屋開店
「ジジ様どう思われます?」
「そうじゃのう、あの娘の夢は信じて良いじゃろうのぅ」
「はい、そう思います」
ジャンとジジ、カロンは話を聞いた後、場を辞して別室にてミンティリスの話について話し合っていた。
アーティアとメリスは、現在ミンティリスの淑女特訓に入っている。
「実は魔神アンバブブは嘗て私の先祖が封じた魔神なのです。アーティアの火傷が呪いなら、魔に属する者の力である可能性が高いとは思っていました。しかしいきなりこの名前が出るとは」
ジャンは王国に来るに際し、ストロンシア王国で封じた魔神の情報を調べていた。
そしてかつて封じたアンバブブの封印が解けていないか秘密裏に調べるつもりでもいたのだ。
「アンバブブのう。聞いたことはあるわい。封じられた場所は……はて、どこじゃったかなぁ」
「それが我が国の文献にも詳しく載っていなくて」
「思いだせんが、あの譲ちゃんの話を信じて学院に狙いを絞った方が良いかのう」
「んーここは私の出番じゃない?」
「ありがたいがカロンにはまだ早いだろう」
カロンの様な子供が編入するにはまだ早い。
だがその心意気は有り難い、ジャンはカロンの頭を優しく撫でた。
「いや、力を借りようかの。なに心配は無用じゃよ。それよりもジャン殿はどうなさる」
「私は…正攻法で行きますよ。少しズルはしますがね」
3人は学院を調べる事で意見が一致した。
「ところで そろそろ宿屋暮らしもなんとかせんとかの」
話が纏まったところでジジが取り敢えずの問題を話題にした。
「なんとかって宛でもあるの?」
「そうじゃなあ。どこか部屋でも借りたいところじゃが訳有り物件でもないと難しいかもしれんの」
「そういう事ならこちらで手配しましょう。実はこの国にはいくつか情報収集の為の拠点がありますから。その名義を使って1つ部屋を借りるよう手配しますよ。どんな所がいいですか?」
「表通りに面した貸し事務所で住み込み可能な場所がいいんじゃが」
「貸し事務所ですか」
「浪費するばかりじゃったから少しは稼がないとのう」
「お!なんでも屋やるんだ」
カロンが目を輝かせた。
それに対し、ジャンは目を細めた。
「お金でしたら心配無用です。協力するとの約束したので今後はこちらで払いましょう。それよりも今は学園に潜り込む方が先では」
ジャンは一刻も早くアーティアを元に戻してあげたい思いが強い為、目的に向かって真っ直ぐ突き進みたかった。
ジジの方針は回り道に過ぎると思ったのだ。
「ほっほ、焦りは禁物ですぞぃ。こちらの存在がバレると面倒ですからのう。 お金もですが情報も欲しいのですわい」
「情報は学園で」
「その学園に忍び込む為ですじゃ」
「お姉ちゃんに早く元に戻ってほしいのは私も同じだけど、ここはお祖父ちゃんに乗っかった方がいいよ」
カロンにまで冷静に諭されてジャンは頷くしか無かった。
因みにカロンはジャンの前なので相変わらず猫を被っているのは言うまでもない。
☆★☆
「まぁ、それで王都で何でも屋を開くのですね」
「うむ、ミンティリス嬢の特訓が終わる頃には開店できるかの」
アーティアはその日の夕食で、ジジから今後の説明を受けていた。
勿論メリスも一緒に居る。
「で、お転婆お嬢様の特訓は進んでいるの?」
「え、ええ、まぁ」
カロンの何気ない質問に対するアーティアの答えはどうにも端切れが悪い。
カロンはこちらも前途多難なのを察した。
「正直、亀の歩みより遅いと言いますか。でも確実に進んではいますよ」
メリスもまさかの出来の悪さにびっくりしていた。
でもしかし、彼女達に判らずとも仕方がないが、ミンティリスは転生者で、体の動かし方は転生前の異世界の庶民そのものだった。
貴族としての動きに必要な筋肉の動かし方に馴染めずにいた。
というのもアーティアは高位貴族令嬢のレベルで特訓していた。
今の段階では学院でも求められないレベルでの洗練さをミンティリスに求めているのだ。
だから学校の授業程度なら作法の単位もなんとか落とさなかったが、この特訓ではからっきしと判断されてしまったのだ。
だがしかし、休み明けにミンティリスの所作が完全な高位貴族令嬢になっていたら逆に周囲が驚くだろう。
アーティアには完璧主義なところがあるのだ。
「あまりに急変するのも変だから周囲に違和感を抱かせない為にも徐々にでいいんじゃないか?」
ジャンの危惧に気付いたアーティアは顔を赤らめた。
自身に力が入り過ぎていたのが恥ずかしくなったのだ。
「そう…ですわね。気長にとは言いませんけど徐々に慣れて貰いましょうか」
「ま、そちらはアーティアに任せるしかないかのう。それで今後じゃが、学園に潜入は冬季休暇後の終学期から侯爵令嬢が卒業となる新年祭までじゃな。そこまでに決着をつけたいと思っておる」
「冬季休暇まではなんでも屋だね」
「うむ、カロンの言う通りそれまでは情報集めじゃ。何にせよ今はその為の準備と、ご令嬢の特訓じゃのう」
「はい」
「何でも屋ではアーティアにも頑張ってもらうからの」
「はい、精一杯頑張りますわ」
アーティアはジジの形ばかりのパートナーだと自覚がある。
ほとんど役に立てていないと。
実際はそんな事も無く、アーティアの力が2人にとって重要な意味を持っているのだが、それは今語る話ではない。
「わたしも頑張るからねー。お姉ちゃん頼りにしてね」
「ええ、宜しくねカロンちゃん」
「私もお手伝いさせて下さいませ。ここまで知って仲間はずれはやめて下さいね」
「メリス……」
「うん勿論、一緒にがんばろーメリスお姉ちゃん」
いつの間にかカロンはメリスとも仲良くなっていた。
カロンには人たらしの才能が在るらしい。
「こちらこそよろしくね、カロンちゃん」
「ありがとう…メリス」
アーティアはメリスの手を両手で握り、感謝するのだった。
そんなやり取りを温かい目で見守っていたジジだが、おもむろにジャンの方に向きを変えた。
「それでジャン殿はどうなさるおつもりで」
「俺は学園に帝国の皇族として編入し、先に情報を探るつもりだ」
「え、でもジャン様は既に成人されて……」
アーティアは途中で言葉を止めた。
ジャンの意図に気付いたからだ。
「確か弟君がいらっしゃいましたな」
ジジがアーティアの言葉を継いだ。
「アレは今は謹慎中で、年をあけたら療養に出す予定になっているのですが、幸いにも公表はしていません。帝国の貴族学校の最終学年なので中学期よりの2期だけですが王国に留学という形をとるつもりです。まぁ見た目はなんとか誤魔化せるでしょう」
既にジャンは王国内にある帝国大使館に指示済だった。
こういう時、魔法の鳥による指示伝達は大変便利だったが、おかげで帝国の大使館は大騒ぎとなる事態陥っていたのだった。
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