36.いきなりの真実
「初めまして、ミンティリスと申します。今日は宜しくお願いします」
「初めましてアーティアと申します。こちらこそ宜しくお願いします。ごめんなさいね事情があって素顔をお見せ出来ないのです」
「いえ、大丈夫…です。 その、確かに驚きはしましたけど」
メリスの紹介により、ミンティリスはアーティアより貴族令嬢としての所作や言葉遣いマナーなどを、休暇期間中メリスの屋敷で特訓してもらえることになった。
今日はその初日でお互いの顔合わせの日だった。
ミンティリスは目の前にいるアーティアと名乗る令嬢に驚いた。
アーティアは顔を隠す仮面をつけていたからだ。
口元以外は全て仮面で覆われている。
服装は自分が着ているレベルとさして変わらない程度の安物だ。
にも関わらず、気品に溢れ高い爵位の令嬢と判る。
なんちゃって令嬢のミンティリスとは大違いだった。
しかし、ミンティリスはアーティアの正体にすぐに気付いた。
転生前のゲームの記憶を持っていたからである。
かろうじて見える口元と柔らかい雰囲気は、ゲームのリリアーシアそののままだった。
そしてメリスが頼ることができる高位貴族の令嬢もまたリリアーシアしか居ないと考えた。
(王太子の婚約者だった公爵令嬢リリアーシア…生きていたんだ……)
ミンティリスはこの世界で前世の意識を覚醒させてからリリアーシアに会ったことが無い。
だから驚きを何とか隠した。
もし知っていることを不審に思われれば、死亡フラグに繋がるかも知れない。
(……リリアーシアのルートは最も安全だけど、こんな展開は知らないから慎重にいかないと)
「……ミンティリス様、怖がらせてしまったかしら」
「あ、 いえ、大丈夫です。
そして慎重に行こうと思ったそばからやらかしてしまったのだった。
「……」
アーティアは早速正体を見破られて戸惑い、即座にはどう反応するか答が出ず沈黙してしまった。
アーティアは当初、自身のに掛けられた呪いの影響を考えメリスが持ってきた話を断わるつもりだった。
しかしジジが魔法のかかった仮面を作ってくれ、会う気になった。
この仮面は外から見れば、口以外は目も覆っているので前が見えないように思えるが被っている者からはまるで空気のように透明になる。
ジジがなんとかエロに繋げようと研究に研究をかさねたシースルー魔法が掛かっているのだ。
長い沈黙。
この場には2人の他にメリスもいるのだが、メリスは頭を抱えたくなるのをぐっと堪えてミンティリスを睨んだ。
”気付いていても流れを読んで黙ってなさいよ”と訴えたがミンティリスにはそれに気付く余裕はない。
早速やらかしてしまい、場の空気が凍りついたのを背中にかいた冷や汗と共に感じると、どう繕うかに思考の100%を回していたのだ。
「……どうして、そう思うのかしら」
ようやくアーティアはそう返した。
ミンティリスはいよいよ待ったなしで窮したが頭は通常の3倍で回って言い訳を考えていた。
生存のために必死である。
が、誤魔化せる言い訳は出なかった。
ええい、ままよと、腹をくくる。
「だって私はリリアーシア様の身に起きたことも知っているし、メリル姉がリリアーシア様の侍女だった事も知ってます。そんな時に王族に対しても失礼のないマナーを教えて頂ける方だと紹介されて会ってみれば仮面を被っている年頃のお嬢様なんですよ。気付かない方がおかしいでしょ」
まくしたてる様に言った。
言ってしまった。
それらしい事をいったがミンティリスはゲームのスチルとアーティアと名乗る彼女の口元がそっくりだという事で気付いただけだった。
呆気にとられたアーティアだったが、必死な様子のミンティリスの様子がどうにも可笑しく感じた。
「ふふふ大丈夫よ。正体を知られたからと言ってどうもしないわ。他の方に黙っていてさえ下されば。 正体を知っているなら仮面を被ったままの不作法はおあいこということで許して貰えるかしら」
やはりリリアーソアは寛大だった。
今の無礼な物言いを仮面を被ったままの無礼で相殺しようと言ってくれたのだ。
「はい、それは助かります」
「……気にしなくていいのですよ。公爵令嬢リリアーシアは死にました。今のわたくしは只のアーティアですわ」
その柔らかい物言いにミンティリスは感動してしまった。
やっぱリリアーシア相手なら死亡ルートは無いかもと。
そのそもゲーム中のりリアーシアルートでの死亡フラグはナルシリスの陰謀にリリアーシアごと巻き込まれるというものが殆どで、リリアーシアが仕掛けてのものは無いはずだ。
その時、ミンティリスは思い出した。
どうにもクリア出来ないこのゲームの攻略方法をネットでずるして見ようとした時の事を。
正解ルートの具体的なネタバレ情報は流石に見なかった。
それまでしてはもはやゲームではないからだ。
しかしキャラ設定などは調べて回答を予測しようとした。
そんな中で一番の死亡ルートメーカーであるナルシリスの情報はかなり漁っていた。
「あの…今から言うことを変だとは思わないで下さい」
「ええ……わかりました」
雰囲気が変わって一度姿勢を正したミンティリスの様子にアーティアも受け止める様に真っ直ぐに見つめる。
「私は知っているんです。ナルシリス様がリリアーシア様に邪神アンバブブの呪いをかけた事を。その……夢で見たから」
それはアーティア達が知りたかった情報だった。
☆★☆
「君の事を信じる。その上で知っている事を詳しく教えて貰えないだろうか」
ミンティリスが核心に迫る発言えをした事により、作法を教えるどころでは無くなった。
今はジャン、ジジ、カロンも参加しての情報収集の場となっている。
ジャンは信じると言ったが当然ながら本当に信じた訳ではない。
しかし、ミンティリスはアーティアの火傷を呪いと言い、呪いの源まで言及したのだ。
事実の確認はひとまず置くとして、彼女の持つ情報を全て聞き出した方がいい判断した。
「その、私のレッスンは……」
「呪いのことを教えて下さったら、私もミンティリス様にご協力致しますから。」
「ええ、いいですけど…知ってると言っても……あの、その…夢で見た内容ですよ。その夢の内容と一致するのかなと思ったから言ってしまいましたけど」
「ええ、それでも構いません。少しでも手掛かりが欲しいの」
「ティティ、私からもお願い」
メリスも真剣な表情でミンティリスに懇願する。
ミンティリスは自身が知る設定情報を夢で見たとして語りだした。
侯爵令嬢ナルシリスが魔神アンバブブと契約するに至った経緯と手に入れた力を。
ミンティリスの話を纏めるとこうだ。
ある日の昼休み中、学院内の庭園を散策していたナルシリスはネックレスが落ちているを発見し、つい拾った。
ナルシリスは何故か拾ったネックレスを持って帰ったのだが、そのペンダントこそ、かつてこの地で封じられた魔神アンバブブに通じる端末だったのだ。
そのネックレスがいつからそこにあったのか、何故いままで誰も気付かなかったのかは不明だが、兎も角ナルシリスの邪なる心が呼び寄せたに違いない。
魔神の呼びかけにナルシリスは応じ契約を結んだ。
そうして人を呪う力を得た。
代償は定期的に人の命を捧げるというなんとも邪悪な内容だ。
だからナルシリスは定期的に侯爵家の使用人を
その行方は推して知るべし。
ナルシリスは呪いの力の応用により人を魅了できる様になった。
但し、魅了による支配は穢れた心を持つ者にしか通じない。
最初リリアーシアを魅了し、穏便に婚約辞退に追い込むつもりだったが、リリアーシアには魅了が通じず呪いを貼り付ける方法に変更した。
それがリリアーシアが火傷の呪いを受ける羽目になった経緯だ。
しかもこの呪いを施す頃にはナルシリスの精神は魔神の影響でより冷酷になっていた。
結果リリアーリアを徹底的に置い落とす事になったのだ。
しかもこの呪いはアンバブブが健在の内は解けることが無い。
またナルシリスの持つペンダントは魔神の本体ではで無い。
本体は別のどこかに封じられているのだ。
それらの事は本来はもっとゲームの後半で起きるイベントの筈で既に起きている理由まではミンティリスには判らない。
しかし、タイミングが早まっただけで内容に変化は無いだろうとミンティリスは考えた。
ゲーム中では魔神の魔の字も出ず、淡々とイベントが進むため、ネットで調べてそんな裏設定が有ったかとゲンナリした記憶が残っている。
リリアーシアルートではそのナルシリスの呪いを防げるかどうかが最大のポイントらしいがその方法が全くわからない。
そしてミンティリスは知らなかった。
一番簡単だと言われていたリリアーシアルートのみにトゥルーエンドへ至る分岐が隠されており、そのルートに入るには他のルートに一度も入ったことが無い状態の時、一定の条件を満たして出会える人物達を仲間に引き入れる必要がある。
つまり一度でも他のルートで遊ぶと、そのゲーム機の製造番号が隠しセーブデータに登録されて、二度とトゥルーエンドルートに入れなくなるという鬼畜仕様ゲームだったのだ。
当然気付かずにいろいろなルートに挑戦した彼女が知るはずもないルート。
いやプレイヤー全員が気付かなかった情報であり、遂に世に出回らなかった情報だった。
せいぜいゲーム中には出てこないボツスチルデータが入っていると勘違いした奇特な解析屋がごく少数いたくらいか。
兎に角ミンティリスは理解っていない。
今、そのルートに入っているという事実を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます