どんでん返し!

もえすとろ

能力・未来視

ある日、私には不思議な力が宿った


それは、少し先の未来を視る能力だ

ただ、視る事はできたが音なんかは全く聞こえてこない

融通の利かない能力だ


この能力の一番の活用法は、朝能力を使い電車に遅延が起きないかの確認だ


これのお蔭で、遅延がおきる時は違う路線を使って出社できる

無遅刻無欠勤になんとも便利な能力だ




さて、今日はどうだろうな……精神を集中し、未来視を発動する


目の前に広がった光景は、混雑した最寄り駅

(こんなに混んでるって事は、どっかで人身事故でもおきたか)


次の瞬間、駅全体が揺れて天井が崩れ落ちてくる⁉

(まずい!このままじゃ潰されて)



「はっ……!なんだったんだ、あれ……」


今視た未来は……なんだ?災害か?

時間は……普段私が駅に行く時間だから、あと1時間半くらい後か


もし、災害なら……かなり大規模なモノだ

あの駅があんな崩れ方するなんて……

思い出しただけで冷や汗が出る



どうする?

今までの経験だと、確実に起きる事だ

起きると分かっていて、何もしないのも性分に合わない

しかし、これから大災害が起きる!

なんて……誰が信じる?


あ、そうだ

とりあえず、同僚に連絡してみるか


同僚に佐藤に電話をする

1コールで、通話が繋がる


「佐藤、おはよう」

「こんな朝にどうした?」

「実は、今日大変な事が起きるんだ。だから仕事に行かないで、用心してほしい」

「は?お前寝ぼけてるのか?今日は俺達にとって大事なプレゼンの日だぞ。何があっても行くしかねぇだろ」

「いや、ほんとにそれどころじゃ」

「ったく、急に心配にでもなったか?大丈夫だ、俺達にできる事は全てやったんだ」

そうじゃない!

でも、なんて言えば……

「佐藤……今日大災害が起きるとしたら?それでも仕事行くか?」

「大災害、か……まぁ、行くな」

「確実に起きるんだぞ⁉」

「おいおい、どうしたんだよ?」

「あ、すまん……」

つい熱くなっちまった……

「お前がそこまで言うって事は、何かあるのかもな」

「佐藤?」

「休む訳にはいかないから、会社には向かう!でも、その後は慎重に行動するさ」

今の私には、これが限界なのか……と悔いていると

通話越しに電車の音が聞こえてくる

「お、おい佐藤、今どこにいるんだ?」

「どこって、駅だよ。この時間なら電車が空いてて楽だからな」

もう、駅にいる⁉

時間は⁉

まだ、大丈夫そうだけど……あと1時間を切ったか

「佐藤、絶対に1時間以内に安全な場所に行ってくれ!じゃないと」

「大災害か?分かったよ。あ、もう乗るから切るぞ。それじゃ、会社でな」

ツーツーツー……

通話が切れて、腕の力が抜ける


佐藤……どうか、無事でいてくれ



弱気になってる自分を、改めて自覚する

このままじゃダメだ!


「よし、会社行こう。佐藤と合流して、この未来視能力の事説明しよう」

今から急いで行けば、間に合うはず!


スーツに着替え、資料をカバンに入れて家を出る


家が会社から近くて良かった……


急いで最寄り駅へ向かう

幸い、駅は無事だった

天井を見上げ、崩れてないのを確認する

未来視ではここで、私は死んだ……

よし、まだ視た未来とは違うな


ICカードで改札を抜けて、ホームへ下りる


ちょうど来た電車に飛び乗る


30分もすれば、会社の近くの駅に着く

そしたら佐藤にもう一度佐藤に連絡してみよう





不安でソワソワしたまま、電車に揺られる事30分

やっと会社の最寄り駅に到着した


佐藤へリダイヤルする

しかし、今度は中々出ない

早く!早く出てくれ!


「はいはい、どうしたー?」

「佐藤!やっと出たか!今どこだ?こっちは今」

「あ~、実はさ電車が故障したとかで、途中で降ろされて次の電車待ちなんだよ」

……は?

「ど、どこだ?今、何駅に」

居るのか聞こうとした瞬間、それは襲い掛かってきた

地面がぐらぐらと揺れる

「うわ、地震か⁉」

「佐藤、今すぐ安全な場所」

最後まで言い切る前に通話が切れてしまった

揺れはどんどん大きくなり、立っているのが困難になる

アスファルトがひび割れ、ビルに取り付けてあった看板が落下し歩道に破片が散らばる


ヤバイ!


これは、佐藤の心配してる場合じゃない!

早く私も安全な場所に行かないと!


揺れる地面を這うようにして移動する


揺れの気持ち悪さから吐き気をもよおし、一度目を閉じる


すると、使うつもりもないのに未来視が発動した⁉


視界に広がるのは倒壊したビル

事故を起こし炎上する車両

落下物の下敷きになった人

(これが、この先の未来⁉)



「うっぷ……」

気持ち悪さが限界を超えて、能力が途切れる


改めて、見える範囲を確認する

そこには、まだ倒れたビルも事故した車も潰れた人もない

良かった……



暫くして次第に揺れが収まってくる


「よかった……さっきのは幻覚だったのか」

能力が暴発したのかと思った……


周りを見回すが、こけて怪我した人はいたが重症そうな人はいない


ふらつきながら立ち上がると

「大丈夫ですか?」

と見知らぬ女性から声をかけられた


「あ、大丈夫です。ありがとうございます」

なんとか一人で立ち上がり、声をかけてくれた親切な人を見る


「よかったです。それじゃ私はこれで」

そう言って去っていく姿を見ると、違和感というか既視感が私を襲った


初めて会った人に、既視感?

そんな訳……あっ、もしかしてさっきの?

幻覚の中で落下してきた看板に潰されてた人?


そうだ……間違いない

服装と髪色、近くに落ちてたカバンが一致してる⁉


でもあれは……幻覚、だよな?

だって、今揺れてないし……看板だって落ちてくる気配はない

考えすぎか?


でも……なんだ?

この気持ちは……いったい……


どうしても気になる

さっきの女性が向かった先、うちの会社と同じ方向だし

会社着くまで、少しだけ見守るか

なんかストーカーみたいで気がひけるな……




会社へ向けて歩き出し、5分ほど経った

もう会社は目と鼻の先だ

ここまで同じ方向だったけど、看板が落ちてくる事はなかった

ってことは、やっぱりただの幻覚だったんだな



ほっと、一安心した時


キキーーーーッ!!!と急ブレーキの音がオフィス街に木霊した

音の方へ意識を向けると、白い車が街路樹へ追突していた

単独事故か

運転手は大丈夫か?

見物人の一人として、運転手の安否を見守るが

なかなか運転手は車から出てこない

次第に野次馬が増え騒ぎが大きくなってきた

そこへ、トドメの一撃の様に小さな爆発音が鳴り炎が上がる

ガソリンに引火した⁉


ん……?

この光景も、幻覚の中で……


もしかして……さっきの幻覚は……


言葉にできない危機感が私に襲い掛かる


もう一度、視よう

それで問題なければ、ただの幻覚だったって事だ


意識を集中して、能力を発動する



見えた景色は、悲惨そのものだった


あっちこっちで火事が起き、車は多重事故を起こしていた

歩道には壊れた機械のパーツが散らばっている

その近くには……ガラスが地面に突き刺さっていた

(これが、起きるのか?)


さっきの親切な女性は……

(見当たらない?)

もう一度探すが、あの後ろ姿は存在しない

(ってことは、どっか別のトコに行った?)


安心して視線を下にすると……足元に赤い液体が流れてきた

赤い液体の元を辿るとそこには……さっきの女性の変わり果てた姿があった


看板ではなく、コピー機に潰され見るも無残な姿になって……


(嘘だろ⁉

 何で!何でこんな事に⁉)


(もう地震は止まったのに⁉)


意識を現実いまへ戻し、慌ててさっきの女性に声をかけ

ようとした所で、また大きな揺れが発生した!


沢山の悲鳴が響く


またも立っているのが難しくなるほどの揺れに、動揺する



まずい!このままじゃ、さっきの女性が!


そう、思った時には……もう遅かった





ガシャーン!!!!

と大きな音と共に、コピー機が女性を直撃していた……


助け……られなかった



間に合ったはず!

後ほんの一瞬早く声をかけていれば……


私のせいで……あの女性は……



そんな後悔している私へ、追い打ちのような出来事が起きる

何かが軋む音が鳴り響き、より大きな悲鳴が聞こえる


30mも離れてない位置にある、ビルが倒壊した



全て、視た出来事だ

こうなると、私は知っていたのに……!!





もしやり直せるなら……さっきの親切な女性だけでも、助けたい!!


私は悔しくて、年甲斐もなく涙を流した


そして瞳を閉じ、辛い現実から目を背ける



悲鳴が段々と、聞こえなくなってきた


揺れも収まってきた



私の心も落ち着きを少しだけ取り戻した

よし、後悔しててもしょうがない


もし、があるなら……今度こそ助けよう

そう心に誓って、目を開ける







すると、目の前は……




































自宅の部屋の中だった⁉

さっきまで、会社の近くにいたはずなのに⁉


何故かスーツは寝間着になっていた


時計を確認すると、記憶の中では佐藤と電話したすぐ後だ

発信履歴を確認すると、そこには佐藤へ発信した履歴がちゃんと残っていた


どういう事だ?

時間が巻き戻ってる……


もしかして、過去にタイムスリップした?


未来視、なんていう能力がある以上


タイムスリップ、なんて不可思議な現象が起きても不思議じゃないけど



今まで、こんな事無かったのに……



考えてみたが、何もわからない



結果だけ見れば、過去に飛んだって事だ

なら、もしかして……


これからの行動次第で未来を変えられる?

あの女性を助けられるんじゃないか?


その可能性があるなら……挑戦してみる価値はある!


急いでスーツへ着替え、カバンを持って家を飛び出た



彼女の悲惨な未来を変えてみせる!!


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