第35話



太陽の光が窓を伝って部屋の中に差し込む、

いつもの時間いつもよりも早く術者が訪ねてきた。


「王様、おはようございます。さて、今日のお仕事ですがって、居ないし!?」


そさくさと近くの窓から飛び降りる王様こと 「【テルカット・アークネス】は、アホンダラと呼ばれる王様である。


基本有能だけど、やる気を起こさない限り逃げ惑う、王国にとっては災難な王様だ。

「そんなに持ってこられても ヤル気失せるって」


「何をいってんですか!?コレ王様がために溜めた書類ですよ!!」


「そーだっけ?」しばらっくれる。


「なにが、「そーだっけ?」ですか!あんたいい大人なんだから、さっさと上がってきてください!!そうしないと、前国王様にお電話しますよーぉ?」


と、部下の1人が電話をしだした


「ちょっっっ!!やるからやるからかけないでよぉ~」


と、


三階の窓に飛び移ってきた 現国王がそこに居た。


最初からそうしてればいいのにと、部下に言われるけど 王様は気にしないそぶりで 山積みの書類の山を消化していく。

ちゃんとしてれば有能なのに、なんでちゃんとしないのか…

最後の書類になって それまで黙々と作業をしていた、国王が


「ん?」と声を出したのだった。


そこには明らかに書類ではないもの。


【親愛なるテルカット・アークネス様】

と、シンプルな、封筒に書かれていた。そして、


わずかに魔力が込められていた。


「こんな事をするのは…アイツしかいないなぁ」



喜びを隠しきれない様子の国王に、

影で気持ち悪いと言われながらも封筒を上機嫌で開けていく。


【親愛なるテルカット・アークネス様】


【ご機嫌いかがですか?貴方の事ですから 仕事から逃げ出して部下達に苦労でもかけてるんでしょうね?


とても久しぶりになりますが

貴方の息子なる物を 現在預かり一緒に旅をしています。

なかなか筋はいい子で、昔の貴方にそっくりです(性格は似てませんが寧ろ純情ですね。)

所々に、嫌味が含められてるのも書いている人の性格だろうな


私達は、今 闘技場で 訓練をしていてもうじき外に出ることができます。

ので、一目だけでも彼を見てやってはくれないでしょうか?】


隣で見ていた術者が、声を上げる

「えっ?国王お子さん居たんですか??今まで独身かと思ってましたけど」


「あーうん、居たけど、いきてたんだ…あの子」



「なんか、生きている事が嫌みたいな言い方ですね?」


「うん、俺最低な事しておいてっちゃったし、今更「パパだよぉ~」って、言えないし サクヤにも顔向けできないでここまで来たのに!!今更だよなぁ」


パサッと同封されいた物が床に落ちた


「何か落ちましたよ?ん?コレ写真ですか?なんか映像になって動いてますけど」


そこには、巨大な、植物と戦う3人の少年姿があり、その中でもひときわ元気そうな獣耳の少年がいるのだ。

間違いなくコレが、国王の子供だろう。


「うわっ、まんま国王じゃないですか、昔こんくらいの時「俺は世界を回るんだ!って家出しましたよね、あの時の国王に似てますわーでも、目だけ色が違いますねー」


「そこはサクヤに、似たから」


「そういえばさっきもサクヤって言いましたけど」

「うん、俺の奥さん14年前に俺が俺の家の事情で蔑ろにして置いてきてしまった奥さん、俺の一番愛する人」


そう言ってアークネスは、そっと写真の中で走り回る我が息子を見つめた。

心底めんどくさいと嘆いていたのにもかかわらず、顔はとても嬉しそうで、

早く会いたい!!と、いう衝動がアークネスを襲っていた。


「サクヤにでも会いにいきますか…



準備手伝ってもらってもいい?」




その日 カルテット王国から、現国王と、その部下が数人姿を消した。

1枚の紙切れを残して


【親父へ、俺の大切なものを地上においてきたから それを取りに行ってくる、親不孝でごめん。でも、俺の大切な人達だから、許してください】





「全くバカ息子め。相談もなしで、言ってくれたらそれなりに対処したというのに

しかし、この少年 そっくりだな、

アークネスに」


前国王と、前王妃が しょうがないかな?というか国王がいない今

しばらく休めると思ってたけど随分早く逃げ出したものだと、

思いながらも

写真の少年に、少しながらの期待を残し


2人と その部下は、しばらくの間国王として、王妃として民衆の前に立つ事を決めたのだった。



闘技場から、約千キロ離れた所に、その場所はある。


剣と剣のぶつかる音がこだまする 練習場で その女性は訓練をしていた。




彼女がいつからこの騎士軍の中に居たかなんて知らないが ずっと彼女は何かを待つようにこの、騎士軍の中で己を磨いていた。


そこに、ひとりの友人が声をかけてくる。


「サクヤ そろそろ訓練を辞めにして夕ご飯食べに行こうよ」


「ん?もうそんな時間?わかった 先に行ってて 追いつくから」


ほかの人達が一気に食堂に駆け込む中 サクヤは 1人 待っていた。


「ふうむ、私の思い違いか…全くあのアホは、いつになったら謝りに来るか、ミヤビを待たせるのも悪いし食堂に行くか」


そう言うとサクヤは、森に背を向けて足を踏み出した


後ろから物音がした瞬間サクヤの頭上を宙を描くように、1匹の狼が飛び越えた



懐しむ様に擦り寄った。


「遅すぎじゃない? アークネス?」


溜息まじりで、サクヤが言う

「すまん。色々あったから、サクヤは、昔と全然変わらないな」

狼が喋るがサクヤは気にしないようだった。

まるで、知ってるかのように


「そりゃそうよ。

魔族と祝言を挙げた人間は ある意味不老不死なんだからって、言ったの貴方でしょ?」



「そうだったな、元気そうで何よりだよ。…じゃなくて、実はサクヤに頼みたいことがあってここに来たんだ、あー、クリスって覚えてるか!?」


「前会った事あるわよね、あのドラキュラみたいな人よね」


「ヴァンパイヤな、クリスがな、どうやら俺たちの息子 カゲロウをどんな縁なのかわからないんだが、 今預かり 一緒に旅をしているみたいなんだ」

息子の名前が出た途端 サクヤの目つきが鋭くなった。


「ちょっと、え?カゲロウ?だってあの子は 私の遠い遠い親戚の家に預けたのよ?なんで今更 ?」


「クリスの話によると、カゲロウ自ら 聖騎士の募集に参加したみたいで、振り分けされて、 クリスの部下の所に来たらしい。それで、何だかんだあって、今はクリスが世話をしているみたいなんだ。


あと1週間程で 闘技場を出るからその時会おうみたいなことが書いてあってね」


「で、私のところに来たの?」


「うむ。だって今更だろ?サクヤの事も今更だけど、カゲロウなんか、本当にどんな顔して会えばいいのか」



「私のところには、こんな顔して来たのに?」


クゥーンと狼には似つかわしくない 弱気な声が響いた


「はいはい、全くあんたも馬鹿よね?あの時の私と付き合わなければこんな事になんてならなかったのに、付き合っちゃうし

家の事情でって言っても カルテット王国の次期国王だったなんて私もびっくりよ?」


「それは、そうだけど、サクヤは、まっててくれたではないか」



「そう、待ってた。だってもう私は普通の人間じゃないし、私がいきてると言うことはあなたもいきてる元気だと言うことがわかるしね、結局私も馬鹿なのよね」


サクヤは、狼の額をソッと撫でた。


「お互い様だな」



「しょうがないからこれくらいで許してあげる。今度王国に帰るときは私も一緒に行くからね!」



「うむ。ちゃんと連れてくし、ちゃんと紹介する」




「サクヤーーーー!!」


遠くからサクヤがなかなか来ないので探しに来た騎士たちの姿が見えた


「あ、ちょっと人型になって」


「え?今?」


「いいから早く」


「あ、サクヤ!いた~!もう、遅いよ!夕ご飯冷めちゃうよ!って、その人誰?」


「んー、疎遠になってた 家族」

誤魔化すようにサクヤは、話す。

「疎遠になってた家族?ふうん、にしては似てないけど」


彼女に悪気なんてない


「そ、そうかな?家族ってこんなもんだよ」


「おい、サクヤ、家族ではなく愛する夫だろう」


どうやら、家族と言われたことが、気に入らなかったのか、口を挟んできた。

いや。家族も夫も似たようなものではないだろうか…


「え?サクヤいつのまにか結婚してたの?え?だってサクヤ まだ、16でしょう?」


サクヤ カルテット 見た目は、16 実年齢 30


「うん、16 だよぉ」


「でも疎遠ってどれくらい?ね


「じゅう…むぐぅ!1年くらいだ!」


サクヤに腹を殴られた国王は言い直した。


「へぇ、じゃあ、そんなに疎遠でもないですよね!」


「そうだ、そうだな?」


「そうね、ってもうこんな時間なのね、ごめん ミヤビ 夕飯食べに行くわ」


「是非っ!あ、そちらの方も」


「俺もいいのか?」


「まあ、来るもの拒まずって所あるし大丈夫だと思うよ」


「そうか、 お前らっ!来てもいいって」


そこの茂みから 5人の術者が出てきて(ちゃんと人型)

国王の近くに集まった。


「紹介する、俺の妻だ!」


「うわー、本当にいたんですね」

「ひょえー、しかも人間」

「あれぇ?でも若すぎじゃない?国王もういい年じゃない?」


後ろにいる3人がそれぞれ感想を述べたところでの近くに居た術者の1人が、サクヤに話しかけた。


「お初にお目にかかります、私は、術者のゾイと申すものです。以後よろしくおねがいします」


「ゾイ?」

サクヤは、あれ?ッと思いながら記憶を辿る


「あーっ!あの時の踊り子のひとりだー!」


途端にゾイの顔が青くなった


「な、何故それをっ!?」


「だって間近でみてたし、それに それで コイツに出会ったんだし」


「思い出すなあ、女装して騎士軍の中に入ったの」


隣でウンウンと頷く


「あのあと国王が、消えて、戻ってきて って、あの時のか!?」


「ご名答ー」


「いや、あの時の新米騎士が女の子とは、」

「いや、あんたらの踊り子も負けてなかったって」


懐しむ様に話す数人はそのまま 騎士軍の食堂へと向かった。



「あ、あんた名前くらい名乗っておけば?魔力がない人間があんたの名前言ったところで召喚なんて出来ないし」


それも、そうだな!


「俺の名前はテルカット・アークネス!

気軽にネス!って呼んでいいぞ!」


「わぁー、カッコいいお名前ですねぇ!!」


「ふふん!そうだろそうだろ!サクヤも 愛情を込めて「ネスッ」と、呼んでもいいんだぞ!」


「あー、はいはい。後でね」



アークネスの術者は、その様子に ただただ呆然としていた。

あの、国王が愛してやまない サクヤという人物はなんて大物なのだろうか



「そろそろ本当に夕食なくなるから、みんなダッシュよ!」


サクヤは足にエンジンがかかったかの様に颯爽に走り出す。それに続きミヤビ、アークネス、術者達が 走っていった。





















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