【Reise】
俺達がクローバーと名乗り世界に復讐を誓った日。俺たちはひたすら直進していた。
「あとどんくらいなんだ?」
「多分あと2kmくらいで小さな村くらい、あると思う」
俺たちが何をしているかといえば、数日泊まれる宿を探すために小さな村を探している。しかし目標は王都なため、王都の方へ直進しているだけである。エフィの思考力を使って目標地を探してもらっているのである。
「2キロかぁ…………ん?あの小屋はなんだ?そこそこでかいぞ」
「ほんとだ。行ってみる?」
「ああ」
前に見えたのは小さな御屋敷的なものだ。人がいなければ万々歳だが。明らかに動いてるだろうな。行ってみる価値はあるし、なにか情報を引き出せるかもしれない。
屋敷の玄関口の前に立ちドアをノック。「ゴン」という重い音が響く。
「はい。どちら様でしょうか?」
やはりいたか。声の特徴からして老父だろうか
「あ、ちょっと旅をしている者なんですが」
「そうですか」
そう言うと声の主はドアを空け、姿を見せた。俺の予想通り60歳くらいの老父だな。白髪を生やしている。身長は175くらいで俺より少し低いくらいだろうか。
それにしても、なんでこの老父はニコニコしてるんだ?
「あの、貴方が良ければ1晩だけ、泊めさせてくれませんか?お手伝いとかはしますので」
「ええ大丈夫ですよ。さあ入った入った」
「「お、お邪魔します」」
この家入ったから分かったが、この戦時中にしてはやけに楽観的な雰囲気が流れている。中には子供が5人か。男3人、女2人。全員12~15くらいだな。ただこの老父の子とは考えられない。つまり
「…………孤児院、と言ったところか?」
「そうですよ。迫害された子供たちをここで過ごしてもらっているんですよ」
「なるほどな。賑わう理由もこれか」
老父は笑みを絶やさずに「さあさあ」と奥のテーブルに招く。
よくある木造住宅。ただかなり固いなこれは。そう簡単に倒壊はしないだろう。
「さて、君たちはなぜここに?」
「私たちは――――」
「エフィ、話すのか?」
「うん。私たちは家族に迫害されて、共に世界への復讐を誓いました」
「ただ、何も無い状態じゃ生きるのすら難しい。だから小屋とか村を探してたんだ」
「つまり、君たちはこれから王都へ向かうのかい?」
「はい。いずれは行くつもりです。でも、通行証が無くて」
通行証?なんだそれは。おおよそ察しはつくが、そんなもの必要なのか。
「そうかい。なら通行証は数枚あるし、2枚程度なら上げてもいいよ」
「ほんとか!?」
「ただ、条件がある。あの子供たちと遊んでやってくれ」
「それだけでいいのか?」
「ああ。いつも同じじゃ楽しいものも楽しくなくなる。あの子達と遊んでくれたらこれを上げてもいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
「エフィ」
「うん!」
そうと決まれば話ははやい。俺は男どもと遊ぶか。エフィを見ると、女子の方へ歩いていった。軽く目配せし、各々適当にあそび始めた。俺はとりあえず3人の名前を把握する。右から金髪、赤髪、緑髪だ。身長は金赤緑の順で高くなっていく。最初は高身長の、つまり緑の少年からだ。
「お前、名前は?」
「俺?俺はラギだ。家名は捨てた」
「お、おれはゼンだ。よ、よろしくな!」
「ぼ、僕はレンです。あの、よろしくお願いします」
ラギの名前を聞いたあと、視線を移して自己紹介させた。最後は俺の番か。
「俺はロイだ。ロイ=クローバー」
「くろー、ばー?」
「ああ。そんで、何をしてるんだ?」
俺たちは各々好きに遊び、月が1番高く登った頃、全員寝た。
翌朝。
俺たちはこの家主である老父――――ラガンという名――――に呼ばれ、テーブルを囲んでいた。
「ロイ君とエフィちゃん」
「な、なんでしょうか?」
「これ。君たちの旅に幸あれ」
「「ありがとうございます!」」
ラガンから渡されたのは王都の通行証。これで俺たちは問題なく王都へ入れる訳だ。だが、目的地はまだまだ先だ。ラガンは通行証だけでなく、カバンや靴もくれた。本当にいいじいさんだ。
「本当にお世話になりました」
「頑張ってね」
「エフィ姉ちゃん、あ、ありがとう」
「ロイ、死ぬんじゃねぇぞ!」
「生意気だな、ゼン」
5人との挨拶も済ませ、屋敷を後にする。
「にしても、楽しそうだったな」
「うん。迫害された子供たちとは思えない。私たちはああはなれない」
「ああ」
俺たちは王都へ直進することにした。
◆ ◆ ◆
ラガンの孤児院から離れて半日程度。そろそろ日も暮れる時間だ。俺たちはラガンから聞いた【リデの村】を目指して歩いていた。リデの村。北西部に位置する、王国の畑と呼ばれるほど農産物の生産が盛んな領地デタライガの端に位置する村だ。人口は1000人ほどだが、特産の小麦はドイクスの3割を占めることから他の村と比べ発展している。今は8月上旬、つまり収穫期だ。
「お、見えてきたぞ」
「ほんとだ。日も暮れてきたし、急ごう」
「ああ。だが、長居はしないぞ」
「うん」
俺たちの第1目標はリデではなく、【光の街、ルクセント】だ。リデから少し歩いたところにあるからリデを出てすぐ着くだろう。リデの村へは1日くらい泊まり、服や食料を調達するだけだ。
村のすぐ近くに着くと、1人の若い男が話しかけてきた。20くらいだろうか。
「なんだお前ら」
「旅をしてる者だ。ラガンに紹介されてここに来た。町長に合わせて欲しい」
「ら、ラガンだと……分かったよ」
そう言うと男は「ついてこい」といい、歩きだした。俺は静かにエフィに声をかける。
「なあ、エフィ。ここに
「多分、いないと思う」
「まあそうだよな」
紋章持ちの俺たちの共通点は迫害されていること。だが、それだけならば孤児院のやつらの1人くらいは紋章持ちいてもおかしくない。つまりもうひとつの共通点。
「ここの人達は、復讐の思いはないと思う」
「エフィもそう思うか」
エフィは軽く頷く。程なくして、町の1番大きい建物の前に着いた。町はすべて木造建築だが、この家はおそらく上品な木材を使っているだろう。しばらくすると、奥から1人の老父がやってきた。ラガンと同い年だろうか。
「君たちがラガンから紹介された者であるか?」
「ああ」
老父は真っ白な長髪に、顔には複数の傷を負っている。背丈は170くらいか。
「なぜここにきた?」
「食料、衣服の調達だ。旅をしてるからな」
「金はあるのか?」
「現金はない。だが、現金になり得るものはある」
俺は大量の熊の毛皮を見せつけた。ラガンがくれたバックパックに押し込んだ甲斐があった。
「ふむ。なかなかの上物だな。1枚5万シクルはするだろうな」
シクル。この国の通過だ。基本朝食のパンを買うのに100シクルだからなかなかの値段だろう。そして俺が持っている毛皮の枚数は10。つまり
「50万はあるってことか」
「そうじゃ。おいフェジア。50万とこれを交換してやれ」
「は、はい」
俺たちを案内してくれた男、フェジアは金貨を50枚持ってくると、俺たちに渡してくれた。この世界には石貨、銅貨、銀貨、金貨、黒曜貨、白金貨がある。金貨は1万シクルに当たる訳だ。かなりの大金だな。
「助かる」
「なに、ラガンの紹介じゃ。断る物も断れんじゃろうに」
一体ラガンは何者なんだ?それはそうと、これで金は確保した。あとはそれを使うまでだ。俺たちは村長と軽く話し、別れた。
町長と別れたあと町長に教えて貰った宿で泊まる予定を立て、食料や衣類を調達する。収穫期というだけあって、かなりの量の麦が並んでいる。ここは村だが、その繁栄からか街のような商業的な店もある。1週間分の食料を買い占め、俺たちは服屋に移動する。俺は村の服装のまま。つまり白いシャツと茶色いブレザーに青い長ズボンくらいだ。エフィに至っては黒いワンピースのみだ。
俺たちは日が暮れるまで服を選ぶことにした。
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