CLOVERS

黒羽くろ

【Anfang】

視界がぼんやりとしている。

土を蹴る音が止まらない。

俺はなんでこんなに必死に走っているんだ?

ああそうだった。あのクズ共が追っかけてきたんだった。

皆同じ家族だったろうに。ああ思い出したら腹が立ってきた。


「はぁっ………はっ。なんなんだあいつら!」


――――手の紋章こんなものさえなければ!


ここは薄暗い闇に閉ざされた小さな森の中。

この手の紋章のせいで、家族に、友達に殺されかけた。こんな物さえなければ、俺はみんなと静かに暮らすことが出来たはずだ……。


「ただ……これに救われたのも事実だが」


やつらに襲われた時紋章の力これを使ったおかげで俺は今ここにいる。当分見つかることは無いだろう。


「それはそうと…………ここはどこだ?」


無我夢中で走っていたからか、完全に迷子になっていた。とりあえず紋章について考えるか。


手の甲に現れた紅いクローバーの紋章。俺がこの効力に気づいたのは逃亡してる時だ。必死に逃げ回って目の前に追っ手が見えた時、俺は気付いたら。それから同じことが何度もあった。つまり俺のこの紋章には相手をすり抜ける能力があるのか?


くそ、何も見えてこねぇ。


「とりあえず………飯ぃ」


腹が減った。必死に逃げたのにこのまま飢え死にか?最悪だ。それだけは勘弁してくれ。

長い茶色の前髪が視界を軽く塞ぐ。視界もぼんやりとしてきた。やはり俺はここで死ぬのか?


「……っ!?誰だっ!?」


ちっ。ここまで追っ手が来たのか?もう動く気力なんてねぇよ。


「あ、あなたは?わ、私は貴方の敵じゃない、はず」

「じゃあなんで俺に接触した?明らかにあぶねぇだろ」

「わ、私と、同じ雰囲気が、したから」

「同じ雰囲気?迫害者か?」

「わ、私も、家族に追い出された」


同じはぐれ者か。ん?あれ、こいつもクローバーの紋章が。


「蒼い……?」

「ひゃっ」


俺がクローバーについて話すと彼女は慌てて手を隠す。いつまで経っても話してくれなさそうだし、俺のも見せるか。


「はいよ。俺もだ。色ちげぇけどな」

「ほんとだ……君のはどんな力?」

「お前、この紋章について知ってるのか?」


力とか言ってる時点で不自然だ。見せない方がよかったか?いやこいつが情報を吐いてくれるなら十分だ。

しかし彼女は首を横に振る。


「真実は、知らない」

「まあそうだよな」


「けど」と少女は続ける。


「これが何か、考えることはできた」

「考える?」

「うん。これ、は1部の人にしか出てこない、特別な紋章。これはみんな特別な力を持っている」


そういうことか。こいつの言う通りなら俺のあれは特別な力なのか?しかしこんなガキがなんでそんなことを考えられる。


「俺の力を教える代わりに先にお前のを教えろ」

「いいよ。私の力は並行思考パーデン

「ぱーでん?」

「うん。同時に3つのことを考えることが出来て、普通の数倍の速度で頭を使える。その代わり使ったあとはすごく眠いけど」

「そうか……俺は相手をすり抜ける力があるらしい。正確には分からないけど」


俺だって知らないものは知らないのだ。


「じゃあ、ちょっとやってみて」


やってみろって。無意識にやってたせいで俺だって分かんねぇよ!考えろ。あの時どうしてたか。


「はあっ!」


数秒の沈黙。


「「え?」」


二人の間で間抜けな声が響く。

気付いたら俺はさっきから4m程離れたところにいた。なんだこの力?


短距離転移ローテレポート。多分君の力」

「ろーてれぽーと?なるほどな。転移か」


つまり俺は目の前に人がいようがいまいが短い範囲を移動することが出来るのか。便利だな。戦闘向けという所か

その前に肝心なこと聞いてなかったな


「なあ、名前、なんて言うんだ?」

「エフィ。ファミリーネームは……捨てられたから」

「そうか。俺はロイだ。俺もファミリーネームは捨てた。正確には捨てる羽目になったが」

「ロイ……ロイ……ロイ。よろしく」

「ああ。よろしく、エフィ。そんでだ。とりあえず俺たちは生きるために、共に動かないか?」

「それには賛成。けど、どうするの?動物はいるけど、火を起こせないし」

「田舎生まれの俺を舐めるなよ。しかもこの短距離転移ローテレポートもある。ほんの少しだけ待ってろ」

「うん。期待、してるよ」





◆ ◆ ◆



「…………とは言ったものの、な」


あの青髪の少女、ほっといたら餓死するだろうな。俺もだが。にしても動物はいるがこんな短剣で殺せるのか?とりあえずやってみるか。


「出てきたな獲物め」


俺の前に現れたのは全長2m程度の熊。俺と目を合わせる。こいつなら、行けるかもしれねぇ。


「はぁっ」


俺はそいつに向かって短剣を逆手に持ち駆け出した。元々足には自信があったが、いつもより早い気がする。熊まであと7m程の距離。目標はそいつのっ!残り6m。熊は両足で立ち、威嚇する。そして俺は大きく1歩踏み込み、跳んだ。そして――――。


「はぁあああああッ!」


ここで短距離転移ローテレポート。熊の目の前に接近し逆手に持ったナイフを目に突き刺す。グチャ、と嫌な音が鳴るが気にしてられない。俺は短距離転移ローテレポートで一瞬前線から離脱。熊がもだえてる間に息を整える。


「死ねぇぇえええええええええ!」


俺はナイフを逆手に持ったまま、また走り出す。今は夏だ、汗が目に染みる。気にしてらんねぇ。足の裏で土を蹴り、速度を上げる。熊との距離は2m。振動で感知した熊はこちらへ鉤爪を振るう。


だが、短距離転移ローテレポートで回避。そして熊の背後へ。俺は跳び、熊の脳天へその短剣を振り下ろす。


「おらぁああああっ!仕上げだぁぁあっ」


熊の心臓へ2度短剣を突き刺す。鮮血を浴びるが気にせず、何度も何度も刺し殺す。熊はその場に倒れた。


「はぁあ。はぁ。死ぬかと思った」


こいつどうするか。俺もう運べねぇぞ。ふと脳裏に浮かぶのはショートヘアの蒼髪の少女。あいつの為にも頑張るか。



◆ ◆ ◆


「だ、大丈夫だった?」

「ああ、なんとかな。んでこいつどう焼くよ」


熊を捕まえたのはいいのだが、調理できなきゃ意味が無い。しかし火をつけれないのだ、どう調理しろと?


「安心して、火を起こす材料は揃えた」

「まじかよ」

「10分くらい待ってて」

「お前がそう言うんだったら待つよ」


まさか木と木を擦り合わせるようなやつやる気か?材料はどうみたって木なんだよな。あれ?なんでこいつ火打ち石持っているんだ?


「エフィ、それどこから持ってきたんだ?」

「私の家、火を使う仕事だったからいつも持ってる」

「タイミングいいな」


エフィは慣れた手つきで火をつけていく。エフィがやってる間に俺もこの熊を解体するか。腕の毛や皮を剥がし、肉を裸にする。あとは適当なサイズに切り分けて、そこら辺の木の枝を刺す。


俺が5本目の作業を終えたところで、エフィが火をつけ終えた。


「よし、焼くか」

「うん」

「なあエフィ、お前はなんで迫害されたんだ?」

「…………えっと」


聞かない方が良かったかもな、これ。ただ共に過ごす以上聞いておきたいんだが。


「元々、国が私たちを追い出して逃げてる途中。食糧不足で」

「それでお前の分はないってか?」

「うん。それで、ここら辺で捨てられたから」

「なるほどな。俺はこの紋章が嫌われて殺されかけたぜ?」

「そ、そんな」

「なあエフィ」


そこで俺はひとつの名案を思いついた。


「ファミリーネームがないのも面倒だ。同じの名乗らないか?」

「ロイと一緒の、ファミリーネーム。うん、いいと思う」

「そうか。じゃあこの紋章に掛けてクローバーはどうだ?」

「エフィ=クローバー……」

「俺がロイ=クローバーだ」

「うん。いい」

「そうか。そりゃ良かった。お、丁度いい。肉も焼けたぞ」


肉も食えることだし、これからについて考えるか。今は夜だが夏だからそこまで冷え込まないのが幸いか。今日はここで野宿でもいいが小さな宿が欲しい。だいたい尿意もあるからな。


俺はこのくそったれな世界に目に物見せてやりたい。人間同士の戦いなんてさっさと止めさせて、魔人に備えるべきだ。


「エフィ、お前はどうしたい?」

「……滅ぼしたい。何もかもを。私を追い出した人達を含めて全て」

「そうか。なら俺と似たようなもんだな。エフィこの世界に復讐をしたい。誓えるか?」

「うん」

「じゃあ決まりだ、これ食ったら小屋でも探すか」

「そうだね。1回王都入らないと」

「決まりだ」


俺たちはこの世界の復讐の為に動く。それだけだ。



【2話テーマ】


旅を始めた2人は王都へ向かった。その途中。小さな老父が住む小屋を見つけた。その老父は迫害された子供を集める孤児院の様なものを営んでおり、中には5人程の子供がいた。そして老父は2人の復讐について知ると、2人に王都への通行証を渡した。そこで1泊した2人は小屋を出てまた王都へ向かった。王都へあと少しのところで大きな町を見つける。その町は「ルクセント」。ルクセントは観光業が栄えているらしく、激安で宿に泊まれるらしい。ロイ達は先日狩った熊の皮を売り渡しその金で3日泊まることを決めた。そのうちに情報収集を、始めた。情報によると王国は半崩壊状態にあり、王国へ反旗を翻す者までいる。その流れに乗じて、ロイ達もCLOVERSと名乗り反王国運動を始めることにした。

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