その8
「さて、では気を取り直して行きますか」
「「いえーい!」」
ダミ声に戻ったコンちゃんの音頭に、赤城とガッちゃんの掛け声が上がる。みいが落ち着くのを待って、部室前の廊下に出たところだ。
「あー、待って。鞄置きたいから一度家に帰ってもいい?」
私は通学鞄を提げた左肩を竦めて言う。英和辞典が入っているので、これを提げて練り歩くのはさすがにしんどい。
「——逃げない?」
「逃げないよ」
部室を出る前から、みいは私の制服の袖を掴んで離さない。
「はぁ……。そんなに心配なら、付いて来ればいいでしょ。ウチ、商店街と同じ駅なんだから」
「うん、そうする」
即答。「信じてない」と面と向かって言われたようだし、実際そうなんだろう。それでもくっついてきたがるみいに、少なからず鼻白む。
ウチの最寄りは、ローカル線で二駅のところにある。歩けない距離じゃないけれど、パレード開始までの残り時間を考えると、電車に乗るのが手っ取り早い。
これを被って乗るのは勇気がいる。というか、かなり迷惑じゃないだろうか。
「んじゃー、あたしらは部室に荷物置いてあるんで、先に行ってよう。赤城っちもどーっすか?」
「もちろん。ご一緒するわ、コンちゃん」
すっかり意気投合したらしく、ニックネームで呼び合う二人。
ちなみに、置き勉派の赤城はいつも手ぶらだ。家が遠いからとかしゃあしゃあと言ってのけるが、れっきとした校則違反である。財布やメイク用品を持ち歩くために愛用している小さい茶革の肩掛けポーチは、ゆったりしたマントの中にばっちり隠れていた。
「うそ、大丈夫? だって、みっちゃん——」
「ほれ行くぞ、ガッツ!」
「きゃ——っ」
「わはは、さーらーばーでぁー」
「わ、分かったから! その変な声やめようよ……」
コンちゃんがガッちゃんを引きずるようにして去っていく。その後に赤城の長身が悠然と続く。魔女帽子分を差し引いても、前の二人より余裕で頭一つ抜けている。
ロングトーンのダミ声を発しながらずんずん歩くハロウィンコスプレの一団に、下校する人波が自然と分かれて道を作っていった。
そして、私の隣に残されたのは、俯き気味のカボチャ娘が一人——。
「いつまで袖掴んでるの?」
「ずっと」
「信用ないんだ」
「きょーちゃんのせいだもん」
袖を掴む手に、ぎゅっと力が籠る。
「やれやれ。ホントに可愛くないね、みいは」
***続く***
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