第11話水純の気持ち
午後の授業が終わり、お昼休み。
教室でお弁当を広げる生徒や廊下に出ていく生徒を見送りながら、私は軽く背伸びをした。
「うーんっ、もうお昼かぁ・・・」
桜陵に来て1週間。
学園生活にもだいぶ馴染んで、最近は少し余裕が出てきた。
授業もそれなりに集中できるようになったし、着替えの時間も緊張しないようになった(ただし、みかさんは除くけど)。
でも、それに比例してお腹の減り具合も早くなった気がする。今まで以上にお昼が待ち遠しいよ。
「今日もあの子来てるかな?」
私はお弁当箱を手に、中庭へ向かった。
中庭のテラスのテーブルには、すでに一人座っている子がいた。
「あ、雅子さま」
「水純、よかった。来てたのね」
「はい、もしよろしければ私と一緒に・・・お昼たべませんか?」
「もちろん。私も、水純がいないかなぁと思って来てみたから」
「雅子さま・・・」
水純・・・やっぱり可愛いな。お部屋に連れて帰りたいくらい。
「ふぅ・・・ごちそうさま」
「ご、ごちそうさまでした」
お弁当を食べ終えて一息つく。
この庭園、やっぱり綺麗だよね。
生徒会はここで、園芸部は温室で開催するって話だけど、私はどちらを手伝おうか?
今日の放課後は、どちらかへお手伝いに行かなくちゃいけない。
一度の選択ですべてが決まるわけじゃないけど、最終的な決断を下すためには重要な行動になるはずだ。
麗華さまとみかさん・・・どちらを選べばいいんだろう。
やっぱり簡単には選べないよね・・・。
「はぁ」
青々と生い茂る生命のゆらめきを見ながら、ついため息を洩らしてしまう。
ふと水純が、私の顔をじっと見つめているのに気がついた。
「ん?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「い、いえ。あの・・・その・・・」
「何か言いたいことがあるのなら言ってみて?」
「いえ、私なんかが雅子さまにこんなこと言うのはやっぱり変かなって・・・」
「私、やっぱりどこかおかしいの!?」
「いえ、そうじゃないんです。わ、私、雅子さまに相談がありまして・・・」
「相談?私にできることなら力になるからもしよかったら話してくれるかしら」
「はい・・・。実は私・・・雅子さまになりたいんです!」
・・・・・?
今、なんて?
「あ、すみません。私なんかが雅子さまになろうなんておこがましいですよね。忘れてください」
「いや、待って水純。ちょっと意味がわからないんだけど、水純は私になりたいってどういうこと?」
「は、はい。私、初めて会ったときから雅子さまになりたくて・・・。でもどうすればいいのか悩んでて・・・。ど、どうすれば雅子さまになれるでしょうか!?」
「え、いや、どうすればって言われても・・」
あまりにも予想外な質問だ。
私になりたい?なにそれ?どういう意味!?
髪型とか、服装とか合わせたいってこと?
それともまさか、’’雅也’’が’’雅子’’になってるみたいに入れ替わりたいっ意味?
「無理・・・でしょうか。私なんかが雅子さまになんて」
「ま、待って。もう一度聞いていいかしら。水純はどうして私になりたいの?」
「はい。それは雅子さまがたくさんの人から求愛を受けるほど魅力的な人だからです」
「えっ?」
「あの麗華さまや、みかさま、それに他にも何十人というお方から交際を申し込まれていると噂で聞きました」
「・・・・・・」
「私、昔から口下手で人付き合いが苦手で・・・桜陵に入る前は、お前は人形みたいだっていじめられたこともあって。そのことをお父様に相談したら、お前が人形みたいなのは友達がいないからだって言われて。それで桜陵に入ってからは、お友達をたくさん作ろうと頑張ったんですけど、まだ一人もできなくて・・・そんなときに雅子さまの噂を聞いて、私も雅子さまみたいになれたら、たくさんの人から好かれると思ったんです」
「あ・・・ああ!なるほど、そういうことね!」
ここまで話を聞いて、ようやく理解した。
変な噂の真偽はともかく、水純が私になりたいのは、自分を変えたいという意味だろう。
「ようするに水純は、私になりたいっていうより、私みたいになってお友達が作りたいのね?」
「あ、はい!その通りです。教えてください雅子さま!お友達を作るにはどうすればいいのでしょうか?」
「え?う、うーん、改めて聞かれると、む、難しいなぁ・・・」
お友達なんて、作ろうと思って作るものじゃないし、あんまり考えたこともなかったな。
お友達って、どうやって作るんだ?
けど水純の期待の眼差しに、何か言わないとという使命感に駆られてしまう。
「えーと、そうだ!お友達なら毎日おしゃべりしてたらできるんじゃないかな。だから、前にも言ったけど、まずはおしゃべりする練習をしましょう。おしゃべりなんて要は慣れだよ。誰かとお話しているうちに自然と上手くなるって。お友達づくりはそれからにしましょう」
それまでに私もいい手を・・・思いつくといいなぁ。
「あ、あの、でも私、おしゃべりの練習をしようにも相手がいなくて・・・本当に一人もお友達いないんです」
「え!?お友達ならいるじゃない。目の前にいる人は違うとでも?」
「え?」
悪戯っぽくウインクしてみせる。
けど水純は右を見て、左を見て、最後に幽霊でも見たの、とでも言いたげな顔で私を見た。「み、水純、私よ私!私、水純のお友達じゃないの!?」
「えーー雅子さまが!?」
「うん。だって私達、こんなにたくさんおしゃべりしてるんだから、もうお友達でしょ?」
「あっ、ででで、でもっ」
「だから、他にもう一人、できればクラスメイトがいいよね?新しいお友達ができるまで、毎日ここでおしゃべりしましょうよ。私、放課後は忙しいから今日みたいにお昼しか時間ないんだけど、大丈夫かな?」
「それはもちろん大丈夫ですが、本当に私のお友達なんかになって、よろしいんですか?」
「もちろん。こちらこそよろしくね、水純」
「あ・・・雅子さま!ありがとうございます!雅子さまが私のお友達になってくださるなんて・・・ゆ、夢みたいで、本当に・・・ぐすっ、う、嬉しいです・・・」
水純は喜びのあまり、目に涙さえ浮かべていた。
嬉しいな。私なんかがお友達になっただけで、こんなに喜んでくれるなんて。
やっぱり水純は可愛くて純粋な子だ。
あぁ・・・雅子と並べて、一緒に愛でてみたい・・・
水純、本当に家まで持って帰れないかな・・・
「雅子、あなた何してるの?」
「ひゃあっ!!み、みかさん、どうしてここに!?」
「あなたの帰りが遅いから心配してきたんだけど・・・なんでこの子泣いてるのよ」
「えっ!?あ、これは別に何も、わ、私はただ水純とお友達になっただけでーー」
「へぇ、最近の痴漢は年下の女の子に変なことをしてるのを見られた時、そういう言い訳をするんだ?」
「ご、誤解ですよ、何もしてません!」
「だって、その子、泣いてるじゃない!」
「本当に何もしてないですって!そ、そうだよね、水純!?」
「あ、は、はい。雅子さまは私の初めての方になっていただいただけで・・・私、今日のことは一生忘れません・・・」
「なっ!?」
「それではまた、ごきげんよう雅子さま」
そう言いながら水純は去っていった。
「・・・初めての方って、なに?」
うぅ、ご、誤解なのに・・・
そんなこんなで、お昼休みが終わったのだった。
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