第12話生徒会のお手伝い

 

 ーー放課後。

ついにこの時間がきてしまった。

今日から1週間、放課後、園芸部を手伝うか、生徒会を手伝うか、決めなければいけない。

私の行動で桜陵の将来が・・・ううん、桜陵だけでなく、麗華さまやみかさん、それに雅子の未来が決まるかもしれない。

そう考えると、どうにも肩に力が入ってしまう。

一度大きく深呼吸してみよう。

「すぅー・・・はぁ・・・」

よしっ!園芸部へ行って、みかさんを手伝うか、それとも生徒会で麗華さまを手伝うか。

さて、どうしようか。

学園長先生のお話もあったし、麗華さまのことも気になる。

一度は生徒会の様子を見に行かなきゃだよね。

私はそう決心して教室を出ようとした時、唐突に麗子さんに呼び止められた。

「雅子さん、生徒会室に行かれるんですか?それなら私もお供させてください」

「え、生徒会室に何か用があるんですか?」

「あら、お忘れですか?私も先週、実行委員に入ると約束したじゃないですか。本当はもっと早く行きたかったんですけど、部活が忙しくて行けなかったんです。だから、今日はいい機会だと思いまして」

「でもその約束は私が実行委員長になるからで、もう無理に守らなくてもいいと思いますけど・・・」

「それでも約束は約束です。それに、私は桜陵の一員として、生徒会のお仕事を手伝うことに誇りを感じているんですよ。ですから行きましょう、レッツゴーです」

そう言って微笑んでくれた麗子さんだけど、私は何だか麗子さんまで巻き込んでしまった気がして、申し訳なくなって心の中で頭を下げた。

その後、私達は前と同じように2人揃って生徒会室へ向かった。

あの時からまだ1週間も経ってないのに、なんだかずいぶん昔のことに感じられる。

当時はまだ、生徒会の事情なんて知らなかったのに、それが生徒会のお手伝いか・・・私に務まるだろうか。

そして、生徒会室の前に到着し、ドアをノックする。

コンコンッ

「はい。開いてるわよ、入って頂戴」

すぐに麗華さまの返事が返ってきた。

私は麗子さんと一度視線を合わせた後、緊張の面持ちでドアを開ける。

「あ、あなたは!?」

すると中には麗華さまと美鈴さまの他に、予想外の人物の姿があった。

「げっ、雅子さん・・・」

お嬢様ロールの君だった。

「あら、来てくれたのね雅子!ちょっと待ってて。すぐにこの作業を終わらせるから」

そして、私と天音さんは無言で立ち尽くす。

「それじゃあ天音、備品の件は頼んだわよ」

「え?は、はい。お任せください麗華さま。この程度の仕事、すぐに終わらせてきますわ」

「あの、天音さんがどうしてここに?」

「ふふふふふ。さあ、どうしてかしらね?ごきげんよう雅子さん」

私の質問に、何故か勝ち誇ったような笑みを返した天音さんは、優雅にドアを開いて部屋を出て行った。

あ、相変わらずよく分からない人だ。本当に何をしていたのだろう。

「雅子・・・あなたなら来てくれると信じてたわ。ついに生徒会長になる決心がついたのね」

「い、いえ、違います。そのお答えは来週ですから・・・今日は生徒会のお手伝いに来ました。学園長先生のお言葉もありますし、私も一度麗華さまとお仕事したかったんです」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。いいわよ、一緒に頑張りましょう。でも生徒会の仕事は厳しいわよ?」

「う、お手柔らかにお願いします」

「麗子も来てくれたのね。あの時の約束を守ってくれるなんて、律儀な子ね。助かるわ」

「はい。桜花祭までの間、お世話になります」

「ふふふ。それじゃあさっそく二人には生徒会の仕事を手伝ってもらおうかしら。あ、でもそうだったわね・・・・仕事は・・・」

麗華さまが少し申し訳なさそうな顔になる。

「どうされましたか?」

麗子さんが尋ねる。

「ごめんなさい。あなたが来てくれるかわからなかったから、つい今日の分は全部、天音に任せてしまったのよ」

「天音さんに?」

「ええ、あの子はいつも忙しい時期になると、手伝いに来てくれるから、ついいつもの調子で頼んでしまったわ」

ああ、なるほど。だから天音さんがここにいたのか。

さすが麗華さまファンだ。勘違いして暴れるだけじゃなく、真面目にお手伝いもしてたのね。

「あれ?ということは天音さん、生徒会の役員じゃないんですか?わざわざお手伝いにも来てるのに・・・」

「ええ、そうよ」

「で、でも生徒会って人手不足なんですよね?私が言うのも変ですけど、天音さんは麗華さまを尊敬してらっしゃいますし、お仕事もできるみたいです。それならお願いすれば、役員どころか次期会長もやってくれると思うんですが、どうしてそうしないんです?」

あれだけ麗華さまにこだわっている天音さんが、生徒会の役員をしてないのはちょっとおかしい。

「実は私も、一度お願いしたことがあるんだけど、私には資格がないからって断られてしまったのよ。あれはどういう意味なのか、未だによく分からないのだけど・・・まぁ、あの子にも色々事情があるのでしょうね。だから諦めたわ。生徒会長は無理強いで務まるものではないし、事情があるのなら仕方がないわ」

麗華さまの説明に麗子さんが口を開いた。

「なるほど、そんな理由があったんですか」

「い、いや、ちょっと待ってください。今のセリフおかしくなかったですか?」

「どこ?」

「だって麗華さま、無理強いでは務まらないって・・・私には散々、無理強いをされてる気がしますけど?」

「雅子は特別よ。私が選んだ子なんだから、当然ね。ありがたく思いなさい」

「な、なんですかそれ。正直有難迷惑ですけど・・・」

そこへ美鈴さまが近寄ってきた。

「ねえ、麗華。いつまでも遊んでないで、仕事がないなら私の分手伝わせてよ。たまには私にも楽させてよ?」

「そうね。それじゃあ麗子は美鈴の手伝いを、雅子は私の分をお願いできる?」

「はい!任せてください」

私はさっそく麗華さまの隣に座ると、生徒会の仕事を手伝った。

仕事の内容は、書類にハンコを押したり、意見書の内容をまとめたりする単純なものから、予算の集計や用具の管理、提出物の添削など、面倒なものまで数種類あった。

私はそのひとつひとつを足手まといにならないよう、素早く終わらせようとしたが、慣れない作業のためか遅々として進まない。

隣で作業している麗華さまは、私の倍くらいの速度で終わらせているのに、私は自分の不出来に涙目になる。

うう、せめて麗華さまの半分くらいは終わらせなきゃ。頑張れ、頑張れ私!

「お疲れ様。初日にしては頑張ったわね。今日はもうあがっていいわよ」

「はい・・・でもすみません。麗華さまと比べて全然進まなくて・・・」

私は肩を落としながら、本日の成果を確認した。

分厚い辞書のように積み上げられた麗華さまの仕事に対して、薄いノートほどの私の仕事量。

初日とはいえ、その少なさに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「ぷぷぷっ、まだまだだねぇ雅子ちゃん。こんな調子で生徒会長なんて大丈夫?」

「あぅ・・・」

「美鈴!余計なこと言わないの!気にしなくていいのよ雅子。こんなもの慣れなんだから。慣れればもっとできるようになるわ」

「そ、そうでしょうか?」

「もちろんよ。それに雅子が会長になったら、こんな雑務は他の子にやらせればいいんだから」

「そうそう、本来こういう雑務は会長のすることじゃないのよ。昔は麗華も他の子にやらせてたしね」

「へぇ」

「まぁ、そんな甲斐甲斐しい役員たちを、誰かさんが追い出したから苦労してるんだけどね」

「だ、だから追い出したわけじゃないって言ってるでしょ!あの子達が勝手にやめていっただけよ!私だってそれなりに気を遣ったのに、いつもみんないなくなるんだから・・・なんなのよ、もう」

「ま、まぁまぁ、落ち着いてください麗華さま。私は分かってますから、麗華さまに悪気はなかったんだって。だからこうしてここにいるんです」

「雅子・・・」

「あ、すみません。ちょっと生意気でしたね」

「ふふ、いいのよ。あなたはやっぱり優しい子ね」

そして、麗華さまが私達を見送りに廊下まで出る。

「2人とも、今日はありがとう。気をつけて帰りなさい」

「はい、ごきげんよう。お先に失礼します」

私と麗子さんは、わざわざ見送りに来てくれた麗華さまに挨拶をして、帰路についた。

生徒会のお仕事は、思った以上に大変だったな。

あんなに忙しいなんて思わなかった。

これに桜花祭の準備が加わるなんて・・・麗華さま、大丈夫だろうか?

私も力になれたらいいんだけど、生徒会を手伝う、かあ・・・・


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