第3話麗華さまの呼び出し


 翌朝ーー

「あ・・・・」

みかさんに遭遇した。

「あ、おはようございます。みかさん」

「・・・おはよう。ふんっ」

そう言うとみかさんは行ってしまった。

昨日あれだけハッキリ嫌いって言われたんだか

らある程度は覚悟しなきゃ。

今日はみかさんの邪魔にならないよう、なるべく離れて過ごそう。

みかさんと離れて過ごそうかと思ったけど・・・。

よくよく考えたら、いくら離れて過ごそうにも同じクラスなんだから無理じゃない。

やっぱりできることなら仲良くしたいけど、みかさんの方は・・・

「ふんっ」

「はあ、ダメかぁ・・・」

「・・・・」

みかさんの後ろに続き、校門までくる。

「あ、あはは・・・」

「〜〜っ!」

「べ、別に後をつけてるわけじゃないのよ!?だって私達、同じクラスだし、行き先一緒だし・・・・」

「別に何も言ってないでしょ!何言い訳してるのよ、いやらしい」

「いやらしいって・・・わ、私だって何も言ってないのに・・・」

結局・・・教室まで一緒に登校した。

みかさんは終始不機嫌そうだったけど、自分から文句を言わなかったってことは、それなりに我慢してくれてるのかな。

「あら、みかさん、雅子さん。ごきげんよう」

麗子さんが挨拶してきた。

「今日も一緒に登校ですか?相変わらず仲が良さそうで、羨ましいです」

「わ、私達のどこがーー」

「み、みかさん!」

「・・・?みかさん、どうかされたんですか?」

「あっ!ううん、何でもない。そうね、いつも通り仲良しよ・・・」

みかさん・・・。

無理させてごめんなさい。

私のせいで余計な苦労掛けちゃってるよね。

「みかさん・・・また目覚ましが壊れてしまったのでしょうか?」

「へ?」

「やはり電池というものは信用できませんね。時計にはネジが一番ですよ。ね、雅子さん」

「そ、そうですね」

麗子さんのちょっとずれた答えに思わず脱力する。

麗子さんは綺麗で、優しくて、お勉強もできて・・・一見完璧な人だけど、たまに抜けているところがある。

なんというか・・・ほわほわしたワタアメみたいな人だ。

でも、そんなところが一緒にいて安心できる。みかさんがああいう状態だから、今の私が唯一安心して話せる人かもしれない。

「麗子さん・・・これからもよろしくね」

「はい?よくわかりませんが、よろしくされるならよろしくされちゃいます」

「あはは、何ですかそれ」

「うふふ、何でしょう」

やっぱり麗子さんはいい人だな。

みかさんと違って、一緒にいると空気が柔らかくなる。

「コホンッ!・・・女たらし」

みかさんが口を開いた。

「わ、私そんなつもりじゃーー」

「ふんっ!」

「あう・・・」

「あら、本当にご機嫌ななめですねぇ」

はぁ、こんな調子で大丈夫かな・・・

「やましい気持ちなんて、全然ないのになぁ」

「どこがよ・・・この変態!」

私達は更衣室にいた。

「だ、だってしかたないじゃない。今日も体育があるんだもの・・・」

2日連続の体育なんて、今の私には嫌がらせ以外のなにものでもない。

みかさんの視線が痛いよ。

なるべく見ないように、早く着替えなくちゃ。

「んしょ・・・んしょっ・・・」

「雅子さん、そんなに慌てて着替えると、方向間違えちゃいますよ?」

「ふぇ?」

「ほら、体操服逆に着ちゃってます。私が直してさしあげますね」

「わわっ、麗子さん!下着姿のまま近づくと、その・・・」

「コホン!」

「あら、みかさん風邪ですか?」

「ええ、少し。この教室にいる不浄な菌にヤられちゃって!麗子さんも風邪ひかないように早く着替えたほうがいいですよ。かなり悪質な菌みたいですから」

私・・・菌なんだ・・・

「ふんっ、バカ」

はぁ、ほんと、徹底して嫌われちゃってるな。

私にはみかさんだけが頼りなのに、こんな調子でこれからやっていけるのだろうか・・・。

お昼休みーー

「あ、麗華さまですわよ」

ドアの開く音と同時に、突然教室が騒がしくなる。

なんだろう。

誰か入ってきたのかな。

「この教室に、斎藤雅子はいる?」

「あ、麗華さま」

「雅子、探したわよ。ちょっと話があるんだけど、いいかしら」

「はい。それは構いませんけど・・・ここで、ですか」

私と麗華さまがお話しているのを、何故か教室のみんなが注目している。

そりゃあ麗華さまは美人でカッコよくて、見ているだけで目の保養になると思うけど・・・

「そうね、長くなりそうだから放課後、生徒会室にきてくれる?そこでゆっくりお話しましょう」

「生徒会室ですね。わかりました」

「待ってるわよ、雅子」

麗華さまが話し終えると、モーゼのように人垣が割れて、麗華さまはその間を抜けて教室を出ていった。

すごい光景・・・麗華さまって、何者だろう。

「雅子さん!麗華さまとお知り合いなの!?」

「えっ?」

「どこでお知り合いになったんですか?わざわざ麗華さまがお誘いになるなんて、雅子さんって何者!?」

「え?えええ!?」

気がつくと、いつの間にか私はクラスメイトに囲まれて質問攻めにあっていた。

麗華さまについて質問する人、私について質問する人。

私も混乱状態だ。

すると、みかさんがやってきた。

「ちょっとみんな、雅子が困ってるじゃない!麗華さまがきたのは桜花祭のことについてよ。雅子は園芸部だから。私だって呼ばれてるんだから。ほら、雅子今のうちにいきなさい」

「あ、あの、私っ!失礼しますっ!」

私はとりあえず逃げ出した。

そしてドアを開けると、そこには意外な人物がいた。

「あ!」

「えっ、水純?」

一年生の水純がなんでここにいるの?

「あ、あの、雅子さま。これを・・・」

水純は、緊張のせいか、少し震えた手で持っていた袋からお弁当箱を取り出す。

「えっ、お弁当?これがどうかしたの?」

私は意味が分からずお弁当箱を眺めた。

形からして寮でもらえるものだ。

そういえば今朝お弁当もらったっけ?

つまり水純も寮生ってこと?でもなんでここでお弁当を出す必要が?

「あの、これ・・・昨日雅子さまがお忘れになってて・・・だから私が持ってきて・・・」

「私が忘れて?お弁当・・・あっ、思い出した!」

きっと中庭で水純と食べたときに忘れたんだ。

それをわざわざ届けてくれたんだ。

「ありがとう、助かったわ」

けれど、中身は空のはず。そう思って受け取るとーー

「えっ?重たい・・・?ひょっとしてこれ、中身入ってる?」

「えっと、中身は・・・昨日私が出して、今日持ってきたんです。私も寮生ですから・・・」

「本当に!?わー、ありがとう水純!」

「あ・・・」

喜びのあまり、つい水純の手を取り握ってしまった。

よかった。これでお昼を無事食べられる。

水純は本当にいい子だ。私が見込んだだけのことはあるかな。なんてね。

「あの、それで・・・もしよろしければなんですけど、これから私とお昼を・・・」

「雅子?あんたこんなところで何してるの?早くお昼食べなきゃ時間なくなるわよ?」

みかさんが出てきた。

「っ!?」

水純が驚きの顔を見せる。

「あら、この方は雅子さんの妹さんですか?可愛らしい方ですわね」

麗子さんも出てきてしまった。

「あ、ううん。この子は水純っていって、お庭で会ったーー」

「・・・・っ!」

いきなり水純が駆け出した。

「えっ?」

「ど、どうしたんですか?」

「わ、分からないです!ま、待って!」

とりあえず私は水純を追いかけることにした。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・!わ、私・・・また逃げて・・・どうしていつもこうなんだろう・・・。雅子さまともっとお話したいのに・・・色々聞きたかったのに・・・本当に、私・・・」

「はあ・・・はあ・・・ま、待って、水純!どこに行くつもりなの!?」

「雅子さま!?どうしてここに・・・」

「はあ・・・はあ・・・どうしてって言われても。水純、何も言わずにいきなり逃げちゃうんだもん。気になるに決まってるでしょう」

「あっ!す、すみません急に・・・」

「ううん、いいのよ。急に上級生がいっぱいきたから驚いちゃったのよね」

「あ、いえ・・・」

「それにしても、久しぶりに走ったから疲れちゃった。私、お弁当持ってきちゃったし、ここで食べちゃおうかな。ねぇ、水純もお弁当持ってきてない?だったらここで一緒に食べようよ」

「は、はい!ご一緒させてください」

「そう、よかった。じゃあ一緒に食べましょうか」

そして、昨日と同じようにお弁当を食べた。

今日は水純も一緒に。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る