第2話いきなりバレちゃった!?

 寮に帰ってくると私は部屋でベッドに身を投げた。

ようやく斎藤雅子としての一日が終わる。

疲労困憊。たかが一ヶ月ほど女の子になるくらい、楽勝だと思ってたけど、たった一日で心身ともに疲れ果てた。

「安請け合い、しちゃったかもな・・・」

つい男言葉に戻ってしまった。

でも、したかない。

初日からみかさんに疑われたり、麗華さまみたいな強烈な人に出会ったんだから、自分の部屋くらい息抜きしなきゃ、体がもたないよ。

「んーっ!服も全部脱いじゃおうかな?」

カツラにブラジャー、それにスカート。

普段慣れないものを着けて生活するのは、ストレスがたまる。

私は気分を晴らすようにカツラをとって、ベッドに投げ飛ばそうとしたーーその時だった。

コンコンっ。

「はいっ」

誰だろう?

「あの、私。ちょっといいかしら」

みかさんだ。

「あの、ちょっと待っーー」

ガチャッ。

「ええっ!?」

い、今の音、カギを開けた!?

慌ててカツラをかぶる。

するとみかさんが部屋に入ってくる。

「雅子の部屋に入るのも久しぶりね」

「そ、そうですね」

どうしてみかさんが部屋に入れるの?私は絶対カギをかけたはずなのに・・・

「あの、みかさん。鍵、あいてました?」

「ううん、私が開けたのよ。だって私と雅子、お互いの部屋の合鍵もってるでしょ。入院してる間に忘れちゃったの?」

「あ・・・そうだったわね。ごめんなさい、すっかり忘れてたわ」

「・・・・・」

そ、そっか。雅子とみかさんは、お互いの部屋の合鍵を持ってたんだ。

ああっ!でもそれって、私の部屋にいつでもみかさんが来るから、気が抜けないってこと!?

それは困る!せめて一人の時くらいゆっくりしたいのに・・・なんとか合鍵を返して貰わなくちゃ!

「あ、あの、みかさん。ちょっとお願いがあるんですけど・・・」

「合鍵・・・返してほしいのね?」

「えっ?」

「この前、私が御見舞にいった時にみせてくれたチューリップの花。すごく綺麗だったわよね。雅子、兄さんにもらったすごく大切な花だって言ってたわよね。見当たらないけど・・・・?」

まずい・・・。

「えっと、あの・・・枯れちゃったから捨てちゃったの・・・」

「っ!?捨て・・・たの?」

「はい・・・?」

「雅子・・・あなた・・・やっぱりね。変だと思ったのよ。なんだか私のこと避けてるし、麗華さまと楽しそうに話してるし」

みかさんはそう言うと、私を押し倒した。

そして・・・。

「ちょっ、み、みかさん!?」

突然、押し倒されて気が動転する。

な、何これ?みかさん、何考えてるの?

「あ・・・ああっ!やっぱり・・・。雅子・・・ううん、あなたやっぱり、雅也さんね!」

気づくとウィッグを取られていた。

「あ、あのっ、これは・・・」

いきなり初日からバレてしまった。

「おかしいと思ったのよ。シャクヤクのこともそうだけど、チューリップを捨てたなんて。本物の雅子なら、球根があれば枯れても来年また咲くことくらい知ってるはずだもの。さあ、どういうことか話してもらいましょうか?雅也さん!」

私は観念して、全部話すことにした。

「そう・・・雅子が退学・・・。事情はわかったわ。不本意だけど、私も協力させてもらうわ。私だって雅子に退学なんてしてほしくないもの」

「ありがとう、みかさん。恩にきます」

「勘違いしないでよね?雅也さんに協力するのはすっ〜〜ごく嫌だけど!雅子のためだもんね」

「わかっています。それでもありがとうございます」

「ただし、一つ条件があるわよ。このことはちゃんと雅子に報告すること!」

「えっ!で、でもそれはーー」

「こんな大胆なことして、いつかはバレるに決まってるでしょ。ここまできたら雅子の協力だって必要なんだから。ほら、電話電話!」

嫌がる背中をみかさんに押され、据え置きの電話があるラウンジに来た。

桜陵の生徒はスマホの所持が禁止されているため、電話をかけるにはここを利用する必要がある。

「本当に・・・電話しなきゃダメ?」

「ダメ!」

腕組みをしながら睨むみかさん。

うう・・・もう断れる状況じゃない。

真面目な雅子にこんなことしてるなんて知られたら絶対に怒られちゃうよ。だけど・・・。

「わ、わかったよ」

勇気をだして、雅子の病院の番号を押した。

「あ、もしもしーー」

私は、通話後、すぐに自分は雅子の兄だと名乗ると、夜分にも関わらず、病院の人は快く雅子に代わってくれた。

この病院には、長年妹がお世話になっている。

事務員さんとはツーカーの仲なのだ。

『もしもし、兄さん!?こんな時間に何かあったの!?』

滅多に電話をかけない兄からの呼び出しに、ただならぬ事態を予想して雅子は緊張していた。

そんな雅子に、恐る恐る経緯を説明する。

初めのほうは、意味が分からず何度も聞き返しいた雅子だが、中盤以降は何度もバカ、バカとつぶやいて、かなり怒っていた。

「と、いうわけで、色々あってみかさんにバレちゃったんだけど・・・」

『じ、事情はわかりました。わかりましたけど・・・』

「う、うん」

『兄さん!すぐに学園長先生に懺悔して、こっちに帰ってきてください!!』

「ううっ!や、やっぱり怒ってる?」

『当たり前です!兄さんは自分が何をしたのか分かってないんですか!?みかさんや学園の皆さんに迷惑かけて・・・兄さんだって、バレたら捕まるかもしれないんですよ!?』

「そ、それは分かってるけど、でもそうしないと雅子がーー」

『私のことはどうでもいいんです!とにかく、迷惑をかけた方に謝って、すぐ帰ってきてください!』

「でも、それじゃ雅子が退学にーー」

予想はしていたが、何度説得しても雅子は意見を聞き入れない。

それどころか、自分が学園に出向いて、直接学園長先生に謝罪するとか言い出している。

やっぱりだめだ。このままじゃ雅子が退学になっちゃうよ。

「雅也さん、代わって」

みかさんが口を開いた。

「え・・・あ、うん」

困っている私を見かねてか、みかさんが受話器を手に取り、代わってくれた。

「雅子?うん、私・・・うん。あはは、大丈夫。変なことされたりしてないから・・・」

みかさんに代わってすぐ、受話器の向こうから楽しそうな声が聞こえた。

な、なんだよ雅子。私に対しては怒鳴ってばかりだったのに・・・。

「うん、うん・・・でもね、雅子だって悪いんだから、私にも相談しないで、酷いじゃない。それに、雅也さんだって、このことがバレたら人生終わっちゃうわよ」

電話口から、何やら恐ろしい会話が聞こえてくる。

確かにここで雅子に真相がバラされたら、人生終わっちゃうかもしれない。

近所からは女子校に忍び込んだ変態と蔑まれ、友人たちも一斉に罵倒するだろう。

「うん、うん・・・ふふふ、わかったわ。伝えておく。それじゃあ、ごきげんよう、おやすみなさい」

がチャっ

「え!切っちゃったの!?」

「ええ。兄さんとはもう話すことはないって」

「ひ、酷いよ雅子・・・でも、話すことがないってことは」

「ええ、渋々だけど身代わりについては承諾したわ。バカな兄ですがよろしくお願いしますだって」

「やった!ありがとうみかさん!」

「待って!喜ぶのは早いわよ。最初に言っておくけど、今度誰かにバレたら、本当に終わりなんだからね」

「う、うん」

「それと、雅也さん。今後は私達二人きりのときでも、雅子のままでいるようにして。どこで話を聴かれてるか、わかったもんじゃないんだから、警戒はしておかないとね」

「わかりました」

険しい表情で視線をぶつけるみかさんの顔からは、2度目はないという強い意志が見て取れた。

そうだ、浮かれてる場合じゃない。

もう二度と正体がバレないように、これからは徹底して『斎藤雅子』になりきらなきゃ。

「それと・・・私、協力はするけど、個人的に雅也さんのこと嫌いだから、あまり甘えて来ないでね」

「え・・・」

「それじゃ、おやすみなさい」

「・・・・・」

みかさん、私のこと嫌いだったんだ。

そりゃあそうだよな。何食わぬ顔して女装して、友達になりすまして迷惑かけるやつなんか、好きになるはずがない。

でも・・・いいんだ。

ここには遊びに来たわけじゃない。

雅子の為にやればいいんだ。

明日からまた頑張ろう。

おやすみ、雅子・・・

こうして、みかさんにバレたものの、協力してもらえることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る