人狼ジャッチメント
@tomomo520
アンナ×サンドラ←ジェシカ
「私サンドラちゃんのこと信じてる!だから守る!!」
私の手を握り必至に握りながらジェシカが言う。
まるで従順な犬、あながち間違ってはいないのだけれど。
「……ええ、信じてくれてありがとう。必ず勝ちましょうね」
にっこりと笑いかければ、私の手を握る手に力がこもる。
安心させるようにジェシカの手に自分の手を重ねる。
こんな白くか弱い手に命を握られてるのか思うととても複雑だ。
「ジェシカ、紅茶を用意するわ」
「……」
そういうと、渋々と私の手を離す。幻の耳と尻尾が垂れ下がり、きゅうんと効果音がなりそうな目で見つめられる。そんな目で見つめられると困る。
よしよし、と頭をひと撫でしてやると気持ちよさそうに目が細まる。正直、番犬というより子犬だと思う。
ある程度撫で満足させると、紅茶の用意にかかる。
最初は見ず知らずの館のものを使ってもいいものかと思案したが、
4日目ともなると慣れるというものだ。
お湯を沸かし、ジャーといつも通りカップに流す。
ティーバックを二つ取り出し、それぞれのカップに入れる。
そして皿を被せて蒸らし、ティーバックを静かに引き上げる。
最後の仕上げに“お砂糖”を混ぜれば完成だ。
「はい、ジェシカ」
被せていた皿ソーサーにしてジェシカに運ぶ。
「いつもありがとう!サンドラちゃん」
顔をぱぁと輝かせ、紅茶を受け取る。
何が入ってるのか疑わず、すぅと静かに紅茶を啜る。
「……」
それを見届けてから自分の紅茶を運びジェシカの隣に座った。
「……ぅん………」
ほんの数十秒だったと思う。ジェシカの頭がグラグラと揺れだし、声は今にも眠りそうになっている。
「ジェシカ眠いの?」
「……」
返事がままならないほどに眠いようだ。
「そう、なら私の膝で眠るといいわ」
ジェシカの頭を優しく触り、自分の膝まで寄せる。
「おやすみ、ジェシカ」
頭をそっと撫でてやると、ジェシカはすぅすぅと夢の中に落ちたようだった。
コンコンコン。
控えめなノックが三回。
「入っていいわよ」
ジェシカを起こしてしまわないように、けれども部屋の外にいる“訪問者”に聞こえるよう、声を張り上げる。
ギィ。
無言でゆっくりと扉が開かれる。この瞬間は4回も経験していると言うのに未だに慣れない。一瞬一瞬に神経が研ぎ澄まされる。
小柄な女性がやっと通れるほど小さな隙間から彼女ーーアンナは顔を覗かせた。
コツコツ、といつもブーツの音がゆったりと近づく。
「相変わらず、よくあなたに懐いてるわね」
ソファーの淵に腰をかけ、少し怪訝顔をしかめるアンナ。
「……私の番犬可愛いでしょ?」
うふふと、自慢するかのように笑ってみせる。
「あんたそんなこと言ってられる状況じゃないでしょ。本当なら噛み殺される盤面なのよ」
呆れた、理解できない、と言う顔をされても可愛いものは可愛いものよ。可愛いは正義、なのよ。
「…ねえ、アンナ」
「なに」
アンナの顔を見れずに目線は遠くを見つめる。
「私たちって勝てるのかしらね?」
沈黙が流れる。答えに困っているのだろう。少し意地悪な質問をしてしまったかもしれない。アンナは明日釣られて不思議ではないし、私はジェシカに噛み殺されるかわからない。そんな状況で嘘でも「勝てる」などとは言えない。
「…さあね。そんなの明日になってみなきゃ、わかんないわよ」
声色からはなにも読み取れないが、誰よりも賢い彼女がこの盤面がわからないはずあるまい…励ましてくれてるのだろうか。
「そ、うね」
かろうじて絞り出した声は少し震えている。
わかっている、わかっているのだ。“私達”が勝てないこと。
でも、それでも彼女と共に生きて出られることを望まずにはいられない。最初は役職だけの関係だったかもしれない、けれどそれはいつしか本当の愛に変わった。私は彼女を本気で愛している。
せめて、明日死んでしまうのなら今伝えたい。
「愛してるわ、アンナ」
次の瞬間唇に柔らかいものが触れる。
なにが起きたのか、脳が判断する前にゆっくりと“それ”は唇から離れた。
「…それじゃあ、また明日」
してやり顔で笑うとアンナは出て行ってしまった。
「は、ぁっ」
彼女のいなくなった部屋の中で、脳は冷静を取り戻す一方で心臓はうるさいほどバクバクし始める。
あれは一体何だったんだ。初めての、初めてのキスだ。そう自覚した途端ぶわぁ顔が熱くなる。
どうして、と言う疑問が頭を埋め尽くす。たしかに私たちは“恋人”だ。でも「愛してる」なんて初めて行ったことだし、ましてやキスだなんて…。
もしかしてアンナなりの答え、なのだろうか?
唇に残る熱をそっと触れ、悶々と夜を過ごした。
アンナ→囁く狂人(恋人)
サンドラ→狩人騙りの黒猫(恋人)
ジェシカ→サンドラ付き番犬
役職紹介
・囁く狂人→狼陣営。狼と実際に会話できる狂人のこと。
・黒猫→狼陣営。処刑されると狼以外の生存者を道連れに持っていく。
・番犬→「飼い主」を選び、飼い主が人狼に襲撃された場合守ることができる。まだ噛み殺すことも可能。
人狼ジャッチメント @tomomo520
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