第71話:レア

「おいおい。ずいぶんと卑怯な――」


 現れたロストに、そう啖呵を切ろうとした御影を雌雄は手の動きで制した。

 そして仲間を背中に、ロストの方に少しだけ歩みよる。


「『いつもっろうを待つ』作戦というわけですか。……いえ、迎え撃つのはわたくしたちですが、似たり寄ったりですね」


 苦笑を見せる雌雄だが、彼はロストを貶したり責める言葉を口にしない。

 そこはさすがだと、シュガーレスは感心する。


 そもそもロストたちは1パーティー対3パーティーという不利な状態で戦わされていたのだ。

 彼らが勝つには、ありとあらゆる策を講じなければならないのは当たり前だ。

 それにこの程度のこと、卑怯でも何でもない。

 自分たちの力を温存し、敵が弱ったところを叩く。

 それは戦略的な基本。

 ロストがとった策は、この状況の戦場いくさばならば当然の選択と言えた。


(他の者は別として、これを卑怯と言うほど、雌雄坊もあまくはないからのぉ)


 雌雄の中の人前世がどのような人物か、シュガーレスは知らない。

 しかし初めて会ったときから、器の大きさを認めていた。

 だからこそ、雌雄に誘われた【鳳凰の翼】に加入したのだ。

 そのようなことでもなければ、シュガーレスはユニオンになど興味はなかったのだから。


 否。そもそもゲームにも興味などなかった。


 シュガーレス=【沙藤さとう れい】は、武闘家であった。

 武闘家という言い方は、非常に大雑把で雑で何も表していない気がするが、麗子は自分にはピッタリだとも思っていた。

 彼女が武道に触れたのは、生まれたときからだと言えるかもしれない。

 親が【天覇てんは統一合気道】という流派の道場主だった。

 だから彼女は、物心がついたときからすでに畳の上で稽古に励んでいた。

 それが日常だった。


 ちなみに麗子が習った流派は、剛法たる打撃技に重きを置かない合気道においては異色で、どの流派よりも剛柔一体の技を求めていた。

 それもまた、「合を和す」という合気道の道だと考えられていたのだ。

 また、他流試合もよく行われていた。


 そんな中で育った麗子は、強さに、技に誰よりも貪欲になっていったのだ。


 戦っている内に、他の流派を学び、他の武術を身につけ、独自の強さを求めていった。

 小学生の内に師範代から一本取るほどの力を得て、中学に入るとその強さは師範たる父親に凌駕していたのだ。


 彼女は貪欲な強さを求める心は、道場だけでは物足りなくなった。

 中学を卒業すると、日本各地を飛び回るようになり、さらに知人のツテで中国に渡って八卦掌、形意拳、鷹爪翻子拳ようそうほんしけんなど学びながらも、いつの間にか世界中を旅して武術の腕を磨くという時代錯誤な人生を送っていた。


 しかも、1人で旅を続けたのである。

 言語を短期間で習得し、金銭を効率的に稼ぎ、人脈を築き、多くの技を自分のものにしていった。

 麗子は、いろいろな意味で天才だったのだ。


 ところが後年。

 ずっと元気だった父親が亡くなり、道場の跡継ぎ問題などから実家に帰ることになる。

 そして当時、師範代を勤めていた男性と結婚することになり、子供も生まれ、孫も生まれ、一般的に言われる幸せは手に入っていた。


 しかし、その間も麗子は武術を磨き続けた。

 極めることで、「ただ強い」ということだけではなく、なにか見つけられるのではないかと考えていたのだ。

 ある意味でそれは、満たされない心を満たすための足掻きだったのかもしれない。


 しかし、それはただの悪足掻きに過ぎなかった。

 いかに鍛えようと、迫り来る老いにはどうしても勝てなかったのだ。

 これ以上、過激な武術を続けられない。

 そう医者から告げられたとき、心の中でポキッとどこかの骨が折れてしまったような気がしていた。


「おばあちゃん、このゲームを一緒にやらない?」


 そんな麗子を家族は心配してくれた。

 特に孫娘の【天海あまみ】は、いろいろと気を使ってくれて、ある日に自分の小遣いを叩いてまで(それでも足りず親に借りてまでして)、麗子にあるゲーム機を持ってきてくれたのだ。


 そのゲームこそが【ワールド・オブ・スキルドミネーター】。


 スキルという技術がすべての世界で戦い、生きるリアルゲームワールド。

 もちろん、最初は断った。

 しかし、孫娘がわざわざ無理をしてまで自分のために用意してくれたというのに無碍にもできない。

 だから一度ぐらいは試そうと、天海に言われるままにゲームを始めたのだ。



「なんじゃ、この見た目は? 小さな子供じゃないか。天海、これがわしなのかい?」


「おばあちゃん、キャラ作りとか面倒でしょう。私もね、自分用に幼女キャラ作ったから」


「天海は高校生じゃろうが。なんでこんな幼子に……」


「ゲームなんだからいいんだよ、別の自分になるんだから。でね、似たようなキャラを私が作っておいたの。おばあちゃんと私、姉妹設定ということでどう?」


「あ、天海とわしが姉妹じゃと?」


「気にいらないなら作り直してもいいけど……」


「いやいや。これはいい。ならば、ゲームに詳しい天海がお姉さんじゃのぉ」


「あははは。それいいね。おばあちゃんが妹ね! あ。自分の名前は、おばあちゃん自身が考えてね。私は『天海』だから、『あまみ』で、【シュガースイート】。『沙藤さとう』に『砂糖』もひっかけてね」


「わっははは。甘そうな名前じゃのぉ。ならばわしは……麗子じゃから……ゼロ……うーむ……おお! 【シュガーレス】でどうじゃ?」


「いいね!」



 こうして、ちょっと孫娘と気晴らしに遊ぶ、そんな気楽な気持ちで始めたWSD。

 そのはずだったが、そこに広がっていたのは麗子の想像を遙かに超えた世界だった。

 匂いがある、感触がある、手足が思ったように動く、呼吸できる、飲食ができる、そして手加減無用の戦いがある。

 まさかゲームがこんなにリアルになるとは、思いもしなかったのだ。

 もちろん、宣伝等でどんなものかは知っていたが、体験して感じることとは段違いだ。

 現実と違うこともあったが、偽物というよりは、としか思えない。


 この年まで感じたことのなかった感動が、荒波のように次々と麗子を襲ってきた。


 その中でも、もっとも感動したのが肉体だった。

 もう全盛期のように思い通りに動かなくなり、老い先長くないかと思っていた肉体が若返っただけではなく、本当の肉体よりもイメージ通りに動くのだ。

 しかも、肉体の基本性能は現実を凌駕している。

 子供の見た目ながら、超人的な肉体を思い通りに動かせる快感。

 それはまさに異世界に転生でもしたかのような、未知の高揚感だった。


 結果、すっかりはまってしまったのだ。



「おばあちゃん、また1人でレベル上げしてたの? あんまりあげすぎたら、わたしと遊べなくなっちゃうじゃん」


「おお、すまんのぉ。大丈夫じゃ。しばらくは、技の練習しとるからレベル上げは休んどくよ。未だに小さい体には慣れんからのぉ」


「ああ、もう。技の練習って、そっち? どうせまた取得したSPでスキルを覚えなかったんでしょ? 最低限しか覚えてないじゃない。いいかげんいろいろなスキルを覚えなよ」


「何度も言うとるじゃろうが。わしにはあのスキルとかいうのはゴチャゴチャしていて難しくてのぉ。面倒だから、これでいいんじゃよ」


「もう、面倒ってまた。それでRPSも設定しないから、ロリババなんて言われるんだよ。それにスキルも覚えないから、なかなかパーティーに入れてもらえないし。……まあ、確かにおば……シュガーレスは、そのままでも強いけどね」


「ほほほ」


「ってか、なんでそんなに動けるの? この前なんて、β時代からの冒険者が『自分よりすごい』って、シュガーレスの動きに驚いてたじゃない」


「ほほほ。簡単じゃよ。頭の天辺から足の指の先まで、すべてに神経を巡らせて肉体を支配する。現実と変わらんことをやればいいだけじゃ」


「そ、それ、ぜーんぜん簡単じゃないよ……」



 孫娘と遊ぶのは、なかなか楽しかった。

 いや。孫娘というより、友達、戦友のような感覚で一緒に過ごした。

 そう。WSDの天海は孫娘ではなく、シュガースイートという相棒。

 そして自分も、麗子ではない。

 シュガーレスという、ひとりの武闘家であり冒険者なのだ。

 シュガースイートとの冒険は、本当に楽しかった。


 ところがしばらくすると、たまたまとあるクエストで臨時パーティーを組んだ雌雄からユニオンに誘われることになる。


 有名ユニオン【鳳凰の翼】のユニオンマスターからの勧誘に、シュガースイートは諸手を挙げて喜んだ。

 一方でシュガーレスは、自分がスキルを覚えていないことで躊躇ったのだ。

 ゲームシステムに詳しくないシュガーレスでも、しばらくこの世界にいれば、スキルを覚えていないことがどれだけ敬遠されることかはさすがにわかる。

 だから、シュガーレスはそのことを雌雄に告げて、断ろうかと思っていた。


 ところが、雌雄は「関係ありません」と一蹴する。



「スキルがあるかないかなどではなく、わたくしは実力主義。実力があれば、それでよいかと思っています」



 そう告げた雌雄の明眸を見て、シュガーレスは彼の器の多きと同時に、「おもしろい」と感じてた。

 ゲームの中のキャラクターに過ぎないはずなのに、その眼光には確かに強い意志が宿っていたのだ。

 だからこそ、シュガーレスは【鳳凰の翼】に籍をおいた。


(まあ、そんな雌雄坊ならば、ロスト坊のことも本当は気にいっているはずなんじゃがのぉ。最初に否定してしまったから、素直になれんとは雌雄坊もかわいいところがあるもんじゃのぉ)


 黙笑しながらシュガーレスは、今の雌雄の背中、そして不敵に立つロストを見ていた。


(スキルを持たないではなく、無駄なスキルばかり集めている……ともなれば、ふざけた奴だと思ってもしかたあるまいしなぁ。しかし蓋を開けてみれば、こやつは雌雄坊よりもおもしろいときておる……)


 先ほど戦っただけでも、ロストがただのふざけた男ではないと充分にわかった。

 さらにこの男は、まちがいなく頭が切れる。

 雌雄も頭脳派ではあるが、ある意味で正当派、言い方を変えれば善人タイプだ。

 対してロストは、邪道であり、言い方を変えれば悪人に近い。

 勝つために手段を選ばない……ということはないが、グレーゾーンにまでも手を伸ばし、打てる手はすべて打つタイプだ。


「【鳳凰の翼】……わたくしたちを倒すと仰いましたか?」


 ロストの挑発に、雌雄が冷静に乗っかる。

 出方を見るつもりなのだろう。

 背中のマントを軽く手で払うようにしてたなびかせる。


「本気で、わたくしたちを倒せるとお考えで?」


 そう雌雄は挑発するが、彼もわかっているはずだ。

 ロストは、本気で【鳳凰の翼】に勝てると考えている。

 だからこそ、このタイミングで姿を見せたのだろう。



雌雄≫ みなさん、気がつかれないように石を調合してください。わたくしが時間を稼ぎます。



 パーティー会話で雌雄が指示をだす。


 アイテム・ポーチに入れられるポーション系アイテム数には限りがある。

 だからダンジョンでの長期戦には、ポーション系の他に魔石系と呼ばれる回復系アイテムも所持する必要性が出てくる。


 一般的に、すばやく魔力や体力を回復する方法には、飲み薬型のポーション系を飲む方法と、【命溜石めいりゅうせき】や【魔溜石まりゅうせき】といった魔石――通称「石」――を使う方法がある。


 ポーション系は、プレイヤーたちに調合するスキルはないが、安価に薬師から購入ができる。

 つまり金さえあれば手軽に入手できるが、使用時に小瓶の中の薬を飲む時間が必要となる。


 対して魔石系は、素材が高価ではあるが、プレイヤーたちが魔石調合のスキルで作りだすことができる。

 また、使用時は石を割るだけで効果を発揮するという即効性がある。


 もちろん、魔石系の回復アイテム数も所持できる数には限りがあるが、その素材は当然ながら別アイテムとしてカウントされる。

 だから、より多くの回復系アイテムを所持するためには、素材のままで持ち込んで現地で調合するのが普通だった。


 たとえば、体力を回復する【命溜石めいりゅうせき】を作るのには、【魔元石まげんせき】と【スタミナの果実】があれば作れる。

 基本的にアイテム・ポーチから取りだして手作業で行うのだが、調合の成功率を犠牲にすれば、アイテム・ポーチ内で思念操作により調合を終わらすこともできる。


(まあ、レベル50以上ならば、【命溜石めいりゅうせき】の調合は100パーセントの成功率じゃ。それは常識。だからこそ、腑に落ちんのぉ)


 指示に従って調合をしながらも、シュガーレスは2人のやりとりをうかがう。


「わたくしたちに、中ボスの露祓いをさせ、それが終わった直後を狙うとは……。あなた方が勝つためには、それしかないと考えたのでしょうけどね、ロストさん」


「いえいえ。あなた方に勝つだけなら、そこまでしなくてもいいんです。ただ、ので」


 ロストも、のんびりと構えて雌雄の話につきあっている。

 時間を与えれば、魔石を作ることができる。

 それは、ロストとてわかっているはずだ。

 せっかく薬切れしたであろうタイミングを狙って挑んできたのに、それでは意味がない。


(というより、そのタイミングをどう計ったのかの方が問題じゃがのぉ……)


 シュガーレスは、横目でレアとラキナをうかがう。

 推測通りならば、こちらのパーティー会話もロストに筒抜けのはずだ。


(宝箱はまだ開けておらんから、補給物資を手にいれられておらん。ならばわしらが石を調合する前にけりをつけるが最善のはず……なのになぜじゃ?)


「ロストさん。あなた方は確かに元気なようですが、1パーティーにも満たない4人ですよ。大してこちらは、6人います。いくらなんでも、あなたの自信は過剰ではありませんか?」


「確かに6対4ならそうでしょう。しかし、4対4ならばどうでしょう?」


「……まさか4対4の勝ち抜き戦でもやろうなどと、言いだすわけではありませんよね? わたくしたちが受ける義理など――」


「――違いますよ」


 雌雄の言葉を遮って、ロストが手を横にふる。


「僕が言いたいのは、勝率の話です」


「……勝率? 4対4でのですか? そのような勝率に何の意味が……」


「ありますよ。4対4で戦ったとき、僕たちの方が勝率が高いとしたら、はどうすると思います?」


「残りの2名? ……まさかっ!?」


 雌雄はふりむいてレアを睨む。

 それはきっと、意図して睨んだわけではない。

 否定を望む心を象り、歪んだ結果だ。


「そんな怖い顔をしないでよ。わたしは勝率の高い方につくわ」


 だが、レアは妙に明るい笑顔で受け流す。


「そ、それは……」


「悪いはね、雌雄さん。わたしたち、ドミネートに戻らせてもらうわね」


 あまりにあっけらかんと言い放つレアに、御影とリンスの口があんぐりと開く。

 想定はしていたシュガーレスとて、目の前で平然としているレアの図太さにはさすがに驚いてしまう。


「最初から裏切るつもりだったのですか?」


「裏切るってのとは違うわね。もし、あなたたちの方が勝率が高いようなら、最後まで【鳳凰の翼】にいてもいいかなって思っていたのよ。ただ、予想通りだったけど……」


「つまり、我々の方が……勝率が低いと、最初から思っていたのですか? わたくしより、あのハズレ男の方が強いと?」


「……ねえ、雌雄さん。あなた、わたしがこのダンジョンの最高レベルを上げているといったわよね」


「ええ。あなたぐらいしかいないでしょう」


「違うわ」


「……え?」


「このダンジョンで最高レベルは、わたしじゃないの」


 レアは先ほどと同じ笑顔のまま、目線である人物を示した。


(まさか……)


 シュガーレスは、自分の顔がひきつるのがわかった。

 レアのレベルを聞いたとき、彼女ほどの実力者だからこそ、65というありえないレベルに達することができたのだろうと思っていた。

 それを超えることができる者など、さすがにいるわけがないと思っていた。


 だから、レアが目で示した人物――ロストを注視したときに驚いた。

 今まで隠れていた、彼のレベルが明らかになっていたからだ。


「レ、レベル……72……じゃと!?」


 60を超えていることでさえ信じられないのに、さらに70の壁までも超えている。

 そんなのは、プレイヤーではありえない。

 魔王か英雄の類しか存在しないはずだ。


「ば、ばかな……あなたは一体……」


 雌雄が一歩後ずさりをして、今まで見たことないほどの狼狽を見せる。

 御影とリンスなどは、先ほどから目と口を大きく開けっぱなしのままで、声さえだせないでいる。

 いや、もしかしたら呼吸さえ忘れているのかもしれない。


「しかも、な、なんなんですか!? ロストさん、あなた、冒険者ではなく【支配者】というステータスになっているではありませんか!」


「はい。この世界に来てから、いろいろありまして冒険者の肩書きはハズレてしまったんですよ」


「ハズレた……そんなばかな……。まっ、まあ、そのことは、い、いいでしょう。今はおいておきましょう」


 雌雄は落ちつくためか、大きく深呼吸をしてから改めてロストを睨む。

 たぶん、整理できなかったのだろう。

 だからと言って、いつまでも狼狽している雌雄ではない。

 よくわからないことは横に置き、足がかりを得るためにもわかる事柄から彼は攻めていく。


「もし……あくまでもしですが、あなたのそのレベルが本当だとするなら、レアさんの勝率の根拠もわからないではありませんね」


「い、いや、それはおかしいじゃんかですよ!」


 御影が横からツッコミを入れる。


「なら、なんでさっき老師と戦ったときに負けやがったんですよ!? いくら老師が強くても、72もあれば58の老師に負けるわけ……」


「それはわざとでしょう」


 答えたのは雌雄だった。

 頭に乗った小さなシルクハットを手で直しながら、彼は御影を一瞥しする。


「わざと……?」


「ええ。かるく老師と手合わせして技量をはかったのでしょう」


「そ、それでも、勝てると思ったなら……」


「中ボス……ですよ」


「え?」


「このダンジョンが自分のレベルに調整されていることをわかっているロストさんは、わたくしたちだけでは中ボスに勝てないと踏んだのでしょう。だから、レアさんとラキナさんをヘルプとしてこちらに回した。そして、わたくしたちのリソースを使うことで、自分たちの被害を最小に中ボスをクリアする……違いますか?」


「残念ながら違います」


 ロストはまた手を横にふる。

 しかし、その顔は今までと違い、少し渋い表情を見せていいた。


「僕は、せいぜいあなた方が中ボスに負けて疲弊しているところを狙うだけのつもりでした。それをレアさんが、勝手にあなた方を利用して中ボスを斃すことにしてしまったのです」


 そう言って、ロストは先ほどの返しばかりに目線でレアを示す。


「まったく、レアさんには参りますよ。本当に自分勝手で……」


「自分勝手なんて、酷いわね。言ったじゃない。『わたしは少しでも勝てる確率が高いを選ぶ』って。このが、一番勝率が高いと思ったのよ。これもドミネートのためじゃない」


「よく言うですわ! 先ほど、自分で雌雄さんたちの方が勝率が高ければ戻らなかったと言ったではありませんかですわ!」


 ロストの仲間であるアンジェン族の少女が声をあげた。

 そして、その横にいたデモニオン族の少女がそれに続く。


「そっ、そうですよ……。お、おいしいどころ取りしようと……していました。う、裏切るつもり……マンマンでしたよね」


「でも……」


 さらにフォルチュナというエレファ族の女性も言葉を続けた。

 彼女はロストの傍らに立つと、その革鎧の腕にそっと触れる。


「ロストさんは、レアさんを信じていた……んですよね?」


「ええ、まあ。ただ、レアさんをというより、彼女の欲を信じたんですけどね。彼女の欲深さはよく知っていますから。それを信じていました」


「へっ? よ、欲深さを? それはどういう……」


「彼女は、その名の通りレアなモノが大好きなんですよ。誰につくか考えた時に、一番レアな物が手に入りそうなのは誰ですか? そして僕よりレアな者はいますか?」


「あっ……」


「そういうこと!」


 そしていつの間にか、ラキナを従えたレアもロストの横に立っていた。


「この世界で、物欲センサーがわたしに都合よくて、面白くて、楽しませてくれる、そんなレアな奴は他にいないわ。ロストはね、選んでも絶対にハズレない、ハズレ好き男なの。だから、わたしが選ぶのは、こいつだけなの!」

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