第49話:同盟計画③
「たかが『運営がもう1人いる』という情報が、同盟を組むに値する価値があると?」
「あります」
シャルロットの言葉に、ロストは自信満々に答えた。
「……ずいぶん、自信があるようですが。それはつまり、そのもう1人が強い力をもっているということかしら?」
「その通りです。隠していても話が進まないのでお話ししますが、【影の魔王ベツバ】。彼が運営メンバーの1人です」
シャルロット、そしてレイも顔色を変える。
「か、影の魔王!? 六大魔王のキャラクターに運営が入る予定はありませんでしたよ!?」」
「それ言うなら、部長……シャルロット様も同じ事が言えるっすよ?」
「うぐっ……」
なるほど、シャルロットの中の人も予定外だったらしい。
勝手にログインして遊んでいたのだろうか。
動揺を見せるシャルロットに、フォルチュナはくすっと笑ってしまう。
「そ、それより、なぜベツバが運営の人間だと思ったのです?」
「彼もクレスト会議で、シャルロット女王と同じような失言をしていたのです。まず、創世神という言葉に笑いませんでした。さらに彼はこう言ったのです。『どうやってそのドミネーター・クレストを手にいれたのか?』と」
「……? それのどこが……」
「僕は自分の国やユニオンを【ドミネート】としか呼んでいません。ならば普通に考えて、僕のクレストは『ドミネート・クレスト』にならないとおかしいのです。しかし彼は、『ドミネーター・クレスト』と本当の名前を知っていました」
「それだけですか? それだけではたまたま……」
「もうひとつ。『連合に加わり、魔族と戦う意志があるのか?』とも訊ねられました。これもおかしな話です」
「ど、どこがです? 魔族の敵になる者なのか知りたいのは、魔王としては当たり前ではありませんか」
「この問いに疑問をもたないのは、シャルロット女王も運営だからですね」
シャルロットがレイと顔を見合わせる。
2人はわからないという顔をしているが、これはフォルチュナにもわからない。
「考えても見てください。いきなり現れたクレストもちの人物がどうして魔族ではないとわかったんです?」
「あ……。なるほど、そうですね」
「前知識がなければ、新しいクレストもちが人間なのか魔族なのかわからないはずです。しかし、ベツバはあたかも人間であるということを知っていたかのように訊ねてきました」
「つまりドミネーター・クレストを知っている上、魔王をプレイできるのは運営だけ……ということですか」
「はい」
「そこはわかりました。しかし、その事実が同盟とどう結びつくのです?」
「これはレイさんもなんとなく気がついているかもしれませんが、僕が留守の間に村であるトラブルがありました」
「ああ。なにか騒いでいたっすね。詳細は聞けなかったすけど……」
レイが苦笑する。
「レイさんのステルスを想定して、情報はパーティー会話等のみでおこなわせていただきましたから。実はベツバが村に侵入して、シャルフの資料や日記などを盗んでいきました」
「資料……って、まさか悪魔召喚のですか?」
「はい。相手はただでさえ八大英雄を上回るレベル90の魔王。その魔王が、悪魔召喚をしようとしているとしたら?」
「……戦力の増強……それとも別の……」
「ええ。とにかく何かを企んでいることはまちがいありません。もし、大量の悪魔を召喚することに成功し、彼がその悪魔と共に攻めてきたら、いくら英雄2人がいるイストリアとてどうなるかわかりませんよ」
「イストリア所属の冒険者も、少しずつだけどレベル60を目指し始めているわ」
「確かに向こうもすぐに悪魔を安定して召喚できるわけではないでしょう。それに召喚されたのが、レベル80以下の悪魔数十体ならば、冒険者総動員で対抗できるかもしれません。しかし、レベル85にもなれば、レベル60の冒険者たちが命がけで戦ってくれるでしょうか」
「85なんてありえません。すでに魔王レベルではないですか!」
「絶対にありえないと言えますか?」
「…………」
「確かに僕も魔王レベルがそうそう召喚できるとも思えません。されど、もう1人でも魔王レベルが召喚されれば、対抗できるのは八大英雄のみ。しかも、2名以上は必要でしょう。その状態で、もし魔王が2人攻めてきたらイストリアは保ちますか?」
「し、しかし、そもそもなぜベツバが。しかも、前世が運営の人間だというのに……」
「真意はもちろんわかりません。ただ、もしかしたら
ロストは、喉を濡らすためなのか紅茶を一口飲んでから話を続ける。
「ちなみに僕の予想だと、シャルフとベツバが繋がっていたと見ているのですが?」
「ええ。その通りです。シナリオでは、ベツバがシャルフを使って悪魔召喚の儀式を研究させていました。ベツバは、その悪魔召喚の儀式を使って、何かを企んでいるという設定です。何を企んでいるのかのシナリオは、まだ完成していませんでしたが、悪魔の仲間を呼ぶというような話になる予定でした」
「やはり。ともかく運営は、そういう裏事情をよく知っている人間です。今回もその情報を利用したと言えます。ほら、昔からラノベにはよくあったではないですか。知識チートの一種です。ベツバはゲームシステムをよく理解して、一般のプレイヤーさえ知らない情報を知っているから、物事を有利に進められる可能性がある」
「だから、この世界で上を目指しやすいと?」
「はい。さらに影の魔王は、領土をもたない謎の魔王。自由度が高く神出鬼没。さらにレベル90という存在自体が一般プレイヤーに比べてチートです。まさにラノベの主人公のような立場にいます」
「……八大英雄は、協力関係にあります。いざとなれば手助けしてもらえます」
「知っています。しかし、たとえ助けに来るにしても時間はかかるでしょう」
「そ、それは……まあ……」
「その点、僕たちドミネートのメンバーなら、すぐに駆けつけられる戦力になります。それに僕は、一般人を冒険者にできる。ご希望ならば兵士の一部を冒険者にして戦力を増強させることもできますよ」
「さらにあなたなら、召喚された魔王級の悪魔でも対抗できる可能性があると?」
「レベル上げが間にあえば、可能性はあるかと」
「つまり、あなたがイストリアを助ける3人目の新たなる英雄になるわけですね。しかし、あなたなら将来的に英雄を超え、魔王さえも超えられる可能性もあるのでは? そうなれば、リスクはあなたの方が上。あなたがもし独裁者になったら、そちらの方が……」
「ロストさんは、独裁者になんてなりません!」
今まで黙っていたフォルチュナだが、思わず口をだしてしまう。
「ロストさんは、優しい方です! 自分だけ良ければとか、一部の人間さえ良ければとか考えませんし、むしろ優遇の枠からハズレた人たちにこそ気をかける方です! そもそも本当は支配者とかになりたがったりしていません! 見ていればわかります!」
「フォルチュナさん、落ちついて」
ロストに静かにたしなめられて、フォルチュナは興奮のあまり自分が立ちあがっていたことに気がつく。
やってしまったと、赤面しながらも謝罪して腰をおろす。
ここしばらく、ロストがみんなのためにどれだけがんばってきていたのか、フォルチュナはずっと側で見ていた。
本当はもっと自由に冒険して、ハズレスキルを集めて楽しみたいと思っているのに、それを我慢して、さらに危険な命がけの決闘までしてがんばってきた。
だからこそ、彼を誤解などして欲しくない。
「うちの者がすいません。ただ、僕はもともと中心に立つより、ハズレたところに立つのが好きなのですよ。それに僕がハズレが好きなのは、
「…………」
シャルロットが、レイを一瞥する。
するとレイが苦笑しながらも、かるくうなずいた。
「わかりました、ロストさん」
つられるように、シャルロットも微笑する。
「同盟の話、前向きに検討しましょう」
シャルロットがそう応じたのとほぼ同時だった。
レアからプライベート会話で、サウザリフ自由同盟の国主たる【総代表】から書状が届いたと連絡が来たのである。
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