第46話:ロスト暗殺計画⑥
ロストの視界に「WINNER!」という派手な表示が現れた。
ゲーム時代にもよく見たPvP勝利時のメッセージだ。
だが、ゲーム時代と重みが違う。
この戦いで負ければ、本当に死んでいたかもしれない。
そして自分が死ぬだけではなく、ユニオン【ドミネート】のメンバーの行く末も真っ暗
となるだろう。
強気で挑んでいたが、それは相手を混乱させるためのブラフだ。
内心で恐怖を抑えつけていたのだ。
なにしろハズレスキルのコンボ技など、読まれればあっという間に切り崩されてしまう。
今回、おこなったコンボはこうだ。
ノーダンが「【
そのため、【
そして【エイム・ウィークポイント】を使って8本の剣を下に向かって投げる。
この8本を投げるのがなかなか大変だ。
投げた瞬間に【エイム・ウィークポイント】により敵の弱点に向かう。
しかし、次の剣を投げるとそちらに誘導性が移り、前に投げた剣の誘導性は失われてしまう。
つまり連投といっても少しずつずらして投げなくてはならない。
かといって間を開けすぎると、次の行動が間にあわない。
なにしろ8本の剣を投げ終わった後、レアからもらった【スローイング・サブトルシフト】を使わなくてはならないからだ。
この加減が難しく、ロストは森で何度も練習した。
おかげでレアの思惑通り、数日は経験値稼ぎどころではなかった。
ただ、使いこなすと非常に効果的である。
このスキルのおかげで剣が少しずつ外れて着弾し、敵を囲んで一時的ながら相手の移動を阻害してくれるのだ。
もちろん、ムーブ系で逃げることもできるが、そのために最後の1本を【スローイング・サブトルシフト】を切ってから時間差で投げていた。
また、使う剣は【魔紋剣クレスティア・リングゲート】にしていた。
この剣は幅の広い刃の大剣で、敵を囲むのには向いていた。
さらに、あらゆる魔術スキルを吸いとることができる。
ノーダンが放った【ファイヤー・ボール】のような魔術スキルによる反撃を阻害することが可能だった。
そして【スプリット・ハンドレット】で刃を分身させる。
これで30ヒット以上させれば、コンボ完成となる。
もちろん、こんな技が何度も決まるとは思っていない。
ぶっちゃけ魔物相手ではなく、対人戦で使う場合、1コンボ1度きり。
もし次に戦う相手が、どこかでこの戦いを見ていたらと考えれば、もうこのコンボを使うことは怖くてできない。
だから、こんな目立った形で決闘をやることは、ロストの主義に反していた。
それなのに決闘をなぜ受けたのかといえば、「予想している結果」のために「堂々とノーダンを斃した」という演出が欲しかったからだ。
(さて、どうなりますかね……)
キラキラとした「WINNER!」の文字が消えると、メッセージ通知のアイコンが視界の隅に表示される。
ロストはフローティング・コンソールを表示させて、そこに出てきた多くのメッセージに目を落とした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
神様≫ ▼告知:ユニオン【ドミネート】各位
神様≫ 【ドミネート国】の国主【ロスト】が、ノーダン領の領主【シミイーズ・ノーダン】を斃しました。
神様≫ ドミネーター・クレストの力により、ノーダンの領地を含めた資産は、すべてロストの資産となり、【サウザリフ自由同盟・ノーダン領】は【ドミネート国】の領土となりました!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やはりですか……」
表示を見ている間に、自分の背中がわずかに熱をもったことに気がつく。
振りむけば、そこにはドミネーター・クレストが輝いていた。
(シャルフを斃した時と同じ……)
あの時はユニオンがなかったので自分にしか告知が来なかったが、ユニオンがあるとメンバー全員に通達されるらしい。
(意志確認もなしに領土戦になるのは、ずいぶんと乱暴な仕様ではないですか、神様)
ただのユニオンだった【ドミネート】が、国になったのはシャルフの領土を得た時だ。
面倒なので国名設定もそのまま【ドミネート】としてしまったが、もう少し捻れば良かったかと後悔している。
(まあ、ユニオンの名前も適当につけてしまいましたしね。そんなことより……)
ロストはため息をつきながら、目の前を見る。
そこにはすでにHP0となったノーダンの死体があった。
約束ではこのままにしておくことになるが、それはそれで目覚めが悪い気がする。
しかし、蘇らせたら蘇らせたで面倒なことになりかねない。
(あれ? でも、リバイブのターゲットにできない……あっ。そうか。神様との誓約のせいですか)
忘れていたが、戦闘前に創世神クリアに誓っていたのだ。
つまりこれでロストは初めて人を殺したことになる。
(だけど……なんでしょうかね、この感覚。罪悪感が……)
「ロストさん!」
ロストが手を見つめていると、自分を呼ぶ声がいくつも聞こえてくる。
顔をあげれば、緑の長髪を振り乱しながらフォルチュナが駆けよってきていた。
その後ろには、ジュレとチュイルも一緒になって走っている。
ただ彼女たちの表情は、ロストが勝利して安心した……というだけではなかった。
そろいもそろって目をくりくりとさせて困惑した顔を見せている。
もちろん、理由はわかっている。
「ロストさん、無事でよかったです。でも、このメッセージって……」
「ええ。シャルフの時と同じですね。このノーダン領は僕たちの土地になったようです」
「そ、そんな簡単に……。サウザリフ自由同盟の承認もなく、完全に侵略行為ですよね。それに、ここの領民たちだって納得するはずが……」
「それなんですが、僕の方にはこんな機能が表示されていまして」
ロストはフローティング・コンソールに表示されているログを他人にも見えるように設定を変更する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
神様≫ ロストはドミネーター・クレストの神託機能を使うことができます。
神様≫ 全国民に対して、【ドミネート国】が新たな領土を得たことを神託として通達することで、元ノーダン領民はドミネート国民になった事を認識します。
神様≫ 使用しますか?
[はい] [いいえ]
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ジュレとチュイルはわからないと首を捻る。
一方で、フォルチュナは少し青ざめて、口元を隠す様に手を添えた。
「認識……。たぶんこれ、私たちがこの世界を受け入れたときと同じように、無理矢理認識を変えさせるということですよね?」
「そう思います」
知識を常識を認識を書き換えられる感覚。
当たり前ではないことが、いつの間にか当たり前になっている違和感。
いや、下手すれば違和感さえ感じないでいる。
ロストは、ふと気がつく。
こちらの世界に来て、人を斬り、血を見て、とうとう人を殺してしまったというのに、それが「日常の世界」にいるこの感覚。
これもあの神による改変なのかもしれない。
「クレストの力……空恐ろしいものがありますね」
フォルチュナが少し震える声でそう言った。
ロストは首肯する。
「あの神様の力ですからね。
「やるしかないのではないでしょうか」
すぐさまでたフォルチュナの意見は、ロストにとって意外なものだった。
今さっき恐ろしいと言ったばかりなのに、その恐ろしいことを実行してみろと言っているのだ。
「村1つの話ではなく、ノーダン領にはこの街以外にも村がいくつかあるはずです。このままでは混乱するばかりで被害が出る可能性もあります。それを早急に治めるには、あの神様の力でも使わないと無理でしょうから」
「そうなんですよね……」
ロストとてそれはわかっていたことだ。
そのためにいろいろと方法を考えてはいたが、そのどれも決定力に欠けるものだった。
しかし、この神託が想像通りのものならば、問題は一気に解決される。
「ただ、この通達をおこなうことで何がどうなるのかよくわからないのが……」
「反応は見られそうですけどね」
そう言ってフォルチュナが見たのは、ノーダンの連れてきていた兵士たちだ。
全員、あきらめたのか大人しくその場にとどまっていた。
「まあ、悩んでいてもしかたないですしね」
ロストは、決心するとあっさり[はい]を選択した。
とたん、フローティング・コンソールにシステムメッセージならぬ、神のお告げが流れてくる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
神様≫ ▼神託:【ドミネート国】国民各位
神様≫ 【ドミネート国】の国主【ロスト】が、ノーダン領の領主【ノーダン】を斃しました。
神様≫ ドミネーター・クレストの力によりノーダンの領地を含めた資産は、すべてロストの資産となり、【サウザリフ自由同盟・ノーダン領】は【ドミネート国】の領土となりました!
神様≫ 元ノーダン領民は、すべてドミネート国民となりました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラクターのプロパティには「所属国」という項目がある。
プレイヤーの所属国は、4つの国からキャラクター作成時に選ぶことができるし、ゲーム途中でも所属国を変える方法はある。
元NPCの先住人たちにもその項目があるため、すでに書き換わっているはずだ。
「ロスト様、兵士さんたちが頭をさげているでござるミャ」
ジュレにうながされて捕らえていた兵士たちを見ると、確かに全員がこちらに向かって片膝をついて頭を垂れていた。
近づいて話を聞いてみると、「領民を守る仕事」に忠誠を誓っているようで、ノーダンという貴族に忠誠を誓っているというわけではなかったらしい。
だから、今後はロストの指示に従うというのだ。
つまり、頭がすげ替えられてもやることは変わらないということなのだろう。
そもそも彼らも、ノーダンの裏の顔を知っていたようで不満はもっていたという。
だからノーダン個人を慕っている者でもない限り、先ほどの神託で納得してしまったのであろう。
それはまさに鶴の一声ならぬ、神の一声ということだ。
(強引ですが、まあこれで国内はいいとして。問題は外交ですね……)
村ひとつのサイズから、その20~30倍の領土になってしまったのだ。
こうなれば、イストリア王国もサウザリフ自由同盟も黙ってはいないだろう。
すぐに村に戻って対策をとらなければならない。
「ドナさん、ちょっとすいません」
ロストは兵士たちを見張っていた中にいたドナに声をかけた。
ソイソスの事情に詳しい彼女が、元奴隷たちを見つけては交渉してくれたり、貴族の情報を調べたりといろいろと動いてくれていた。
そのおかげでロストの立ち回りが非常に楽になっていた。
ここの元奴隷たちの指揮も、彼女が統括してくれていたのだ。
「あなたが言ったとおり、非常に愉快な結果に満足。まさか領地まで奪略するクレスト所持者とは予想外」
ロストの目の前に来ると、ドナはそう言ってくすりと笑った。
その表情は、どこか肩の力が抜けてすがすがしい感じがしていた。
「ご満足いただけたならよかったです。さて、あなたの役目はこれで終わりですから、ここで報酬の支払いを――」
「――切願」
ドナが兵士たちと同じように、いきなり片膝をつき、デモニオン族特有の曲がった角が付いた頭を垂れた。
「報酬は不要。その代わり、我もこのままドミネートの一員として働かせて欲しいと要望」
「……ドナさんは優秀な人材ですから、こちらとしてはありがたいですが。もう自由なのですから縛られることも……」
「先ほどの戦闘を見て確信。あなたは、まちがいなく強者。そして頭脳明晰。我はあなたに仕えてみたいと思考」
正直、使える人材はいくらでも欲しい時だ。
今回のソイソスでの活動を見れば、ドナがその使える人材であるということはまちがいない。
ならば、ロストに断る理由はない。
サイドにいるフォルチュナや、ジュレとチュイルの視線がどうにも突き刺さる気がするが、やはり人材確保は最優先課題のひとつなのだ。
「わかりました。では、よろしくお願いいたします」
「御意」
「まず、フォルチュナさんたちと一緒に、手伝ってくれた冒険者のみなさんと、兵士のみなさんを――」
レア≫ ちょっとロスト!
レア≫ あんた、いったい何してんのよ!
そこにハイテンションで興奮気味のレアからプライベート会話が届く。
仕方なくドナたちに待ってもらって、意識をレアとの会話にもっていく。
レア≫ いきなり領地拡大するなんて!
レア≫ 地図を見てびっくりよ!
レア≫ まったく何十倍よ、これ!
ロスト≫ まずかったですか?
レア≫ ――グッジョブ!!
ロスト≫ ……まあ、そういう反応ですよね。
ロスト≫ 詳しくは帰ってから話します。
レア≫ ああ、うん。
レア≫ それはそれとして、ひとつ悪い報告があるの。
ロスト≫ 何かありましたか?
レア≫ それが村に侵入した奴がいて、シャルフの悪魔召喚に関する資料がまるまる盗まれちゃったんだ。
レア≫ 留守を任されていたのに、ゴメン……。
ロスト≫ レアさんが対応できなかったなら、それは仕方ないですが……怪我人はいないのですか?
レア≫ それは大丈夫。
レア≫ 戦うどころか、追うことさえできなかったから。
ロスト≫ え? どういうことです?
ロスト≫ 資料はシャルフの館に保管していたはずですから、ムーブ系で外部に逃げることはできませんよね?
レア≫ ムーブじゃないのよ。
レア≫ そいつ、闇に溶けるように姿が消えちゃったの。
ロスト≫ 闇に溶ける……もしかして、影にもぐった?
レア≫ そうかもだけど、心当たりあるの?
ロスト≫ そういうことができる魔王が1人いますよね。
レア≫ ――えっ!?
レア≫ まさか……あれが影の魔王【ベツバ】!?
裏で魔王の1人が暗躍している。
その事実は、さすがのロストでも予想外の出来事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます