第17話:ハズレた転性
シニスタとデクスタに聞こえないようにするためだろう。
協力者のアーキンと別れた後、レアがパーティー会話でロストに話があると告げてきた。
もちろんロストとて要件はわかっている。
フォルチュナのことだ。
レア≫ 時間がなかったから、まずは行動ということで協力したけどさ。私は説明を受ける権利があるよね?
ロスト≫ ごもっともです。
レア≫ まず、フォルチュナって何者よ?
ロスト≫ 何者って言われても、本当に転生直前にユニオンに勧誘されただけですよ。
レア≫ 見た目は、美人系? かわいい系? セクシー系?
ロスト≫ はい?
ロスト≫ それ、なにか関係がありますか?
レア≫ あ、あるけど……。
レア≫ まあいいわ。でも、それだけなら助けに行く必要はないでしょ。ゲームと違ってへたしたら命がけよ。
レア≫ それに、ラジオンのユニオンであるライデンは……って、早口言葉みたいね。ともかくライデンは、大規模ユニオンなの。
レア≫ そこと敵対することになるのは面倒じゃない。
ロスト≫ 実はですね、ラジオンさんには、たぶん恨まれていまして……。
レア≫ はぁ? なにしたの?
ロスト≫ 簡単に言えば、喧嘩を売られたのであしらうときに彼の剣を折ってさしあげました。
レア≫ 折ってって……ああ、あのスキルのバグ技か。
レア≫ 何度か話したことあるけど、面倒な奴よ。たぶん、リアルで歪んでいる系がロールプレイしているタイプね。
ロスト≫ そうですか。まあ、システムを利用してロールプレイしている人の多くは、リアルの自分が嫌いな人ですよ。
レア≫ 実感こもっているわね。
ロスト≫ うぐっ……。プレイヤースキルだけで、あれだけネコかぶれる人に言われたくないですが。
レア≫ 女優の才能あるわよね、わたし。
ロスト≫ 詐欺師のまちがいでは?
レア≫ あんたにだけは言われたくないわ!
ロスト≫ とにかく助けようが助けまいが敵対は避けられないと思います。どうせなら、助けた方が気持ちいいし、むしろこの機会に決着をつけておくのも手かと。
レア≫ 決着って……殺すの?
ロスト≫ 行動不能にするだけですよ。
レア≫ いとも簡単に言ってくれちゃって。
レア≫ だいたい、それって一度、殺すって事でしょう。あんたならわかっているわよね。死んでも蘇れる実証はまだないのよ。
ロスト≫ だから試してみようというのです。きっと、必要になることですから。
レア≫ ……あんた、開きなおると強いわよね。どういう神経してるのよ?
レア≫ ま、いいわ。どっちにしても仲間は必要だし、助けてやればユニオンに入ることも断れないでしょ。これで3人ゲットね。
ロスト≫ なんて打算的な……。
レア≫ あんたにだけは言われたくないわよ。
レア≫ あと、あんたが言っていた【支配者の加護】の可能性だけど、できそうなんでしょう? 村人たちはどうするの?
ロスト≫ それはもちろん1人1人の意思を確認してからです。
レア≫ ふーん。まあいいわ。
そこまで語ると、ふとレアは踵を返した。
ロストは直通チャットを切断し、ホッと静かにため息を吐く。
とりあえず、フォルチュナ救助は手助けしてくれるのだろう。
それだけでも御の字である。
その後、ロストとレアは素顔を見せてから、かるくシニスタとデクスタの2人と自己紹介をしあう。
シニスタは、一見すると気の弱そうなデモニオン族の女の子だ。
いつも体を小さくし、怖々と声をだしている。
得意なのは、幻想魔術スキルと言っていた。
ちなみにWSDにおいて、魔術スキルは3種類ある。
まずは、精霊魔術スキル。
基本攻撃のための魔術スキルで、火水雷土風の5つの属性にわかれた
次に、神聖魔術スキル。
神や天使の力を借りて、自分や仲間の回復・強化を行う。
そして最後が、相手の弱体化や幻術、魔物召喚などを行える幻想魔術スキル。
ちなみに、デモニオン族は幻想魔術スキルに対してわずかなボーナスがある。
それからもう1人のデクスタは、気の強そうなアンジェン族の娘だ。
アンジェン族は神聖魔術にわずかなボーナスがある種族である。
そのためか、デクスタもメインは神聖魔術スキルを覚えていると言っていた。
2人の前世(中の人)は、姉妹だった。
そしてフォルチュナと
その中でもフォルチュナは、2人の姉的な存在だという。
「でも、3人でやるのにみんな後衛なのですか?」
「フォルチュナさんは、見た目は
「あの装備でですか?」
「フォルチュナさんは、変身して装備を切り替えて戦うのですわ。1人で何役もこなしているのですわ」
「変身? ……ってもしかして?」
「はいですわ。フォルチュナさんは【チェンジ・アーマメント】のスキルを――」
「シーッ!」
慌ててロストは自分の唇に指を1本触れさせた。
デクスタも、そして横にいたシニスタも鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せる。
驚かして申し訳ないと思うが、これは聞かれてはまずい話だ。
だからロストは、チラリと背後にいるはずのレアをうかがう。
すると運良く、レアはこちらに背を向けてチャットしているようだった。
そう言えば先ほど、ラキナに様子を確認すると言っていた。
ロストは小さく安堵のため息をもらしてから、小声で姉妹に話しかける。
「すいません。実はレアさん、そのスキルが欲しかったのに全然、手にはいらなかったらしいのです。フォルチュナさんが【チェンジ・アーマメント】を持っていると下手に教えると、ヘソ曲げて『なら助けに行かない』とか言いだすかもしれないので」
「……子供ですかですわ」
デクスタは呆れかえった顔を見せるが、実はわりとこれはシビアな話である。
すべての装備を一瞬で切り替える【チェンジ・アーマメント】というスキルは、存在数が限定される【★4】のレア度。
推定、WSD内で1,000個ぐらいしかスキルエッグが存在しなかったと噂され、特に女性キャラクターに超人気のスキルである。
ただ、このスキルエッグがオークションに現れることはまずない。
推測するに、限定数1,000人のキャラクターが、【チェンジ・アーマメント】を手にいれてしまっているからであろう。
しかし、ごく稀にスキルエッグが出回ることがある。
それはキャラクターが消失するか、キャラクターが【チェンジ・アーマメント】を忘れるかすることで、新たなスキルエッグが生まれることがあるからだ。
(つまり、フォルチュナさんがいなくなれば、【チェンジ・アーマメント】のスキルエッグが手にはいる確率が発生するということですけどね)
さすがのレアもそんなことしないとは思うが、ヘソを曲げるのはありえる話だ。
ロストとしては、不安要素をなるべくなくしておきたい。
「ん? なに? どうかしたの?」
タイミングよくチャットが終わったのか、レアがロストに問いかけてきた。
みんなでレアを見ていたせいだろう。
ロストは慌てず、平静を顔に貼りつけたように対応する。
「いえ、なんでもありません。ところで、ラキナさんの方は大丈夫でしたか?」
「あ、ああ。うん、平気、平気♥ 一応、村人たちも今までのような苦しい地代がとられないとわかったから安心しているみたいだし」
「そうですか。ただ、クエストは続いていますから、いつなにが起こるかわかりません。注意するように伝えておいてください」
「だいじょーぶ♥ ちゃんと言ってあるから」
なんとなくレアの返事に不安を感じるが、ロストとしても秘密があるために突っ込めない。
それに、すぐにそれどころではなくなったのだ。
ロストに直通で文字のみのチャット連絡が入ってきていたのである。
すぐに、ロストはチャットの内容を確認する。
「おや。思ったより早かったですね」
シニスタとデクスタが首を傾げる中、レアだけはわかったとばかり口角をあげる。
「見つかったのね」
「ええ。アルバイトさんのおかげで、フォルチュナさんの場所がわかりました。助けに行きましょうか」
§
レアとのチャットを切断した後、ラキナは拳を強く握った。
(かしこまりましたの。お任せください、レア様! それがレア様のご希望ならなんだってやりますの!)
ラキナにとり、レアは心を熱くしてくれる太陽だった。
ラキナにとり、レアは心に安らぎをくれる太陰だった。
ラキナがラキナではなかったとき、レアをひと目見て好きになってしまった。
それからというもの遠くから彼女の輝きを見続け、ますます感情は昂ってしまうばかりだった。
好きなんて言葉では片づけられない。
まさにそれは、愛であった。
ゲームの中でプレイヤーキャラクターに恋をするなど、なんてバカげているのだろうと思う。
しかし、ラキナの前世である彼は、どうしてもレアというキャラクターに恋い焦がれてしまったのだ。
中の人の見た目も、性別も関係ない。
彼女こそ、理想の女性。
彼はレアに憧れ、なんとしても親しくなりたかった。
だから、彼は彼女に近づいた。
自分の見た目には、少し自信があったのだ。
彼のWSDの姿は、力強さを感じる厳つい感じの男性。
実際の彼と相反する、彼の理想である「男らしさ」を象徴した姿であった。
しかし、その姿ではレアに近づけなかった。
すでに彼女の周囲には、見目麗しく、そして強い多くの取り巻きがいて彼がはいりこむ隙などどこにもなかったのだ。
せめてレアなアイテムが大量にあれば気も引けたかもしれないと思うが、一朝一夕に集められるはずもない。
そこで彼は変わることにした。
とにかく近づくために、コンプレックスさえも呑みこんで、キャラクターを作り直したのである。
かわいく愛でてもらえる、それでいて頼れる相棒で、親友になれるキャラクター。
こうして生まれたのが、ラキナであった。
ラキナとして親しくなり、いつの日か性別を戻して恋仲になる。
それに同性なら、彼女に貼りついて見張り、近づいてくる男を追いはらうこともできる。
完璧ではないか。
そうラキナは考えていたのだ。
ところが、誤算が2つでてしまった。
まず、ロストという男性キャラクターの存在。
確かにレアは、たまに1人で姿を眩ませて行動していることがあった。
しかし、まさかこれほど親しい男性キャラクターがいるとは思わなかったのである。
ラキナから見て、ロストはレアの相棒であり親友に見えた。
まさにラキナが求めていた立ち位置だった。
しかし、これはまだ取り返しがつく話だ。
ロストを陥れるなりなんなりで、その立ち位置を奪うことは可能だっただろう。
ところが、もうひとつの誤算はリカバリーが難しすぎる。
(はふぅ~ですのぉ。ボク、男の子なのにぃ~)
ラキナは、女口調のまま脳内で神を呪う。
同時に、こんな時でも女口調を使ってしまう自分を呪う。
(これも、RPSのせい……ですの?)
WSDには、
WSDは仮想空間の代替肉体で話しているわけで、実体の口で話しているわけではない。
実際は脳の言語中枢からの信号を音声に変換しているのである。
RPSはその変換のさい、自分の設定した性格口調に変更して音にしてくるのだ。
そしてある程度の感情コントロールの補助もしてくれる。
設定した性格に対して、実際の感情が激しく異なると機能が働かないこともある。
しかし、平常時ならゲーム内のロールプレイを補佐してくれる
(こんな口調にしなければよかったの。……あれ? でも、この世界にRPSなんてないはずだから……これがそもそもボクの口調ということになるの? ああ~ぁ。性別を戻すためにも、【幻像の鏡】が欲しいの)
ラキナは大きくため息をついてから両肩を落とす。
ここに来る前に【幻像の鏡】のクエストを受けようとしたが、とうに受注不可能状態になっていた。
あとは【幻像の鏡】がオークションに売り出されることを待つぐらいだが、いったいどのぐらいの値段がつくのか計り知れない。
「今は気にしても仕方ないの。……とりあえず、サーチっと」
ラキナはフローティング・コンソールを開いて、プレイヤーサーチを実行した。
そして、その検索結果を見て目を丸くする。
「本当ですの。あのハズレ男が言ったとおり検索できたの。……えっーと、村人は121人。わりといるの」
かなり面倒だが、仕方がない。
これも、レアのためだとラキナは気合を入れる。
「村長~。村長はいますの?」
応接室で1人待っていたラキナは、ドアを開けて声をあげる。
するとすぐに廊下の先に村長の姿が見える。
「どうなさいました、ラキナ殿」
「ロスト……地主ロスト様の命令ですの。至急、村人たちを1人残らず集めてもらいたいですの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます