第13話:ハズレではない5%
大地主シャルフを撃退した後、特殊スキルのせいでロストにとって予想外の流れになってしまった。
本当なら、とりあえずこの土地に家を作って拠点として、ゆっくりと活動するつもりだった。
ところが、どう考えてもいろいろとゆっくりしていられない。
村長と話をした応接室を借りて、ロストはレアと、彼女が連れてきたラキナという女性の3人だけで話させてもらった。
村長たちにこれからの話をする前に、相談しておかなければならないことがある。
「ボクはラキナですの。レア様のためにサポート系の魔術スキルを多めに覚えていますが、棒術スキルも使えますの。レア様の忠実な下僕ですの。ぶっちゃけますと、レア様以外はどうでもいいですの」
とりあえず、簡単な自己紹介をしてもらった。
ラキナは、愛くるしい感じの童顔タイプの顔つきをしていた。
美人というより、かわいらしいという雰囲気で、短い赤髪で丸顔、少し垂れ目ぎみだろう。
ロストの第一印象は、大人しそうな雰囲気の妹キャラだった。
しかし、実際は少し違っていた。
彼女はレアの側から片時も離れない。
自己紹介にあったとおり下僕らしく、レアのオプションパーツのようについてまわっている。
そして常に、ロストを警戒するような目つきで睨めつけていた。
(さすが忠実な下僕。悪い虫がついたと思われましたかね)
そんなことは万に一つもないと思っているロストは、視線を無視して本題を進める。
「まず、僕が得たスキルを見せます。ただ、お願いがあります。スキルの内容は、他言無用でお願いできますか。本気でこれ、大変なことになりそうなので」
テーブルを挟んで座っている2人に、ロストは真摯な目でお願いした。
しかし、レアは訝しげに眉を顰める。
「なーによ、もったいぶって。まあ、ラキナは大丈夫よ。ね、ラキナ。黙っていられるわよね?」
「はい、もちろんですの、レア様。レア様が黙れと言えば黙りますし、死ねといえば死にますの! というか、レア様と共に死んで共に転生できるなんて幸せですの!」
「ね? 大丈夫でしょ?」
妙に晴れやかな顔で同意を求められて、ロストは顔を引きつらせる。
「むしろ、人間関係的にまったく大丈夫ではない気がしますが……」
「気のせい気のせい! ってかさ、ロストも少し盛って言ってるだけでしょ?」
「それならまだいいんですけどね……」
ロストの重々しい言葉に、2人が同時に固唾を呑む。
そう。大袈裟に言っているだけなら、どれだけ気楽だっただろうか。
「えっと、さっきも少し言いましたけど、まず得たスキルはスキルエッグではなく、自動取得の特殊スキルでした。だから、忘れることもできません。そしてたぶん、これから見せる4つはセットスキルだと思われます」
そう説明してから【ビュー・プロフィール】を実行し、最初のスキルを表示させて2人に見せた。
「支配者って……日本語のスキル……」
「……ちょっ……ドミネーター・ゲーム……なんなの!?」
すると予想通り、2人は驚くというより、畏怖したように身を強ばらしている。
混乱というより、理解が追いつかないのか、2人そろって何度もスキルを見直している。
ロストも、その気持ちはよくわかる。
リアルとなったこの世界で、「支配者」などと書かれたスキルを見せられれば、誰でも恐ろしく感じるだろう。
「少し、僕なりの解釈で説明しますね」
だから、2人を落ちつかすためにもロストは少し話をすることにする。
――――――――――――――――――――――――――レア度:★★★★★―
【支配者の印 Lv.1】/特殊取得
必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:0/効果時間:―
消費MP:0/属性:神秘/威力:0
説明:特殊スキル。常時発動。レベル無制限の
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まず、【支配者の印】。これがキーになるスキルだと思われます。背中に刻まれるというドミネーター・クレスト……名前から想像して『支配者の紋章』なのでしょう。ですが、背中なのであるかどうかは確認していません」
「んじゃ、確認してあげるわよ。ちょっと立ちなさい」
ロストは黙ってレアに従う。
するとレアはつかつかと近づいてくると、遠慮なくロストの服を後ろからまくり上げた。
「……ないわね」
素っ気なく言って、レアはさっと服を戻す。
だが、ロストはレアの様子がおかしいことに気がついてしまう。
「レアさんでも、照れるんですね」
「うっ、うっさい! なんかゲームと違ってなんか肉づきとかがリアルでドキッとしたとかじゃないからね! と、とにかく、紋章がないってことはやっぱりテスト用だから、スキルとしては機能していないってことね!」
照れ隠しなのか、怒鳴りつけるようにレアは発言した。
確かにレアの言うとおり、ドミネーター・クレストというのがないなら説明と異なる。
ならば、スキルとしては機能していないことになるのかもしれない。
しかし、それでは説明できないこともあった。
「スキルとして発動していないとなると変なところがあります。ここを見てください」
ロストは、自分のプロフィール欄にあるレベル表示を指さす。
そこには「レベル:50」と書いてあるが、今まではそれが限界を表すオレンジ文字になっていた。
しかし今では、その文字は通常通り白くなっている。
「これを見る限り、僕のレベル制限は少なくとも解除されているように見えます」
「なるほどね。紋章の件は別にしても、その他が説明通りならレベル70どころの話じゃなかったってことね。でも、このクエストはどう考えても非可逆クエストでしょ。この現実のWSDでクエストとして再生するとは思えない。つまり私は受けられないから、レベル制限解除もらえないってこと? それ、ちょっと泣けるんですけど?」
「そこで次のスキルです」
――――――――――――――――――――――――――レア度:★★★★★―
【支配者の寵愛 Lv.1】/特殊取得
必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:864000/効果時間:―
消費MP:0/属性:神秘/威力:0
説明:特殊スキル。当スキル所持の
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「この特殊スキル【支配者の寵愛】も、今までの常識を覆すものですね。864,000秒、つまり10日に一度、使えるらしいのです。『ユニオンの人数に応じた個数』のわりあいはわかりません。とにかく、ユニオンの人数を増やすとたくさんもらえるようになるということでしょう」
「そのスキルエッグはまだ作ってないわよね、そんな暇なかったはずだし」
ロストはコクリとうなずく。
「なら、スキルエッグが作れるか、試しに1つ作ってみなさいよ」
「しかし、ユニオンの人数と書いてありますから、ユニオンなしでつくれるのかどうか……」
「やってみればわかるって」
「そうですね。では……」
立っていたロストは、一度だけ瞼を閉じてかるく深呼吸する。
初めて使う謎のスキルに対して、やはり緊張してしまう。
「いきます。――【支配者の寵愛】!」
口にだして実行を命令。
とたん、ロストの脳内に赤にも金にも見える輝きで、ひとつの紋章のイメージが浮かび上がる。
二重丸の中に、アスタリスク(*)を横にした形が見えていた。
そのアスタリスクの6つの先端からは、鳥のような羽が6枚伸びている。
そして、なぜか背中に感じる熱。
「な、なによ、それ……」
「こ、これは……」
レアとラキナの驚愕の視線につられるように、ロストも自分の背中の方を見る。
するとイメージと同じ、赤っぽい黄金の光で羽のようなものが、まるで後光のようにできあがっていた。
「まさか、これがドミネーター・クレスト?」
驚いていると、今度はロストの正面に光が収束する。
そして、すぐさまポンッという音と同時に光が弾ける。
「これが……」
弾けた光の後に現れたのは、ひとつのスキルエッグだった。
見た目は、ごく普通の鶏の卵サイズだろう。
真っ白な地に、上矢印を並べたような青い色の模様が円周に描いてある。
それが、空中にフワフワと揺れながら浮いていた。
「どうやら、ユニオンがなくても1つは作れるようですね……」
ロストはそれを手にして、フローティング・コンソールを開く。
そしてスキルエッグのプロパティ情報を開いて見せた。
――――――――――――――――――――――――――レア度:★★★★――
【リリース・リミットレベル+1 Lv.1】/特殊取得
必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:0/効果時間:―
消費MP:0/属性:神秘/威力:0
説明:レベル60から使用可能。現在のレベル限界を1レベル上げることができる。取得するごとに、リミットレベル+値が上がっていく。一度使用すると、このスキルは消える。※【ドミネーター・ゲーム】テスト用のため本番使用禁止。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レアとラキナが覗きこんで、食いいるように見ている。
気がつけば、背中に現れたドミネーター・クレストらしき光も消えていた。
「なるほど。力を使うときだけ、ドミネーター・クレストは出てくるんですかね。そしてこれからわかることは、2つです」
ロストは指を2本立てる。
「1つめは、レベル60から使えるということで、まずまちがいなく【リリース・リミットレベル60】があるであろうということ」
「2つめが――」
レアがそう言いながら、ロストの立てた2本の指の内、1本を折り曲げさせる。
「――自分のレベル限界を上げるには、あんたのユニオンにはいって、ユニオンを拡大しつつ、あんたの寵愛を受ける。つまり媚びを売って、そのスキルエッグをもらう必要があるということね?」
そう微笑しながらロストの手を握るレアに、横でラキナが顔をひきつらせる。
すでに媚びを売り始めるところは、さすがレアだとロストは感心する。
ロストにしてみれば不本意な仕組みだが、それでも首肯するしかない。
「そうなりますね。ユニオンメンバーになった者は、
「そしてきっと、これが運営が言っていたユニオン対抗戦のことなのね」
「たぶん。ただ、これでは
「ああ。つまり、ユニオンのメンバーが減ったら、
「はい。しかし、そこの仕組みはまだできていなくて、
「そこはわからないけど、ノーリスクは確かにゲームバランス崩壊ね。ってか、実際に今、あんたのせいで崩壊しちゃっているわけだけど」
「僕の所業のように言わないでください。それに、まだあるんですから」
そう言って、ロストは次のスキルを見せる。
――――――――――――――――――――――――――レア度:★★★★★―
【支配者の守護 Lv.1】/特殊取得
必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:0/効果時間:―
消費MP:0/属性:神秘/威力:0
説明:特殊スキル。常時発動。当スキル所持の
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ああ。これがこの村を守護しているスキルというわけね。【地主の守護】ではなかったと。しかし『支配者』と『領土』とくれば、このドミネーター・ゲームは領土拡大が目的の国盗り合戦ね」
ロストは大きなため息と共に、レアにうなずく。
眉は垂れて、口角も垂れさがってしまう。
「まあ、あんたはイヤでしょうね、こういうの。でも、やってもらうわよ」
「はいはい。わかっていますよ。レアさんがレベルを上げたいこともわかっていますし、僕だって自分だけというのは心苦しいですしね。……ああ、とりあえずこれはさしあげます」
ロストは、もっていたスキルエッグを手渡した。
それをさも当然という顔でレアが受けとると、すぐさま光となってスキルエッグの姿が消える。
もちろん今は使えないから、アイテム・ポーチにしまったのであろう。
「これ、ユニオンがなくても1つは作れる理由って、メンバーを増やすためのエサなのかもしれない」
「エサ? ああ、桃太郎のきびだんごみたいな役割ですかね?」
「まあね。とりあえず、要点はわかったわ。あんたはすぐにユニオンを作りなさい。この私が一番にはいってあげるから。ああ、ラキナもはいりなさい」
「はいですの、レア様。レア様に尽くしますの!」
「いいこね。わたしに尽くすために、彼に媚びを売るのですよ」
ロストとしてはいろいろと言いたいこともあったのだが、それは黙っていることにする。
なにしろまだ話は終わっていないのだ。
「その前に、特殊スキルはもうひとつあるのですが」
「ああ、そう言えばそうね。どんなのなの?」
「これです」
――――――――――――――――――――――――――レア度:★★★★★―
【支配者の加護 Lv.1】/特殊取得
必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:0/効果時間:―
消費MP:0/属性:神秘/威力:0
説明:特殊スキル。常時発動。当スキル所持の
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……なによ、これ。今までのに比べたらしょぼいわね」
そのレアの言葉に、ラキナがうなずく。
「そうですの。普通に読むとユニオンメンバーに経験値ボーナスを与えるだけのスキルに見えますの。効果の薄いパワーレベリングという感じですの」
「まあ、そうね。ユニオンの強さを少しだけでも底上げするためのものって感じかしら。5%じゃ、ハズレ感があるけど」
2人の意見を聞いて、ロストもゆっくりとうなずいた。
「確かに、一見するとハズレのスキルに見えます……ね」
ところが普段からハズレスキルの活用をしている彼の目には、そうは映らない。
この世界において、このスキルには恐ろしい効果があるかもしれない。
その可能性に気がついてしまう。
はっきりとは断言できないが、今までの経験からロストは自分の予想にかなりの自信があった。
「なによ、歯切れが悪いわね。なにか問題があるの?」
「ありますよ、たぶん。下手すれば、この世界の決まりをひっくり返すような要素が」
「えっ? なによそれ……」
「まあとにかく、これは試してみるしかないですね」
「そう、わかったわ。なら、早々に王都に行く?」
「はい。冒険者ギルドに行って、ユニオンを作ります。それに買い出しも必要でしょう」
「買い出し?」
「ええ。この村には食料もないし、薬品等のアイテムもありませんから」
「ああ、そうね。クエストの続き、展開がわからないけど次のイベントが勝手に始まる前にいろいろと準備しないと」
「はい。それに今後のためにも、村のスキルが使える人たちに、スキルを覚えてもらってもう少し強くなってもらいましょう」
「オーケー。なら、作戦開始と行きましょうか!」
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