第11話:ハズレすぎたスキル

 アタリスキルの中に【キープ・ウェポン】というスキルがある。



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【キープ・ウェポン】

 レア度:★4/必要SP:10/発動時間:0/使用間隔:60/効果時間:10

 説明:50メートル位内にある手放した自分の武器が自分の手に引きよせられて戻ってくる。ただし、矢・弾丸などは回収できない。

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 要するに剣を弾きとばされても、ナイフを投げても、手元に引き戻すことができるという便利スキルである。

 このアタリスキルに対して、ロストがもっているスキルは以下のようなものだ。



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【アイソレート・ウェポン】

 レア度:★5/必要SP:1/発動時間:0/使用間隔:60/効果時間:60

 説明:武器に手でさわれなくなる。装備している武器に手を伸ばした場合は、装備が解除されて武器が弾かれて離れていく。

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 つまり武器が60秒間、自分から逃げていくというギャグとでもいうべきスキルである。

 基本的にWSDの戦闘は、武器ありきとなる。

 そのため、武器を持てないことは戦闘において致命的だ。


 これではいくらレア度が最高の★5でも、ただ珍しいだけのハズレスキルだ。

 この手のネタスキルは大量に存在するが、このスキルは一時期ネタスキル代表として「むしろ、こんなスキルが★1とかで出回っていたらただのゴミ大量生産だ」とプレイヤーから笑われていたぐらいである。


 しかし、ロストはすぐに気がついた。

 A.I.ゲームマスターが作りだすスキルの説明文はとにかく正確なのだ。

 だから、そこに書いてあることは絶対で、例外はあるが書いていないことは基本的に発生しない。


 この【アイソレート・ウェポン】と先の【キープ・ウェポン】の説明文での違いはなにか?


 それは【キープ・ウェポン】には「自分の武器」と記載されていることに対して、【アイソレート・ウェポン】にはということだ。

 それは見方を変えれば、「相手の武器にもさわれない」ということになる。


「はい、ハズレです」


 当然、ロストはシャルフの攻撃が来ることは読んでいた。

 だから、襲ってきた斬撃をロストは掌で迎え受けた。

 結果、スキル【アイソレート・ウェポン】が働き、シャルフの持っていた剣は勢いよく弾けとんだのである。


 シャルフの目が驚愕で丸くなる。

 ロストは、その驚きが手に取るようにわかった。

 レベルが10も下の者に、剣を素手で弾かれたのである。

 だが、スキルに書いてあることは、レベル差がどんなにあろうと実現される。

 その驚愕の隙に、ロストは契約書をアイテム・ストレージにまた格納する。


「貴様、なにを!?」


 そう叫びながら、シャルフはあきらめずに今度は大きな拳を振るってきた。

 しかし、ストレートではなく大ぶりのフックなら、ロストはスウェーバックで簡単に避けられる。

 だから、眼前で空を切る拳を見送った。


(けど……速い?)


 このゲームの特徴として、顕在ステータスの中に機敏性のようなスピードに関する値は存在しない。

 現実の肉体よりも代替される肉体の動きが速すぎると、脳での認識が間にあわなくなり、体の動きと意識が同期しなくなるためらしい。


 それは逆に言うと、どんなにレベルが上がってもスピードに大きな違いはでないということになる。

 基本はプレイヤー自身の反射神経と、脳と肉体の同期速度によりバランスがとられているのだ。


 そしてNPCや魔物は、その平均を基準値として調整されている。

 このためレベル50でも60の攻撃でも、速度はほとんど変わらないはずだった。


 ところが避けたはいいが、予想よりもシャルフの動きが速い。

 レベル60のスコーピオン・アントの時は、差を感じなかったというのに。


(個体差もあると……。ゲームの時とはやはり違うということですかね、これは!)


 ロストは続けざまに放ってきた拳をまた避けながら考える。

 このトラ顔も、もうNPCではないのだ。

 生き物になったから、ステータスに縛られないパラメーターは肉体の能力依存になっているのかもしれない。


 連続攻撃をいつもどおり紙一重で避けていたが、動きが間にあわなくなってきたのでロストは大きく飛び退いた。


 とたん、シャルフがニヤっと笑って、片手を突きだす。


「――【ファイヤー・ボール Lvレベル1】!」


 シャルフの掌の前に魔紋――魔力による光る紋章が展開。

 そして炎の玉が生じる。


(地主が魔術スキルっ!?)


 正直、ロストはこれも予想外だった。

 せいぜい、剣で斬りつけてくるぐらいだと考えていたのだ。

 ただの地主が魔術スキルを使うなど、いったいどういう設定のキャラクターなのだろうか。


「――くっ!」


 相対距離は5メートルほど。

 少し近すぎる。

 このままなら食らってしまうかもしれない。



レア≫ 【ムーブ・ポジション】!



 耳の奥で響くレアの声。

 次の瞬間には、ロストのシャルフの中地点に転移してきた金色の鎧姿。



レア≫ 【リフレクト・エレメント】!



 彼女の前に展開される、光り輝く魔紋。

 それは、炎の玉を受けとめる魔力の盾。

 バシュッと炎が弾ける音。

 刹那、跳ね返る炎の玉。

 そして赤い尾を引いて、炎の玉は軌道を逆にたどる。


「ぐわあああぁぁっっ!」


 近距離すぎて、シャルフは反応しきれなかった。

 なんとか腕で炎の玉を受けるが、シャルフは背後に倒れるように転がった。

 腕を焦がす炎を消すように、巨体を横転させる。

 炎が消えても、高級そうな服を砂埃で汚しながら悶え苦しむ。


 ファイヤー・ボールを食らえば、かなりの衝撃が走る。

 彼の腕は火傷になっただけではなく、骨も折れているかもしれない。


「さすが、レア姫です」


 目の前にいるレアの背中に、ロストは親指を立てる。


「姫プしていても、戦闘スキルは本物ですね」


「一言多い!」


 と怒りながらも、彼女は白金の柄をもつクリスタルの刃をトラ顔に向ける。


 ちなみに彼女の剣は、【天界十英傑の剣】の一振り【光断ちのクリスタリア】というとんでもないレアアイテムである。

 その迫力はすさまじく、レベルが上のシャルフもさすがに怯む。


――キャンセル、【アイソレート・ウェポン】!


 ロストもスキルをキャンセルして、アイテム・ストレージからプラチナ・ロングソードを装備する。

 ちなみにこれは、街の武器屋で売っている安い量産品だ。

 飾り気も少なく特殊な効果もついていない。

 それでも武器としては十分だ。



ラキナ≫【バフ・デフェンス Lvレベル5】!



 知らないプレイヤーから魔術スキルが執行され、ロストやレアの防御力が上昇した。

 ちらっと背後を見ると、少し後方にローブをまとって魔術師然とした小柄な姿が見える。

 もちろん見たことがない見た目だが、ロストも予想はついている。

 パーティーメンバーリストを一瞬だけ表示させてみれば、そこにしっかりと「ラキナ」という名前が並んでいた。


「あの方が、お仲間ですか?」


「ええ。あとで紹介するわ。ところで――」


 レアが転がっているシャルフに剣先を向ける。


「――わたしの相棒にいきなり斬りかかるなんてどういうつもりなのかしらね、大地主さん?」


「ですから、あなたの相棒になった覚えはありませんが」


 ロストがつっこむと、レアが頬を膨らませる。

 だが、それを無視してロストも剣先をシャルフに向けた。


「…………」


 シャルフは、まだ立てないでいた。

 レベルは高くとも、DEF(防御力)はやや低いのだろう。

 炎のダメージよりも物理的なダメージの方が大きいようで、少なくとも片腕は上げることさえできなくなっていた。


「いくらあなたが僕たちよりレベルが高くとも、さすがに3人はつらいですよね」


 シャルフが歯噛みしながら、無言で憎悪をぶつけてくる。

 しかしロストは、それに冷笑を返す。


「さて。いきなり契約書を奪いとろうとするなんて、ここで殺されても仕方ありませんよね?」


「ぐっ。オレを殺せば、この村に魔物が襲ってくるぞ!」


「なるほど。なら……」


 ロストは契約書をとりだした。

 そして、買主欄を指でなぞる。


 すぐに現れるフローティング・コンソール。

 そこには、「サインしますか?」のダイアログが出るので、迷わず「承認」を選んだ。


 とたん、買主欄にロストがあらかじめ作っていたサインが仄かに光りながら現れる。

 今度は契約書全体が、ふわっと光を宿す。

 契約日欄に、ゲーム時間で日時が浮きあがる。

 かと思うと、唐突に契約書はその場から消え失せた。


「はい。契約終了。これで……」


 ロストは続いてフローティング・コンソールを確認する。

 予想どおりならば、これで地主として村に魔物をいれないスキルが手にはいっているはずだ。



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神様≫ ロストが、クエスト【プニャイド村の大地主】をクリアしたことにしました!

神様≫ ロストは、称号【プニャイド村の地主】を取得しました!

神様≫ ロストは、クエスト報酬・特殊スキル【支配者の印(TEST)】を手にいれました!

神様≫ ロストは、クエスト報酬・特殊スキル【支配者の守護(TEST)】を手にいれました!

神様≫ ロストは、クエスト報酬・特殊スキル【支配者の加護(TEST)】を手にいれました!

神様≫ ロストは、クエスト報酬・特殊スキル【支配者の寵愛(TEST)】を手にいれました!

神様≫ ロストは、クエスト【森の闇】を受注しました!

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(――!?!?!?)


 ところが、フローティング・コンソールに表示されていた記録はロストの予想のはるか斜め上の内容だった。


(ええっ? 特殊スキルってことは強制取得? ってか、日本語スキル名? ってか、TESTってはいっていますけど? ってか、支配者ってなんです? ってか、最後にまた勝手にクエスト受注!? ってか、よく見たら最初、「クリアしたことにしました」ってなんですか、神様!?)


 思わず、ロストは片手でこめかみをつまむ。


(もうイヤです、この神様……殴りたい……)



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神様≫ 殴られたくないので、表示メッセージを変更しました。

神様≫ ロストは、クエスト【プニャイド村の大地主】を金の力でごり押ししてクリアしました!

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(言い方!! 悪意!! ってか、神様を殴れるんですか!?)



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神様≫ ▼バージョンアップ情報:一部の特殊スキル名を修正しました。

神様≫  テストスキルと勘違いさせる表記がありましたが、神様なのでけっしてまちがえて採用してしまったということはございません。本当です。

神様≫  ...........................................................................................

神様≫  ●修正例:特殊スキル【支配者の印(TEST)】→【支配者の印】

神様≫  ※なお英語名化は面倒なので、次回以降のバージョンアップ対応にご期待ください。

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(……絶対に殴りたいです……)


「ど、どうしたの!? スキルがなかった!? それとも怪我!?」


 レアの心配そうな声でロストは顔を上げる。

 ずっと無言のまま、右手で剣の柄を握りしめ、左手で頭を抱えていたせいだろう。

 レアが不安げにロストの顔を覗きこんでいた。


「そ、そうではなく……バージョンアップは早いですが適当すぎると……」


「はい?」


「いいえ。すいません。なんでもありません。しばらくお待ちください」


 気になることは多々あるが、それらはあと回しである。

 今はとにかく、該当スキルを確認するのが先だった。


(あるとしたら【支配者の守護】か【支配者の加護】、このあたりですかね。なかったら僕でもキレますよ、神様。とりあえず守護の方のプロパティを……)



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【支配者の守護】

 レア度:★5/必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:0/効果時間:-

 説明:特殊スキル。常時発動。当スキル所持の支配者ドミネーターが所有する領土に、他フィールドにいる敵性魔物を侵入させない。※【ドミネーター・ゲーム】テスト用のため本番使用禁止。

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(よ、よかった。ありました……が……ドミネーター・ゲーム? うーむ。最後の1文は……気にしたら負けですね)


 開きなおったロストは顔を上げてレアにうなずき、そしてシャルフにまた剣先を向ける。


「大丈夫です。僕が今は所有者となって、僕のスキルが働いています、あなたがいなくなっても、この村は守られます」


「くっ。地主になって【地主の守護】を手にいれやがったのか!」


「……はい、そうです」


 名前は多少違うが気にしない。

 ロストは、しれっとうなずく。


「というわけで、力で攻めてきた者に力で返すのは、この世界のことわり。僕たちがあなたをどうしようが罪にはなりません……よね?」


「……まっ、待て! 違うんだ。奪おうとしたわけではない! ただ……ただ、そう! この村が心配になってな。新しい地主が土地を守るだけの力があるか確認したかっただけだ!」


「僕はあくまで仲介で、地主は別の方になると申し上げたはず」


「そ、それは……忘れていて……」


「……まあ、いいでしょう」


 ロストはそう言いながら、剣先をおろした。

 最初から、折り合いはここと決めていた。


「この村は、とりあえず僕のものとなっています。今後、シャルフ様はこの村に関与しないよう、くれぐれもお願いしますよ」


 シャルフが一目散に逃げ帰るところを見送り、村の門を閉めたところでロストは肩の力をやっと抜いた。

 形はどうあれ、これで一段落である。


「ちょっとロスト、逃がしてよかったの?」


 レアが剣を鞘に戻しながら、ロストへ歩みよる。

 彼女の横には、ラキナというフードを目深にかぶっている少女が寄り添うように立っていた。


「さすがのレアさんとて、殺人はしたくないでしょう?」


「さすがって、どーいう意味よ! まあ、でも、殺人かぁ……そうか。そうよね」


 ロストは、クエストで盗賊のNPCを全滅させたことがあった。

 だが今、それと同じことができるかと言われれば、できるとはとても言えない。

 たとえ魔術スキルで復活させられる相手でも、殺すことに抵抗感をなくすことはできない。


 それはきっと、レアとて同じだろう。

 いくら彼女でも、レアアイテムのために「人の命」を奪うことはできないはずだ。


「それより、クリア報酬がはいってこなかったんだけど? まさか、クエスト受注者しかもらえないパターン? 今までレベル制限解除は全部、パーティー組んでいればOKだったよね? あんたは【リリース・リミットレベル70】は手にはいった? 特殊スキルだからスキルエッグじゃなく、自動取得だと思うけど」


 興奮気味に迫ってくるレアに、ロストはジェスチャーで落ちつくようにうながす。


「い、いいえ。それは手にはいりませんでした」


「まさかこれ、【リリース・リミットレベル70】のクエじゃなかったのかしら?」


「わかりません。ただ、これは連続クエのようです。新しいクエが始まりました」


「え? マジで? じゃあ、全部クリア後? でも、あんたのところには、アイテムが来たのよね? 地主なんちゃらには興味ないけど、他にもなにかスキルエッグやアイテムは手にはいった?」


「スキルエッグは手にはいらなかったのですが、他に変なものが……」


「え? なに? レアスキル? 教えなさいよ!」


「それが一言では説明できなくて……」


 ロストは、先ほどあと回しにしたスキルを1つフローティング・コンソールで確認してみる。

 そして内容を見て、意味不明さに呆気にとられるのだった。



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【支配者の印】

 レア度:★5/必要SP:0/発動時間:0/使用間隔:0/効果時間:-

 説明:特殊スキル。常時発動。レベル無制限の支配者ドミネーターとなり、証として背中に【ドミネーター・クレスト】が刻まれる。※【ドミネーター・ゲーム】テスト用のため本番使用禁止。

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(なんなんです、この今までの常識からハズレすぎたスキルは!? いろいろわからないけど、レベル70制限どころか、って……絶対にやり過ぎですよね、これ)






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「Quest-002:プニャイド村の大地主」クリア

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