第13話 実健『ヨーグルトで縄文土器』
腹筋の緊張。
「ぐさっ……ぐさっ……」
声に出して言ってみる。
虹丸は其の度に身を捩り、高低音入り交じる狭い音域でフォークに堪える声を漏らした。辻のホテルの一室。備品のバスローブの紐で後ろ手に縛った。
「仰向けの男を跨いでオシッコを引っ掛けるくらい君臨した立場でなければセックスしたくないの。縛らせてね。でなければ虹丸は主導権を握ろうとするよね。虹丸が良い気持ちになるのは後回し。私の趣味に合わせてね。私は変態だから、覚悟がなければ近寄るなって言わなかったっけ……」
言いながらタオルで目隠しをして、そっと押し倒した。勿論此処までは合意の上だ。
「なんだか女になった気分やし……」
「あんた、女にこんなことするの……」
「いや、しないけどさ……」
「沖縄人にしては色白だね……」
「外に出ないから……」
ふうん…興味ないけどさ……
スーパーで買ったヨーグルトを塗ると、虹丸は冷たがって笑った。
「身体を使って塗ってくれ……」
「ぐさっ……ぐさぐさ……」
フォークをお見舞いする。フォークはプラスチックだ。血は出ない。
「我が儘を言うと縄文土器にしてやる」
プラスチックのフォーク腹部に縄文風紋様を描く。虹丸は呻き声と笑い声を含んだ「止めてくれ」を何度も発して身悶えしていたが、やがて息遣いが荒くなって鎌首をもたげた毒茸にモノを言わせたがった。
そいつにもヨーグルトを塗ってやる。腹の上に缶詰めのフルーツをデコレートする。美しく飾り立ててから写真を撮った。キヤノンの一眼レフFTB、50ミリレンズ、ネガフィルムISO400、フラッシュ無しで臨場感を狙う。シャッターを切った後にフィルムを一枚分巻き上げる。もう一枚、角度を変えて撮影する。タオルの目隠しが効いてトレードマークの黒子も隠れている。個人特定できない筈だ。
撮影されたことに気づいた虹丸の口に、フォークで突き刺したパインを一切れ持っていく。
「此れなあんだ……」
綺麗な船底型の唇。パインに付着したヨーグルトを塗りたくる。
「パインだろおおお……」
「当ったりいいぃぃん。当たったから罰を与えるね。はい、あーんしてぇ……」
私は鍵っ子だった。祖母は趣味に生き、父母は公務員として実直堅実に暮らしていた。
#弥砂羽__みさわ__#が来るまでは、独りで留守番をしなければならなかった私の身を案じて、近所のお姉さんたちが代わる代わる遊び相手になってくれた。
A#姉__ね__#ェは、いつもおやつを持って来てくれた。そして家中の窓の戸を閉めると、横たわって股を開き『痒い』と言った。誰にも話してはいけない二人だけの秘密だった。
虹丸の口の中で咀嚼が終わる。コクリと音をたてて喉仏が上下したのを見届けて「パインを頂戴」と言ってみる。
「ぇ……食ったよ、もう……」
すかさず平手打ちを飛ばす。パシッと音をたてて顔が反る。本当は予定になかったし願望でもないけれど、多分こんな場合は平手打ちするのが常識かもしれない。エキセントリックを装って責める。
『痒い』
マッチ棒を手渡された。
セーラー服のスカートを間繰り上げ、剥き出しになった下半身は何も着けていない。黒々と生えた陰毛を指先で掻き分けて問題の部分を赤裸々にする。小さな突起はすでに膨らんでいた。大陰茎と小陰茎の間の柔らかいピンク色の溝に溢れた透明の分泌物を、マッチ棒の軸先で掻き取る。いずれ其れは爪楊枝に替わるのだが、そっと触れた。
A姉ぇが喘ぐ。
『痛いの……』
『ううん……痛くない……まだ痒い……もう少し強く……そっと……』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます