第11話 飛んで火に入る

気がつくと、マンダリンに電話している。受話器の向こうから虹丸の声がいきなり聞こえて息が止まる。


案の定虹丸は、最近見えないけどどうしたのかと尋ね、私は、何であんたの処にばかり行かなきゃならない訳……と思いながらゲームを止めるつもりだの他の店で浮気していただのとフェイントをかましそうになり、風邪気味だったことにする。


「今日は珍しく閑古鳥鳴いているから来てくれないか」

「じゃあ後で覗いてみようかな……」

「後でって……今、仕事中……そう言えば仕事、何してるの……」

「ソープ孃……」


そんなに若くないけど鵜呑みに信じるのか、受話器の向こうの時間が一瞬止まったみたいだ。


「今は仕事じゃなくてオナニーしていた」


笑いが込み上げるが、しれっと言う。


「待って……それじゃ俺、其処に行く……」


予想外の答えが鼓膜を打つ。狙った訳でもない冗談で虹丸を釣り上げてしまった。


「はぁ……来るぅ……何しに……」


本気にするなよ、バァカ……

と言えば良いのに我ながら情けない返答。虹丸は独りでいるらしく


「一人よりも二人の方が良いだろおおぉぉ……」


と断言した。パチンコに誘う口振りではないかも。


今度は私が「待て……」と言った。思わず待ったを掛けて、此の男は一体どう云った平仄で動いているのだろう、他人の冗談を真に受けるな、素直過ぎる、ピュアか……人間スケベは当たり前だが……スケベでなければP業界○○○億円が幻ですわ……しかしね……菜でに笑って済ませない。


「今、虹丸は仕事中でしょ。店を脱け出して何しに来ると言うんじゃ、オノレはぁ……」


「あ、そうか、まだ知らないんだ。俺、シフト変わってそろそろ上がりなんだけど、相談したいこともあるしぃ」


「あ、そ……あ、そ……」


全てが予想外で、それしか出てこない。シフト、そんなものがあったのか……


「何処……」


「二丁目のスーパーの裏」


虹丸は五分で来ると言って電話を切った。



瞬きしてみる。瞼を何度も瞬きして、パチパチと声に出して呟く。ついでに頭を振ってみる。カランカランと言ってみる。空洞化したか、思考中断、どんな結論にも行きつかない。虹丸の行動力に丸投げか。


茫然自失してるのかな……急に可笑しくなる。人間、笑うことで自分に立ち返ることもあるようだ。冷静になれた。


「一体此れはどうした#勢__はず__#みだ…」


考え倦ねた。虹丸が金ヅルを欲しがっているのはわかっている。ゲーム機を触る女性客は皆、金ヅルに見えるに違いない。


だからといって此の展開は安直過ぎやしないか。相談事を受けるほど頼りになる人間じゃないぞ。しかもそれほど親しくもない。何で人の返事も聞かずに電話を切るんだ。いや待て、二丁目のスーパーの裏と教えた時点で受け入れているではないか。


ワタシはトンデヒニイルナツノムシですかぁぁ……


待て待て…五分で来ると言うのは、直ぐにでも外に出て待っていろと言うことか……化粧もしていないのに……


すっぽかしてやるぞ……


一方的に話を決める奴が悪い。


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