第6話 あるきめですの公理
私と弥砂羽の関係上、例えば私がどんなに権力を有していても、私<π弥砂羽となる自然数が存在するという。
つまりは何かが弥砂羽に加担して、弥砂羽が私より大きい、あるいは力を持つという。
加担……其れは勿論、弥砂羽の亭主殿ではない。彼も出版関係者だから「次回作に期待している」などと世辞にもならない見え透いた励ましのような呟きを漏らすが「アルキメデスの公理」に該当するような自然数πではない。πではないが鼻持ちならない。
近いうちに彼が絶句するようなモノを書いてその鼻を開かしてやりたいものだ。
私はP小説を生業にしている。P小説とはポルノ小説のことだ。ライトノベルを書いていたが落選続きでげんなりしていた頃に弥砂羽の亭主の口利きで書いてみることにした。
Pと聞いて弥砂羽は「ポルノだとはっきり言えないようなモノを書くの……」と面白くなさそうな顔をしたが、私はホラー路線に色気を出していた矢先だったので渡りに舟とばかりにチャレンジした。弥砂羽には、ホラーもPもライトノベルからの外れ具合に大差はないと答えた。
しかし、語弊があるかもしれないので言い訳しておくが、私のPは猟奇趣味に走りすぎてエロより怪奇小説の部類に入ると評されているから、私に於いてはホラーもPも大差はないジャンルだったらしい。
らしいとは、自分の能力についてのあやふやな情報だ。
しかし、誰に説明が必要だというのだろう……
私はライトノベルだけでなくポルノも才能がない。
まぁ、短いけれども此の頃は飽きてきた私の物書きとしての生活は何もかもが皸割れて……
「アルキメデスの公理」=弥砂羽の存在を確定するπ
私の周りの空気中に透明なπがうようよと浮かんでいて、目視できない其れが人間関係を動かしている。ホラーだ……
ホラーのπは弥砂羽を守る。
誰から……
誰から弥砂羽を守ると言うのだ……
私からか……
私……
小さき者、其は我なり
私からか……
私はちっぽけで、其れは自分で思うよりもはるかにちっぽけで、しかしちっぽけだとの自己診断には「下らないプライドには拘らない人間」であるかのような演技ができるというか錯覚できるというか……其れこそちっぽけだ。
私のプライドは……世間の目から弥砂羽を守る防波堤になりたかった。
私はいつまで……自分を……
空気中のπは確かにこんな私から弥砂羽を守る必要がある。
πは天使なのかもしれない。穢れを知らない天使……
弥砂羽の幸せを守る天使……
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