第4話
○ハルトのマンション・玄関(日替わり・夜)
ハルトが玄関ドアを開くと、ヒカリが立っている。
ヒカリ「(笑顔で)忘れ物しちゃった」
○同・寝室(夜)
ヒカリ、しゃがんでベッド付近を探すしぐさ。
ヒカリ「あれ、おかしいな。もしかして私の家?」
ハルト「(ヒカリを見て)」
ヒカリ「……ごめん。もうちょっと探して、ついでに片付けとくから、ハルトお風呂入ってて」
ハルト「そっか(と出ていく)」
ヒカリ、ハルトが完全に居なくなったのを見計らって、持参したバッグのチャックを「ジー」とゆっくり開く……。
× × ×
ハルト、戻ってくる。
が、ヒカリ置手紙をして既に居なくなっている。
ハルト「(タオルで髪を拭きながら)チッ、もう帰ったのかよ。代わりにマイコでも呼ぶかな」
○電車・中(夜)
ヒカリ、スマホでネットワークカメラの映像を見ている。
画面が四分割されていて、複数のカメラからのハルトの部屋の状況が映し出されている。
ベッド、ソファ、リビング、ダイニング。
ヒカリ「(お、と見つめ)……」
ソファに座っているハルトが操作するスマホ画面。
パスコードを入力する手元。
ヒカリ、素早くその番号をメモに走り書きする。
続いて、『ヤリとも発見・育成』というアプリを開くハルト。
登録女性の写真をフリック、またフリック。
ヒカリ「!」
と、周りの乗客を気にしスマホをしまう。
○納骨堂・受付カウンター(日替わり)
受付をしているヒカリ。
広瀬が入ってくる。
ヒカリ「(お辞儀し)こんにちは広瀬様」
広 瀬「……うう、ペロちゃんがとうとう……」
と泣き崩れる。
駆け寄るヒカリ。
○同・廊下
ヒカリ、しっかりとした足取りでアヤミに近づいていき、声をかける。
ヒカリ「アヤミさん、先日途中になってしまったし、今日お話の続きいかがですか」
アヤミ「いいよ、赤石さん体調は」
ヒカリ「(笑顔で)おかげさまで。休んでしまってご迷惑おかけしました」
○ハルトのオフィス・デスク(昼)
ハルト、お弁当を食べながらスマホを見ている。
例のアダルトマッチングアプリを見ており、誰かとやり取りしている。
”ミミコ”という女のメッセージ通知を見て、
ハルト「お、最近お気にのミミコちゃん(とテンション高まり)」
素早くメッセージを打ち返している。
ミミコから『今日いいよ夜』と返信が来て、
ハルト「っしゃ」
と、叫ぶ。
を、見ていた伊藤が、
伊 藤「お前、また女か。納骨姉妹はどうなった」
ハルト「ちゃーんといただきましたよ。あの子ら仲悪いのバレバレ。だから同時進行可能って見切ってた俺、すごくないすか? ま、三姉妹でもよかったんだけどな、一番若くて可愛い子にはフラれちゃった(笑)」
伊 藤「(引いて)ほどほどにしろよ」
周りの女性社員、白い目で見ている。
ハルト「(スマホ見て)お、場所も決まった!」
と、紙パックの牛乳を一気にチューっと飲む。
○場所不明
同じマッチングアプリを操作している女の右手。
○納骨堂・本堂(夕)
毒々しく赤い夕焼け。
梵鐘の音。
神妙な面持ちのヒカリ、本尊に一礼する。
○同・門(夜)
ヒカリがアヤミの腕を引いて出てくる。
アヤミ「どこに行くつもり」
ヒカリ「裏の公園で待ち合わせしてるんで」
アヤミ「待ち合わせ? 」
ヒカリ「(黙ってずんずん進む)」
○納骨堂近くの公園(夜)
人気のない公園。
ハルトが時計を見ながらやってくる。
と、既にヒカリとアヤミが来ている。
ハルト「(ぎょっとし見回し)……あれっ」
アヤミ「はるクンじゃない。赤石さん呼んでくれたのね、もしかしてサプライズか何か?(嬉しそう)」
ヒカリ「どうもーミミコでーっす! 初めましてハルトさんですよね」
ハルト「(しまった)……」
アヤミ「? 何?」
ヒカリ「アヤミさん、(ハルトに)ハルトさん改めてご婚約おめでとうございます。お二人のこれからのために色々調査させていただいたので今からその結果を――」
と、ヒカリは二人をベンチに誘導し座らせる。
ハルト「は? 結婚」
アヤミ「(不可解な表情)」
ヒカリ「発表させていただきます!」
と、声高に叫ぶヒカリの顔を、街路灯の明かりが照らす。
ヒカリ、タブレットPCを取り出し、
アヤミの耳にイヤホンを突っ込んで、
ヒカリ「では再生しますね」
と囁き、再生ボタンを押す……。
と、ハルトの寝室の様子が鮮明に映し出される。
『水沢ハルトさんの日常』とタイトル。
間髪入れずアヤミとハルトのセックス動画が流れ始める。(映像オフ)
アヤミ「……(目を背け顔を真っ赤にし)イヤっ」
と、思わずベンチから立ち上がり、イヤホンを外す。
外したイヤホンからは甲高いアヤミの喘ぎ声が漏れている。
アヤミ「止めて止めて! まさか赤石さんもはるクンのことが好きだったの」
ハルト「ヒカリちゃん何やってるんだ」
ヒカリ「はっ何が『何やってるんだ』だよ。それはこっちのセリフ。婚前交渉禁止が笑わせるわ。はい、続けまーす」
ヒカリ、再度再生ボタンを押し、アヤミの前に無理やりタブレットを突き出す。
○その動画
次は倍速で他の女が入れ替わり立ち代わりやってきて、アヤミ同様にハルトと間合っている様子。
その数何と一週間の期間で10人以上である。
○公園(夜)
アヤミ「(固まる)……嘘」
ハルト「(青ざめているが)何だよこれ、こんな映像でっちあげだろ」
ヒカリ「――ですって。アヤミさん? 信じられますハルトさんの言ってること」
アヤミ「……(混乱)ねぇ、はるクン嘘よね?」
ハルト「……(平静を装って)嘘に決まってんだろっ、なっヒカリ」
と、ヒカリに目配せし、
ハルト「(動画を指し)これ見て。この男俺じゃないでしょ。(と、赤い再生バーをタップし)これも、これも、ホラ。ヒカリ、俺ってお尻にホクロがあったじゃん? これ、無いだろ? なっ」
ヒカリ「……」
ハルト「(はっとし)……」
アヤミ「(冷ややかな目でハルトを見)……」
凍り付いた空気。
ヒカリ「そういうことだから、アヤミさん。私もこのクズに騙されて関係を持ってた。それと、こういうアプリで相手見つけてるそうですよ」
と、スマホアプリのミミコのトーク欄を見せる。
アヤミ「……(声にならない叫びをあげ)」
膝から崩れ落ちるアヤミ。
ハルト「誤解だよ、アヤミちゃん……(となだめようとする)おい、何てことしてくれたんだよ(ヒカリに)」
ヒカリ「どっちがだよ!」
アヤミ、地面を両こぶしで叩いて、
アヤミ「(涙を流し)だって結婚しようって言ったじゃない……」
ハルト「? いやそれは言った覚えないけど」
アヤミ「言ったわよ。私が作った料理、おいしいねって。これからもずーっと食べたいなって言ったよ、はるクン……」
ハルト「は? 何その中学生みたいな発想、俺おばさんと結婚する予定ないし」
ヒカリ「(ニヤッとして)」
アヤミ「お、おばっ……」
アヤミ、ついにキレる。
ハルトの胸倉を掴んで泣き喚く。
ハルト、困り果てアヤミを抱きしめる。
ハルト「ごめん、本当は愛してるから……」
アヤミ、平手打ちして、
アヤミ「バカか、もう騙されないから」
ハルト、遂にその場から逃げ出そうとするが、
ヒカリ「え? 逃げるんなら勤務先に今の情報は伝えるつもりですが。私は誠意というものを大切にしている所存ですので……」
ハルト「(背を向けたまま足を止め)……」
と、アヤミが隙をついてハルトに突進する。
ハルト、背後からアヤミに押されてバランスを崩し、
公園の門下に連なる石段を転げ落ち……。
○石段(夜)
間。
踊り場から見上げた景色。
ヒカリとアヤミが心配そうに見下ろしている。
30段くらい下の踊り場に倒れたハルト、動かない。
アヤミ「……」
ヒカリ「……」
アヤミ「……うそ。死んじゃった。私……(自分の両手を見て泣き出しそうに)」
ヒカリ「落ち着いてください、アヤミさん」
と、ヒカリ、階段をそっと降りていく。
ハルトにたどり着き、呼吸と胸の音を確かめ、
ヒカリ「……大丈夫です。とりあえず目立つ場所なんで運びましょう」
アヤミ「(焦って)運ぶったってどこに? 救急車は?」
ヒカリ「いちいち取り乱さないで、いずれにしろ一旦物陰に」
アヤミも降りてくる。
ヒカリが頭側、アヤミが足側を持って、ハルトを担ごうとする。
と、その瞬間ハルトが目を覚まし……。
ヒカリ、ビクッとする。
ハルト「ってぇ。(ヒカリに怒り出し)お前さえいなけりゃこんな目には」
ハルト、拳をグーにしてヒカリに殴りかかる。
が、ヒカリは素早く身をかわして、
ヒカリ「私がっこれまでっどんな思いでっ……どんだけクズなんだよ! 」
と、渾身の回し蹴りをハルトに食らわせる。
× × ×
ハルトの部屋のアクアリウム。
スーパースローモーション。
水面が大きく波打ち、丸い水しぶきが空に舞う。
赤、黄ベタが尾びれを振って勢いよく外に跳び出す。
× × ×
ヒカリの額に浮かぶ汗。
ヒカリ「(呼吸荒く)」
さらに30段下の最下段で、ハルトに人工呼吸している。
ヒカリ「ハルトっ(と頬を叩くが)」
ハルト「(反応なし)……」
心臓マッサージも試みるが……。
やはり、ハルト、息をしていない……。
その様子を、先の踊り場から呆然と見おろすアヤミ。
ヒカリ「(アヤミを見て)……」
アヤミ「(ヒカリを見て)……え、し……」
ヒカリ「……」
アヤミ「いやああ! こんな、こんなことになって、私パパとママに見限られちゃう」
ヒカリ「……」
アヤミ、落ち着きなくをぐるぐると歩き回る。
ヒカリ「……(つぶやいて)あたしだってこんな奴のために捕まるなんてやだ……」
アヤミ「あーっ(パニック)」
ヒカリ「(考えている)……」
ヒカリ、ハルトの身体から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
ヒカリ「(冷静に)落ち着きましょう」
そして、アヤミに後ろ姿を見せたまま、
ヒカリ「……うちで、納骨しましょう」
その背中を瞬きもせず見つめるアヤミ。
続く
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