第2話
○銀座辺りのレストラン街・歩道(夜)
ネオン街。
ヒカリ、歩いている。
アヤミの声「最近仲良くしてるお友達と、飲み会することになったんだけど、二人にも是非来てもらいたいなって」
少しニヤつくヒカリ。
ノノカの声「プライベートで疎遠な私たち呼んでまで開催したいってことでしょ。アヤミさんの思い人が来るんですよー」
○イタリアンレストラン・個室(夜)
ヒカリ、ノノカ、アヤミと会社員の伊藤、高橋の5人が6人がけテーブルで酒を飲んでいる。
伊 藤「ハルトのやつ遅いなぁ、残業だって」
高 橋「ねぇ納骨堂って死体見たりすんの?」
ノノカ「見ないよぉ。お骨は扱いますけどね」
ヒカリ、ノノカ越しにアヤミの様子を伺って、
ヒカリ「……」
アヤミ、いつもより着飾ってメイクも濃い。
ヒカリ、ノノカを肘で突く。
ヒカリ「(小声で)アヤミさん綺麗……」
ノノカ「(小声で)ねぇ、どっちかな?」
ヒカリ、伊藤、高橋とアヤミの方をさっと見回すが、
ヒカリ「うーん」
アヤミは大人しくサラダを盛り付けている。
ヒカリ「アヤミさん、お気遣いなく」
アヤミ「いいのいいのこれだけだから、向いに置いといて」
と、ヒカリの向かいの空席に置くようサラダ皿を渡してくる。
ヒカリ「はい(と皿を置こうとする)――」
と、一人の男が扉を開けて入ってくる。
品の良いスーツを着た色白の優男。
会社員の水沢ハルト(30)である。
伊 藤「おせーよハルトー」
ハルト「(合掌し)すいませーん! ハルトです! 仕事できないんで遅れちゃいました」
アヤミ「(甲高い声)遅いぞハルトー!」
その声にはっとし、アヤミの方を見るヒカリ。
アヤミ、目をキラキラさせさっきとまるで別人。
ハルト「許してくださいよーアヤミさん、ディズニー行った仲じゃないですか」
と、ハルトはヒカリの向かいの空いている席につく。
高 橋「えーアヤミちゃんこいつと付き合ってんの? 残念だな」
アヤミ「(赤くなって)違いますっ。他にも友達と一緒に行っただけで」
ハルト「高橋さんやめてくださいよーアヤミさんに迷惑ですから」
ヒカリ「(アヤミを見て)……」
ノノカ「(ヒカリに目くばせ)ビンゴ」
ヒカリ「(ノノカに応え)」
ハルト「(ヒカリに)どうも、よろしくです」
ヒカリ「(笑顔で)ヒカリです、お忙しいんですね」
× × ×
ヒカリ、赤い顔で酔った様子。
ヒカリ「すいませーん(自分の空ジョッキを指し)もう一杯」
ノノカ「大丈夫ですか、ヒカリさん結構飲んでますよ」
ヒカリ「(上機嫌で一人笑い)ふふふ」
ヒカリの視界、ぼやけてぐるぐるしている。
周りの声はエコーがかかっている。
伊藤の声「ハルトこう見えて営業ナンバーワンだからさー」
アヤミの声「すごいんだよねー」
高橋の声「女社長受けのマダムキラーじゃん、裏で枕とかしてんじゃないか」
ハルトの声「無茶苦茶なこと言わないでくださいよー女性陣も引いてるじゃないですか。ね、事実無根ですからー」
ノノカの声「えー」
皆の笑い声が響く。
ヒカリ、あおったジョッキをドン! と置く。
ヒカリ「ははっ、おかしー」
ハルト「ヒカリさん?」
ヒカリ「(呂律が回ってない)こんな簡単なもん? 今まであーんなに悩んでたのは何だったわけ。そんなに彼がいいなら一緒になっちゃえば良いじゃん。そしたらずーっと機嫌が良いんでしょ」
ノノカ「(小声で)ヒカリさん聞こえちゃいます」
ヒカリ「(ノノカに)決めた。私応援することにした! アヤミさんと(ハルトにビシッと指さし)彼!(にっこりして)」
ノノカ「しーっ(人差し指を口元に)」
ハルト「(聞き取れずキョトンと)?」
と、伊藤がマイクセットを持ってきている。
伊 藤「じゃあカラオケもあったんでやりますかー歌いたい人ー」
目が座ったヒカリ、無言で伊藤からマイクを奪って前に出てくる。
ヒカリ「(手をピンと上げ)ちゅうもーく!」
皆、一斉にヒカリを見る。
ヒカリ「私の言いたいことはっ、アヤミさんほど素敵な先輩はいないってことでー絶対いいお嫁さんになると思うんですよ。だから今後とも黒木アヤミ、黒木アヤミをご愛顧願いまーす!」
「おーっ」と男性の何人かが感心した声をあげる。
アヤミ「ちょっとー(と喜んでいる)」
ハルト「(ヒカリを見て)……」
○同・廊下(夜)
ヒカリ、トイレから千鳥足で出てくる。
廊下でスマホを見ていたハルト、気がつき
ハルト「大丈夫ですか」
ヒカリ「ええ、何とか(苦笑)……あの、ハルトさんていじられキャラなんですね」
ハルト「ええ、毎日あんな感じで」
ヒカリ「先輩に可愛がられてうらやましいな(遠い目)」
ハルト「そうかな、ヒカリさんだって」
ヒカリ「あの、つかぬことをお聞きしますが」
ハルト「はい?」
ヒカリ「アヤミさんのことぶっちゃけどう思います?」
ハルト「え」
ヒカリ「女性として、アリかナシかって意味で」
ハルト「そ、そんな急に言われても――」
ヒカリ「(グッとハルトに寄って目を見)絶対お似合いだと思うんですよね、ハルトさんと」
ハルト、ヒカリの頭のてっぺんから足のつま先までさりげなくだが見渡して……。
ハルト「(思案し)……」
ヒカリ「(せっついて)ねぇ!」
ハルト、周りを気にし、ヒカリの耳に手を当てて
ハルト「僕、正直いいなって思います」
ヒカリ「(目を丸くして歓喜)でしょ!」
ハルト「でも、アヤミさんすごく綺麗だし僕なんかが恐れ多くて」
ヒカリ「そんなことない、だって営業スキルもあるんでしょ」
ハルト「いやいや仕事は見かねて買ってくれる事が多いだけで。それに……(チラと視線送り)」
ヒカリ「何?」
ハルト「僕、女性とちゃんと付き合ったことがないっていうか、自信なくて……」
ヒカリ「……大丈夫、私でよかったら協力するよ」
ハルト「本当ですか! ヒカリさん」
ヒカリとハルト、笑顔で見つめ合って……。
○駅前(夜)
ヒカリ、アヤミ、ハルト、ノノカ、伊藤、高橋が解散しようとしている。
アヤミ「私も地下鉄組!」
と、ハルトにくっついていくアヤミ。
ハルト「一緒に行きましょー」
並んで歩くアヤミとハルト。
を、ヒカリはほほえましく見守ってから、別方向へ歩いていく。
ハルト、振り向いて、
ハルト「(ヒカリを見つめている)……」
○納骨堂・受付カウンター
ヒカリ、アヤミが横並びに座って受付をしている。
アヤミ、立ち上がる。
アヤミ「じゃ休憩行くね」
と、ヒカリは呼び止めて、
ヒカリ「アヤミさん、つかぬことをお聞きしますが」
アヤミ「何」
ヒカリ「お好きな映画って……SFとホラーならどっち、です?」
アヤミ「うーん、怖いのは苦手。何で」
ヒカリ「いえ、最近何か流行ってるかなーって思って」
アヤミ「じゃ、行くね(と、その場を離れ)」
ヒカリ「行ってらっしゃーい」
と、スマホを取り出してラインを開く。
ハルトとのトーク画面。
ヒカリ、『ホラーはNGだって』と送信。
ヒカリ「(口の中で)ったく、そのくらい自分で聞けばいいのに」
とぼやくが、ハルトからありがとう的な猫のスタンプがすぐに返ってくる。
ヒカリ「(笑みがこぼれ)」
○ヒカリの部屋(夜)
ベッドで眠ろうとしていヒカリ。
スマホが震え、見るとハルトからライン。
『ヒカリちゃんのおかげ。週末うまく行きました! タピオカ並ぼうって言ったら露骨に嫌な顔されたけど。ジョークなのに(泣き顔)』
ヒカリ「(吹き出して)目に浮かぶ。よしよし(と布団をかぶる)」
○納骨堂・門(日替わり)
エントランス付近壁に『ペットのお墓承ります』と犬や猫のイラストの入ったポスターを貼るヒカリ。
アヤミが笑顔で接客しているのガラスドア越しにチラ見している。
ノノカ、やってきて、
ノノカ「アヤミさん、いい感じっすよねーこないだのハルトさんとどうにかなってるのかな」
ヒカリ「(すっとぼけ)んーどうかなー」
○電車(夜)
ヒカリ、スマホをみてニヤついている。
○ヒカリの部屋(夜)
風呂上りのヒカリ。
素肌にバスタオルで、ベッドで震えるスマホを慌てて取って、
ヒカリ「……何わざわざ電話までしてきて(笑って)……元カレの話? まあ聞かない方が無難だよね……うん。……え、下見? いいけど……ほんと? 告白するんだ……」
○高層階ホテル・外景(夜)
都会の夜景の中に浮かび上がる30階以上のタワーホテル。
○高層階ホテル・バー(夜)
奥の席で待っているハルト。
ドレスアップしたヒカリ、覚束なげにやってくる。
ヒカリ「お待たせ、こんないいとこだったんだ。緊張しちゃうな」
ハルト「ヒカリちゃん、可愛い」
ヒカリ「(照れて)まあね」
× × ×
カクテルに口をつけるヒカリ。
を、じっと見つめるハルト。
ヒカリ「(見返し)」
ハルト「ヒカリちゃんに相談できて感謝しかないよ、やっぱり女の子の意見てためになる」
ヒカリ「それはよかった。がんばってね、告白」
ハルト「はい。ってフラれたら何だったんだって話(笑って)」
ヒカリ「(笑って)」
ハルト「はー」
と、テーブルに伏せるようにして窓外を見る。
ハルト「なんかさびしい」
ハルトの眼の中に青く輝く夜の街が映る。
ヒカリ「(その横顔を見て)何が」
ハルト「だってヒカリちゃんとこんな風にやり取りしてて楽しかったから。終わっちゃうんだなって」
ヒカリ「……(何も言えずグラスを指でなぞる)」
〇同・エレベーター(夜)
ヒカリとハルト、乗り込む。
他に乗客はいない。
ヒカリ、夜景側を見て立つ。
ヒカリ「今日はありがとう、楽しかった」
と、急にハルトがヒカリの背後から腰の辺りに両腕を回し抱きしめてきて……。
ヒカリ「! ちょ、何して(と離れようとするが)」
が、ハルトは強引に腕を緩めない。
ハルト「(耳元で)いつの間にか好きになってた、ヒカリちゃんのこと……」
ヒカリ「(ドキッとし)どうしたの、今日おかしいよハルトさんっ」
ハルト「お願い、このままこうしてたい」
ヒカリ「……やだ。人来ちゃうって」
ハルト「(強く)来ないよ」
ヒカリ「(ハルトの体温を感じ)……」
煌めくビル群の中へ落ちていく二人。
いつの間にか「チン」とドアが開きロビー階にいる。
待っていた乗客を気にし気まずそうに出るふたり。
スカートを直しながらヒカリ、
ヒカリ「(ハルトを睨むが、まだドキドキして)」
ハルト「ははっ、動揺したでしょ、冗談だよ」
と、屈託なく笑う。
ヒカリ「(驚いて真っ赤に)」
ヒカリ、ハンドバッグを振り回しハルトにぶつけ、
ヒカリ「帰る」
と、いたたまれなくなって歩き出す。
ハルト、慌てて追いかけて、
ハルト「(ヒカリの肩に手をかけ)ごめん、怒ったよね」
ヒカリ「怒るよ、だってそれじゃ……」
ハルト「……」
ヒカリ「(口の中で)本末転倒っていうか……」
ハルト「……さっきの、冗談って話だけど――」
ヒカリ「(遮って)あなたがアヤミさんと付き合うために私協力してたんだよ? 真面目にやってもらわなきゃ困る」
ハルト「(うつむいて)うん……」
ヒカリ、踵を返し走り去る。
取り残されたハルト。
ハルト「(切なげに)……」
〇歩道(夜)
息を切らし家路までの道を走るヒカリ。
ヒカリのM「そんなこと、考えたことなかった。だって、もし私がハルトさんと付き合ったら、アヤミさんは……!」
ぶんぶんと首を振って、
ヒカリ「ありえない!」
〇ヒカリのマンション・浴室(夜)
湯船につかっているヒカリ。
× × ×
ヒカリの腰にぎゅっとからめてきたハルトの腕。
ハルトの声「好きになってた、ヒカリちゃんのこと……」
× × ×
ヒカリ、きゅんとして湯の中に沈む。
○ヒカリのマンション・部屋(夜)
ベッドの中で眠れずにいるヒカリ。
○納骨堂・休憩室(日替わり・昼)
ボーッとしてクマができているヒカリ。
スマホを出しラインを開ける。
ヒカリがハルトに送信した『帰っちゃってごめんなさい、怒ってないから』が既読無視のまま……。
ヒカリ「(溜息)」
○同・中庭(昼)
池の前にしゃがんでいるヒカリ。
鯉に餌をあげている。
水面に映ったゆがんだヒカリの顔、物憂げ。
ヒカリ「(鯉に)確かに私の事好きって言ったんだから。でも、冗談って言ったから、やっぱり言われてないってこと?」
鯉 「(パクパクとヒカリの声で)そうよ、何勝手に意識してんの。しかもあんた結構ひどく拒絶してた。そりゃ連絡も来なくなるわ」
ヒカリ「もしかしてもうアヤミさんに告白したのかもしれない」
鯉 「そうね、もう告って付き合ってるかも。ハルト君あんたのことなんか本当は興味ないんじゃない? 一時の気の迷いってやつ」
ヒカリ「(胸が痛い)……」
○同・応接室(昼)
利用客女性の広瀬(55)がチワワを抱いてテーブルでヒカリと打ち合わせしている。
広瀬、今にも泣きそうな表情。
舌を出した別のチワワの写真を出して、
広 瀬「ペロちゃんが3日前に入院して。そこで初めてよ、持って一週間て言われちゃって(涙ぐみ)……もしもの時のために相談しておこうと。(チワワに)ねぇポンちゃん」
ヒカリ「それはお辛いですね」
ヒカリ、ペット葬儀のパンフをスッと出して、
ヒカリ「うちでしたら火葬から納骨、法要の全工程を承っておりますので」
パンフには、犬や家のイラストでペットの納骨までの流れが示されている。
広 瀬「それは心強いわね」
ヒカリ「(得意げに)火葬は立ち合いコースとお任せコースがありまして、ご自宅の傍でも火葬できますよ。広瀬様はどちらに……」
広 瀬「……ちょっと、あなたどういう神経で言ってんの(キレ始め)ペロちゃんが死ぬ予定なんてないのよ!」
○同・寺務所(昼)
ヒカリ、アヤミに説教されている。
アヤミ「赤石さんやっと慣れてきたと思ったのに、どうして。要注意顧客ってわかってたじゃない」
ヒカリ「すいません」
アヤミ「じゃなくて。理由を聞いてるの」
ヒカリのM「ねえ、何か言ってました、ハルトさんは?」
ヒカリ「すいません、何か心ここにあらずっていうか……」
ヒカリのM「なんて聞けない」
アヤミ「はぁ?(とキレて)」
ヒカリ「(震えあがり)」
○ヒカリの部屋(夜)
ヒカリ、日記をつけている。
ヒカリ「やっぱりアヤミさんはダメ。こっちが機嫌保とうとしたって、性根が腐ってるから……」
○カフェ・中(日替わり・夕)
ヒカリ、ハルトとテーブルで向かい合っている。
ハルト「アヤミさんと付き合うなって? それを言うために?」
ヒカリ「……」
ハルト「俺は本気でヒカリちゃんを思ってた。で、ヒカリちゃんは俺を振った。もう関係ないじゃない。何でそんなに尊敬してる先輩のこと悪く言うの」
ヒカリ「それは……事情が……」
ハルト「……負け惜しみじゃないけど、見損なった」
席を、立つハルト。
ヒカリ「(うつむいて)……」
○歩道(夕)
足早に去っていくハルトを追いかけるヒカリ。
追いついて、ハルトのジャケットをつかむ。
ヒカリ「ハルトさんっ……」
ハルト「(振り向いて)」
ヒカリ「(泣きそうな目で見つめ)……」
ハルト「(驚いて)何」
ヒカリ「……」
ハルト「言ってくんなきゃわかんない」
ヒカリ「……(消え入りそうな声で)好き、なの……」
ハルト「(グッときて)」
ハルト、人目はばからず路上でヒカリを抱きしめる。
続く
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