第2章 出会い

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 わたしはカフェテラスに座りながら思ったものです。バルセロナには、こんな綺麗な娘がいるのか、と。こんないい娘がいるのか、と。

 色白で、ナイーブそうで、その面持ちからは、娘の優しい性質が充分に伝わってきました。髪は栗色に近く、眉も目も栗色、しかし彫りはあまり深くなく、鼻もさほど高くなく、スペイン人としては柔らかな印象を与える顔立ちでした。そして太ってもなく、かといって痩せてもなく、背は百五十五センチくらいだったでしょうか。

私がその店に行くと、それまで分厚い本を読んでいた彼女はわずかに顔を上げ、ちらと私を見ます。そして語学学校に通い始めて二週間ほどが過ぎた頃には、わたしがその店に行くと、わたしたちはオーラ(こんにちは)と、声を交わすようになっていました。

「日本人?」

 初めに言葉をかけたのは彼女のほうからでした。ひかえめな、恥ずかしそうな声でした。

「うん」

「バルセロナには何しに来たの?」

「うん、まあ、短期の留学だけど」

「いつ来たの?」

「三週間くらい前だよ」

「じゃあ、もうバルセロナはだいたい見物した?」

「いや、まだそれほど」

「じゃあ、私が案内してあげましょうか?」

 娘の唐突な言葉に、わたしは日本人らしく、曖昧に答えました。

「ありがとう。じゃあ、機会があったら」

 ところが、娘はこういいました。

「じゃあ、明日でいい?」

「明日?」

 わたしは娘がどこまで本気なのか分かりませんでした。

「そう、明日。いい?」

「いいけど……」

「あなた名前は?」

「ケイスケ」

「私はコリーナ。じゃあ、ケイスケ、明日、ここにいつもの時間に来てね。ピカソ美術館はもう行った?」

「いや、まだ」

「じゃあ、行きましょうよ、明日」

「ありがとう。楽しみにしているよ」

「じゃあ、明日ね」

「じゃあ……」

 コリーナは勘定をして席を立つと、手を振りながら街中へ消えて行きました。

 わたしは思いました。――な、なんで? なんでこんな素敵な娘がオレを? ピカソ美術館へ?……

     

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