第11話 あの時の気持ち

 私には高校入学してできた仲の良い友達がいた。

 色白で小柄で、とてもかわいらしい子だった。

 よく買い食いしたり、二人で買い物しに行ったり、とにかくよく遊んだ。

 ただ、友達は時折、苦しそうな表情を浮かべていることがあって、それを聞こうとすると、なんでもないよ、と取り繕われてしまった。それを見て深くは言いたくないんだな、と思ったアタシは黙っていることにした。


 高校が始まって半年たったある日。

 2人で学校内をいつものように話しながら歩いていた時のこと。

 友達がいきなり、苦しそうな表情を浮かべてしゃがみこんだ。

 ひゅう、ひゅう、と苦しそうな声が聞こえて明らかに顔色が変わり始めてまずい状況だとすぐにわかった。

 慌ててアタシが周りの人に助けを呼びに行こうとすると、その手を友達が掴んだ。


『絶対に呼ばないで。じっとしてれば治るから』


 その時の友達の表情は必死な顔をしていた。それこそ、違ったことをしたら一生恨む、というような迫力があった。

 友達は警告したものの、じっとしてても治るどころか呼吸がどんどん早くなっていくし、呼びかけても反応も戻ってこなくなってしまった。

 迷ったアタシは友達を背負うと一目散に保健室に向かって先生に助けを求めた。

 保健室の先生は友達の背景を知ってたみたいで、すぐに救急車を呼んでくれて、アタシも一緒に病院に行くことになった。


 結果的に友達は肺に病気を持ってて、一時的な発作が起きてしまったとのことで薬が投与されたらすぐに呼吸の状態は落ち着いてくれた。

 問題は、そのあとだ。

 医師の先生に経緯を説明して、看護師さんから目を覚ましたと聞いてアタシは友達の病室に走って向かった。

 扉に入るなり、熱いお茶をかけられて友達は叫んだ。


『あれだけ呼ばないでって言ったのに! アンタのせいで、この先の私の3年間はつぶされたんだ!』


 目を覚ますまでの間、家族の人から話を聞いたところによると、その子は高校に入るまで、病弱で学校に通えなかったそうだ。たまに行けたとしても二カ月に一回程度、そのくらいだったらしい。仲良くなって病状を話してしまうと、まるで腫物に扱うかのように彼女のことをみんな避けた。だから、高校では絶対に病気のことは知られるまい、と決めていた。

 けれど、発作が起きてしまった。

 友達は大ごとにされるのを嫌っていた。けど、アタシは構わずに友達を背負って校内を走って保健室に向かってしまった。

 他の生徒に何かあったと知らせてしまったも同然だった。

 立ち尽くすアタシの前に、叫ぶ友達の声を聞きつけてやってきてアタシと友達を引き離した。

 いろんな人が友達に、せっかく助かったのに、と友達に声をかけているのが聞こえたけど。

 彼女の泣き叫ぶ様子を見て、アタシは叫びたくなった。

 命は助かったし、代えられるものじゃない。

 けれど、同じくらい今この時間も、高校生活を過ごせるこの時間も大事だったんだって。

 放課後やいろんな時間を一緒に過ごしていて、いろんなことがはじめてだって言ってて、すごく楽しそうにしていたからでこそ、友達の気持ちが痛いほどわかってしまった。

 そして、わかってからでこそ、自分が取り返しのつかないことをしてしまったのだと気づいて、胸元の熱さも忘れてアタシは立ち尽くした。

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