第6話 ある日の二人

『今日は、ゲームで知り合った人と難易度の高いクエストに挑みました。

始めてまだ2週間ぐらいなんですけど、こんなに早く到達できるとは思わなかったです。

このままいけば、最上級クエストまであまり時間がかからずに挑めそうです。

それまでに装備やアイテムをそろえて、準備しておこうと思います。

皆さんと挑むのがとっても楽しみです』



Toitterの自分のアカウントからゲーム内でスクショした画像とコメントを張り付けてわたしは微笑んだ。

今、本当に毎日が楽しい。

一人じゃなくて、他のしかもたくさんの人とゲームをする。

そのことがうれしくて仕方ない。

そして、何より。

かつさん。

すごく明るくて、ゲームが上手くて、皆さん頼りにしている、すごい人。

わたしが今いろんな人と遊ぶことができるのは、かつさんのおかげだ。

おねーちゃんみたいで、そんな人からかぎっこちゃんとあだ名で呼んでくれるのがわたしはうれしかった。


「ごほっ」


息苦しくなって思わずせき込む。

ごほっと何回かせき込んだところでようやく落ち着いてくれた。

ぽんこつな身体が恨めしい。

もう少し長く遊びたいのに。


ぶぶん、とスマホが振動して画面を見ると、先ほどあげた投稿に一人返事を送ってくれていた。

名前を確かめると、長い間お世話になっていた人からだった。わたしの身体が良くなってからはあまりお世話にならなかったけど、去年関東に引っ越してしまったのは寂しかった。

この知り合いの人もゲーマーだって言ってたから、返事をくれたのだろう。

なつかしく思いながらわたしは、ぽちぽち、とメッセージを打った。





「お、早速あげてる」


今日のクエスト終わりにSNSに投稿するためにスクショ撮っていいですか、とかぎっこちゃんから聞かれ、了承した。

かぎっこちゃんのアカウントには今日のプレイの様子が日記のように投稿されていた。もっと難しいクエストに挑むのが楽しみだ、と書かれている。

かぎっこちゃんの楽しい気持ちが滲みでる投稿ににやけてしまう。

牛脂さん、ラードさんだけでなく他のプレイヤーとも引き合わせ、最近はアタシ抜きでもクエストに挑むこともでてきた。

そこには遠慮するような縮こまるプレイはない。

元々かぎっこちゃんが礼儀正しいこともあって、先輩プレイヤーから愛されて伸び伸びとプレイしているのは嬉しいことであった。


「じゃ、アタシも一言返そうかな」


投稿しようと画面に触れようとした途端、かぎっこちゃんの投稿の下に新たなメッセージがついた。


『お久しぶりです。楽しそうな様子が伝わってきますね。僕もこのクエストには手を焼かされました。

最近、身体の調子はどうですか?無理せず、楽しく挑んできてください。応援してますよ』


体調を心配する内容を読んで目が点になる。

この書き方だと、相手は大人だ。

気になってアタシはメッセージを送ってきた相手のアイコンをタップする。


「成谷……小児循環器専門の医師」


プロフィールを読んで調べると、近所に構える大手の病院、そこに勤務している医師だった。

その病院名を見てふと、記憶が蘇る。


『アンタのせいで、この先の3年間をつぶされたんだ!』


ベージュ色の病室、恨みの声、かけられたお茶とブラウスについてしまった染み、その後に広がった熱さ。

ぐっ、と唇を噛み締めて胸元を抑える。

もう火傷の痕なんてない。とっくに治ってる。それでも、痛みが走っている。

どうして痛いのかは……………………………………………。


落ち着け、落ち着け。

意識的に深呼吸しながら息を整える。

そうだ、もう始末をつけたことだ。

もう、軽はずみなことはしないと、反省したはずだ。

冷静になれ。

言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。


「かぎっこちゃんもそうと決まったわけじゃない」


そうだ。

文面を読む限り体調はもう大丈夫そうな様子だ。

だから、落ち着け。

手で胸元を軽くさすって言い聞かせると、不安が少しずつ和らいできた。


「気にしすぎなだなぁ、アタシ」


少し思い出しただけでこれだ。

動揺が酷いにも程がある。

自分の弱っちさを笑う。

自虐的に笑みを浮かべたところで、ようやく気持ちが落ち着いてくれた。


気を取り直してメッセージを返すべくスマホの画面を見る。

すると、メッセージを投稿した医師へかぎっこちゃんが返信をしていた。


『お久しぶりです、先生! 元気です。今度先生とも一緒にクエスト行きたいですね』



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