第7話 リプレイ
かぎっこちゃんがSNSに投稿をして翌日。
アタシはいつものようにハンティングゲームにログインしてかぎっこちゃんを待っていた。
画面ではアタシのキャラがやる気満々といった様子で腕を回している。現実では、アタシは忙しなくスマホの画面を眺めていた。
風邪が長引いている、というメッセージを見つけた後、アタシはかぎっこちゃんに体調が大丈夫かと何度も聞いてしまった。
『風邪っていっても咳だけなので大丈夫ですよ。だいぶ良くなってきました』
といったような返信がきた。とにかく大丈夫だからと誤魔化すような内容で、それにまたアタシは不安になった。
(今日、咳き込んでたり、体調悪そうだったら止めて休むように言おう)
心の中でそう決めると、かぎっこちゃんがログインしたと表示された。
「かつさん、今日もよろしくお願いします」
元気良くかぎっこちゃんが挨拶する。その声はいつも通りで変わりないように思える。
「ごめんね、何度も聞いちゃって、心配だったから。体調大丈夫?」
「平気ですよー。咳は落ち着きました」
「そっか」
どうやら、アタシの取り越し苦労だったようだ。
早速、クエスト行きましょう、と急かすようにかぎっこちゃんが言い、アタシ達は二人で準備を整えると、いつものようにクエストに向かった。
火山の溶岩洞を舞台にした上級クエスト。
牛脂さん、KCさんも加えた4人で攻略したものだ。
複雑なマップギミックを使うものではなく、大型の巨獣を倒すだけの内容なので装備が格段に強くなったアタシやかぎっこちゃんの二人だけでも行けるだろうと挑むことにした。
ただ、予想外に相手が硬く、なかなかHPを削ることができない。
気づけばクエストを開始して40分が経過。
そこでようやく巨獣が足を引きずりはじめた。
「かぎっこちゃん、閃光爆弾投げて動き止めるから! このまま畳み掛けるよ!」
「はい!」
アタシがアイテム欄から素早く選択し、投げるモーションを取ろうとする。
「ゴホッゴホッ!!」
激しく咳き込む声がヘッドセットから響いた。
「かぎっこちゃん!?」
モーションをキャンセルして、問いかける。
「ううっ…………………………………!」
何か苦しそうな声をあげた後、かぎっこちゃんのアイコンからマイクが切断されました、とメッセージが表示された。
何か尋常じゃないことが起きたことを察して、コントローラーを投げ出しスマホを掴み取る。
かぎっこちゃんにメッセージを送る。
が、当然の如く返信はない。
どうする、どうしよう、どうする、どうしよう???
混乱する頭が電話しろ、と命令するが一瞬躊躇してしまう。
同時に浮かんだのは、
『呼ばないで!』
と叫んだ友達だった子の姿。
けど、ここで迷ったら、かぎっこちゃんはどうなる?
(電話して何事もなかったら、それでいいじゃないか!)
自分を叱咤して、スマホのSNSアプリからかぎっこちゃんにコールする。
5回、6回……。
コール音が重なるが、出る気配はない。
プレイする時、SNSでやり取りをすることもあるので、かぎっこちゃんが手元にスマホを置いてない可能性は低い。
それが、こうして出れないということは、つまり………。
嫌な予感が膨らむ。
土曜日の11時。この時間帯は両親とも開業してる歯科診療所で働いている時間だ、と以前かぎっこちゃんが話していた。
ということは、今かぎっこちゃんの側には誰もいない。
SNSのかぎっこちゃんのアカウントから辿って、ご両親が開業している歯科診療所のアカウントまで調べる。
咄嗟に電話ボタンを押そうとしたところで指が止まった。
(アタシは今、何をしようとしている? かぎっこちゃんのプライベートを調べただけじゃなく、両親に話す、というのはやりすぎじゃないか? もしこれで、実はかぎっこちゃんがたいしたことなかったら? またおせっかいだったら?)
高速で思考する声が馬鹿なことは止めろ、とアタシにブレーキをかけさせる。
何をしたのか思い出せ、と言わんばかりに友達だった子から恨まれた時の光景がフラッシュバックした。
けど、けど、でも…………!
「うるさい、うるさい、うるさい!」
叫び、胸元を叩く。
痛みで雑念をとばし気合を入れると、電話のボタンを押した。
1回、2回。
『はい、もしもし、上坂歯科です』
「あ、あのもしもし! アタシは榎宮勝子って言って、そちらにお勤めの上坂先生の娘さんと友達で……!」
焦りながら話していく。何言ってんだろう、アタシ。
「さっきも遊んでいたんですけど、その、急に娘さんが咳き込み始めて、メッセージ出しても連絡取れなくなって!」
きっと信じて貰えないだろうな。かぎっこちゃんの本名も知らなかったし。詐欺かなんかって思われてるよね。アタシでも思う。
『あの、先生は今診察中でして』
焦っている声に対して、相手も戸惑うように話す。
ああ、そうだ。職場にかけたからといって、直でかぎっこちゃんの両親に繋がるわけないじゃないか。
「信じてくれないと思います。わかってます。でも、お願いします、かぎっこちゃんと連絡とってみてください、ご両親に伝えてみてください、お願いします!」
『あの………』
電話口の人が何か言う前に、アタシは通話終了のボタンを押した。
そこで、ようやく力が抜けた。
ああ、やってしまったな。
あれだけうるさかった自分の思考が冷たく感想を告げると、ひとりでに目から涙が溢れた。
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