第5話 はじめてだらけの4人プレイ
日にちは進み、かぎっこちゃんと約束したハンティングゲームで遊ぶ日。
かぎっこちゃんと合流する前にアタシは知り合い二人と先に合流していた。
「というわけで、Toitterで話してたとおり、今日は接待プレイをお願いしたい」
「えーと」
「かつの姐御の頼みなのはわかるけど」
細見でのっぽな体格の戦士、牛脂さんと、ごつめのずんぐりむっくりな戦士、ラードさんがやる気なさげに話す。
この二人は他のゲームで知り合い、他にも様々なゲームでもよく遊ぶ気の知れた友人だ。
「ゲームの腕は確かなんだけど、あんまりオンラインプレイに慣れてない子なんだ。それで二人にお願いしたくて」
「それは聞いてたけどさあ」
「ラード、姐御の知り合いだぞ。こういう風に話すってことは今回の子はおそらく女だ」
「牛脂、女でも姐御の知り合いってことなら女子高生だ。そんなもん彼氏持ち以外の何物でもねえだろ。すでにお手付きの女子なんざ興味ないって」
ラードさんの言葉に、牛脂さんが確かになー、と頷いて、げへへとゲスい笑みを二人で浮かべる。
ちなみに、二人とも現実では既婚者である。ラードさんに至っては二児の父だ。
本当にこの二人で良かったのだろうか、と不安に思いつつアタシは爆弾を落とすことにした。
「そっか、なら他の人に話そうかな。その子、女子は女子でも小学生なんだけど」
「JS!?」
「まじで!?」
ラードさんと牛脂さんが間髪いれずに食いついた。
「かなり純粋で良い子でアタシ以外まだ他のプレイヤーとチャットプレイしたことなくて緊張してるから、そこを大人な二人に頼んだんだけどなー。これで無理ならKCさんに頼もうかな」
男の人と初プレイ、この単語を出せば大抵食いつく、と先輩女性プレイヤーからのアドバイスを発揮して揺さぶりをかけた。と言っても二人の奥さんからの言葉なんだけど。
ただ、効果はてきめんだった。
「まてまてまて姐御!」
「KCはやばい! 悪い奴じゃないが変態紳士を地でいく変態の中の変態! あれに女子小学生引き合わせたら間違いなく鼻血出しながらプレイするからやめろ!」
ラードさんがあることないこと言ってKCさんのことをけなす。KCさんは、普通にイケメン大学生のいい人だ。鼻粘膜が弱いのか鼻血をしょっちゅうだすから勘違いされやすいだけで。
アタシからしたら、よっぽど二人の方が変態の部類なのだけど。ただ、食いついてくれたからにはありがたい。
「接待プレイは嫌だったんじゃ? やりたくないって言うなら無理にとは……」
「「喜んでやらさせてください、おなしゃす!」」
ダメ押しのためにもう一声かけると、秒とかからずに返事が即きた。現金すぎるわ、この二人……。
「ありがとう。じゃあ、よろしく。早速なんだけど、かぎっこちゃん来る前にあらかじめポジション決めといたほうがいいと思うんだ」
「じゃあ、俺盾役!」
「俺、壁役!」
これまた即答で二人が答えた。その頭をリアクションコマンドの中のパンチで殴った。
「盾役二人もいらんわ!」
「えーだって、姫、お守りいたしますぅって、騎士役必要じゃん」
「いたいけな小学生を渋い中年が守るってところにロマンがあんだよ」
ラードさんと牛脂さんがさも当然といった様子で話す。
女子小学生が相手だと知って完全に遊ぶモードに入りやがったな。
4人のうち少なくとも2人はアタッカーをやってほしかったのだが、すでに二人はそれっぽいのないかなー、と自身の装備ボックスをあさり始めていた。こいつら、接待プレイだって言ってるのに。
しょうがない、ここはアタシがアタッカーやるしかないか。このゲームに関しては初心者だけどかぎっこちゃんにアタッカー回ってもらおう。
割と凹凸の激しいグラマラスの女性キャラに攻撃的な鎧や大剣を装備させていく。
(かぎっこちゃんの受けれるクエストに合わせるとこのランク帯の装備か……)
装備設定が完了したところで合流申請の知らせが来たので、許可するとすぐに幼い声が響いてきた。
「すいません、お待たせしましたー」
小柄な女性キャラがアタシのキャラのところに走ってきた。
このゲーム内では性別と年齢一致させるようにしてるって話をしたら、じゃあ合わせます、と言っていたから、現実年齢と合うようにしてきたのだろう。
初期装備がもこもことしたローブのような外観なのでよく似合っている。
「いらっしゃーい。よろしくね」
「はい、かつさんよろしくお願いします!」
声とともにキャラがぺこりとお辞儀をした。
そんな微笑ましいやり取りをしているそばで、ちらりと画面を足元に移すと二人の重装備の戦士がひれ伏していた。
「なにやってんの?」
「いやあ、尊いなあ、と」
「ありがたやー、ありがたやー」
未開の地の原住民が神をあがめるかのように、いい大人二人がお辞儀をしていた。あほか!
「えっと……」
「ラード、と言います。かぎっこさんお見知りおきを」
「牛脂です、どうぞよろしく」
戸惑うかぎっこちゃんに対してダンディさをアピールするように低めの声で二人が話す。とことんおバカだ。
「ここに、KCさん加えて油分三兄弟なんだけど、それはまた次回で。とりあえずぞんざいな対応でいいから」
「姐御ぉそりゃないぜ、頼りになる、とか熟練の、とか少しぐらい箔つけて紹介してくれたっていいじゃん!」
「馬鹿言ってないで、とっととクエストあげてきて、ラードさん!」
「おう、姐御からの蹴りだしぃ! けどそれもご褒美ですぅ」
ラードさんをキックして送り出すと嬉しそうな声を返しつつ、走って行った。
……人選やっぱり間違えたかもしれない。
ラードさんが選んできたのは、初心者が遊べるクエストの中ではそこそこ難易度の高いクエストだった。
巨獣も出るけれど、初心者でも倒せなくはないぐらいのHPに設定されている。
程よく基本アクションを駆使しないといい素材がドロップしないようになっているので、初心者がアクションを覚えるのにはうってつけのクエストだ。
なんのかんのと言いつつ、その辺のツボを抑えるのは別RPGでもギルマスを担ってただけあってラードさんは上手い。
「このクエストチョイス、流石だね」
「わーい。なら姐御、ご褒美のキックちょーだい」
「断る」
こういう絡みさえなければいいい人なのだが。
「かぎっこちゃん、この先登攀が必要になるから、ロープをショートカット設定にしておこう。スタートボタンで出てくるメニューで……」
「えっと、二番目のショートカットキー振り分けですか?」
後ろでは穏やかにかぎっこちゃんと牛脂さんが話している。
なんのかんのと言いつつ、牛脂さんもサブマスをつとめていたことがあるので、初心者に対して面倒見がいい。
この二人にお願いして良かった、と少しほっとした。
登攀できる箇所で軽くアクションを確認した後、巨獣の眠るマップへと移動する。
物音を立てないように中腰移動していくと、岩陰に巨獣は眠っていた。こちらに気づいた様子はなく、じっとうずくまっている。
「どうする? 捕獲狙う?」
「いや、初だから討伐。ただし、もらえる素材は全剥ぎ狙いで」
問いかけてきた牛脂さんに対してあっさりとアタシが答える。
「おおう、流石は姐御。上級者多くて逆に厳しいのに条件つけてくるねえ」
「そうなんですか、ラードさん?」
「装備が強すぎると、尻尾とか壊す前に本体のHPを削っちゃって倒しちゃうのよ。だから、姐御が生かさず殺さずの締めあげドSプレイをどこまでできるかが鍵……」
「とんしさん、小学生に変なことを吹き込むのはやめてくれるかなあ?」
「昔ギルマスしてた時のプレイヤーネームで呼びつつ凄むのやめてぇー!?」
まったく、ちょっとでも気を緩めればすぐアダルトな方向の発言が飛び出てくるので要注意である。
「じゃあ、初撃はアタシから。その後、かぎっこちゃんとアタシで自由にアタック、牛脂さんとラードさんはフォローよろしく」
「わかりました!」
「へーい」
「ほーい」
やる気満々なかぎっこちゃんの声とふざけるおっさん二人の声を背に、アタシは巨獣の背中に向けていっきに近づくと大剣を振り下ろした。
初撃をきめこんだ後、即座にアタシはバックステップで離れる。
というのも、この巨獣は寝てるところを起こした瞬間、尻尾の棘をいきなり飛ばしてくるからだ。
「姫、危なーい!」
「爺がお守りいたします!」
牛脂さん、ラードさんがすかさずかぎっこちゃんを庇うように前に立って盾を構える。
言ってたとおり、騎士ごっこする気満々らしい。
「何が爺だ、この変態! 少しはこっちに来て庇えよ!」
「アマゾネスに盾いらんやろ!」
「姐御ふぁいとー(棒)」
こいつら、あとで殴り倒す。
「あ、ありがとうございます!」
「かぎっこちゃん、敵の初撃終わったらすかさず攻撃、畳みかけるよ!」
「りょうかいです!」
盾二人を抜けてすかさずかぎっこちゃんが初期装備のダガー片手に駆け出す。
巨獣の振り回し、突進攻撃をかわしながら素早くかぎっこちゃんは敵の隙に合わせて攻撃をたたきこんでいく。
「かぎっこちゃんいい筋してるなあ」
「思い切りいいねえ」
牛脂さんとラードさんがほくほくとしながら様子を眺める。隙を見てちまちまダメージを与えつつ、時折躱すのが難しい攻撃や回復いれたいタイミングでフォローに入ってくれる。
「かつさん、なんか攻撃いれた後に変なボタン表示が出たんですけど」
HPをある程度削ったところで出てくるマウントアタックの表示だ。思ってたよりも早くタイミングが来たか。
かぎっこちゃんのHPはまだそんなに減っていない。ならばいけるか。
「次表示出たらそのボタン押して、登攀した時の要領でしがみついて!そうすれば攻撃届かない箇所にダメージ与えられるから」
「わかりました!」
アタシの指示から狙いを察して、ラードさんが隙を作るために何かを投擲する。
直後、画面が閃光で一瞬白く染まり、巨獣の動きが止まった。
その頭部目掛けてアタシは大剣を振り下ろす。
すると、巨獣が前後不覚に陥ったことを示すように頭を揺らした。
今なら攻撃の届かない背部へ登攀できるはずだ。
すかさず、かぎっこちゃんがロープを駆使して背中へと登り上がる。
と同時に、巨獣が目を覚まし怒りの咆哮をあげた。
(あー、やっぱり怒ったか)
HPをある程度削り、前後不覚状態にさせた後、一定確率で憤怒モードに入ってしまう仕様になっていた。
こうなると、巨獣の攻撃スピードとこちらの受けるダメージが増える。
そして、登攀維持の難易度が上がる。
「あ、わ、わ!」
「頑張ってしがみ続けてー!」
かぎっこちゃんが持ち前のセンスを活かしてしがみつく。しがみつくだけで部位にダメージは与えられるのでこれも立派な攻撃になる。
ただ、突然表示されるボタンをタイミングよく押し続けないといけない。
「あ!」
突進攻撃の際に表示されたボタン即押しの判定に失敗し、かぎっこちゃんの身体が巨獣の背中から投げ出された。
「ラード、任した!」
かぎっこちゃんに突進しようと巨獣が迫る。かぎっこちゃんは、地面に叩きつけられて頭をぐわんぐわん揺らしている。前後不覚状態になってしまったのだろう。
だが、それを見越して牛脂さんとラードさんがフォローに回っていた。
巨獣の前にラードさんが立ち塞がってガード。
その間に駆けつけた牛脂さんがかぎっこちゃんに対して回復薬を使用した。
「ちっくしょ、牛脂の奴め、幼女に自分の液を飲ませるなんて、なんと羨ま……!」
「とんしさん?」
「な、ななんでもございましぇーん!」
馬鹿なこと言うエロおっさんに釘を刺しつつ、アタシは巨獣の前に向き直る。
そこへ、かぎっこちゃんの声が飛んだ。
「かつさん、登ってください! わたしがタイミング作ります!」
「いや、ここはかぎっこちゃんで」
「え?」
かぎっこちゃんが登れと勧めてくるがそれをアタシは拒否する。
失敗したことによっていつもの遠慮するという悪い癖が見え始めたことを察したからだ。
「けど、ここで時間がかかったら、牛脂さんやラードさんのアイテムを消費しちゃいます! それは……」
「べーつに気にしない、気にしない」
「回復剤にしろ、爆弾にしろ作りづらいもんじゃないから」
「ラードさん、牛脂さんが言ってるとおり。それに、登攀って難しいんだよね。だから、アタシがやっても一緒」
登攀のしがみつきの難易度に関しては初級であろうと上級であろうと変わりはない。アタシがやっても楽になるものでもないのは本当だ。
「それに、アタシ登攀用ロープ、さっきの練習で耐久限界きちゃって壊れちゃったのよ。だからかぎっこちゃんがんばって!」
「姐御予備用意してなかったのかよ」
「っても、俺も壊れたから出来んけど。牛脂は?」
「登攀ロープなんざ誰か一人持ってりゃいいだろ?」
登攀ロープが壊れるなんてことはない。だからアタシ達の言っていることは真っ赤なウソだ。
人に気を使わざるを得ない環境で遊んでたから無理もないかもしれない。一度失敗したから申し訳ない気持ちで萎縮してるのもあるだろう。
それでも、勇気を振り絞って、踏み出してほしい。
「失敗したって何とかなる」
「ここで上手くいきゃあ、いい練習になってもっと歯ごたえのあるクエスト行けるようになるしな」
「遠慮や苦手意識を持つよりも絶対楽しめるから」
牛脂さん、ラードさん、アタシでかぎっこちゃんに語りかける。
ここはゲーム、遊ぶ場だ。
安心して受け止めれる人たちばっかりなんだから、思いっきりはっちゃけよう!
「……わかりました! やってみます!」
かぎっこちゃんが短剣を構えると、駆け出していく。
それに合わせてアタシたちも巨獣へと駆け出していった。
十数分後。
かぎっこちゃんが3回目の登攀を成功させて、無事に全部位破壊を達成したアタシたちはほくほくとした雰囲気で拠点まで戻ってきた。
「くそう、アイツかぎっこちゃんに何度も馬乗りされやがって。男として往生際が悪くなる気持ちもわかる気がするが……」
「ラードさん、何度も乗るってそんなにいいことなんですか?」
ラードさんが漏らした戯言にかぎっこちゃんが純粋に問いかける。
もちろん、聞き流すほどアタシも寛容ではない。
「ああ、それは……」
「よくタイムラインに載せてた、2歳の娘さんとやってるお馬さんごっこのことで、だよね?」
「あ、あね…」
「だ・よ・ね? 自信がないなら奥さんにも聞くけれど」
「相違ないです、はい」
くそう、嫁さん引き合い出すなんて卑怯や……とラードさんがぶつぶつ呟く。
それは仕方ない。
「おいたしたらよろしくって言われてるからね~」
「ラードも形無しだなあ」
他人事のようにうっへっへっと牛脂さんが笑う。
「あ、牛脂さんの奥さんからも他のプレイヤーに浮気してたら締めあげるからよろしく、って遊ぶ前にメッセージ来てたよ。相変わらずべた惚れされてるね~」
「それはべた惚れとは言わん、束縛というんだ! 今日姐御と遊ぶこと言ってなかったのになんでアイツ知ってるんだよ!」
牛脂さんが慌てて声を出し、かぎっこちゃんがくすくすと笑う声が響く。
その時、かぎっこちゃんの声からひゅうっと音が聞こえた後、音声チャットが急に切れた。
「かぎっこちゃん?」
マイクが切れました、と画面の端に表示される。
どうしたんだろう、機材トラブルかな?
十数秒動かない様子が続き、心配していると再び音声チャットの表示が戻った。
「す、すいません! なんかマイクの調子が悪くなってしまって」
「大丈夫大丈夫。じゃあ、次のクエスト行こっか」
「あ、かつさんごめんなさい。この後家族と出かける用事があったことを私すっかり忘れてしまってて、行かないといけないんです」
申し訳なさそうにかぎっこちゃんが言った。
用事があるってことを疑うわけじゃないけど、プレッシャーかけるようなことをしたから、もしかして、スパルタすぎたから嫌になっちゃったかな、と不安になる。
「あ、あの…」
アタシが心配していると、かぎっこちゃんがか細く話しかける。
「ん?」
聞き返すと、かぎっこちゃんが大きく息を吸い込んで言った。
「今度はちゃんと時間作るので、また遊んでもらってもいいですか!? もちろんかつさんだけでなく、牛脂さん、ラードさんも一緒に!」
かぎっこちゃんの声には最初あったような申し訳なさが薄れ、純粋に楽しみたい、という気持ちにあふれていた。
「もちろん」
「「いいよ」」
アタシと二人が返事をすると、ありがとうございます!と嬉しそうな声が返ってきた。
どうやら、アタシの他のプレイヤーに慣れてもらう作戦はうまくいったようだ。
今度遊ぶ時にはもっと思いきったプレイをしてのびのびとできたらいいな、その時こそ抜かされてしまうかもしれないけれど。
でも、その時を想像してアタシはどこかわくわくして、自然と笑みがこぼれた。
「かぎっこちゃん、次遊ぶ時は、ディープな意味での遊びでもいいんやで?」
調子に乗ったラードさんの言葉。
それを聞いて、アタシは笑みを消して無言で現実のスマホを手元に引き寄せる。そして、ある人へと、ぽちぽち、とメッセージを送った。
「え? ちょ、ちょっとなんで急に部屋にそんな怖い顔して、え? え?ちょっとぉぉぉぉぉ!?」
ラードさんの断末魔を聞きつつ、アタシは心の中で合掌した。
……とりあえず、次の面子はもう少し考えるようにしよう。
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