第3話 生かし屋と称される凄腕プレイヤー(小学生)が生まれた世知辛い理由
予想外に幼い声にアタシは硬直した。
生まれてこの方初めてなんじゃないかってぐらいの硬直である。
他に硬直した瞬間があるか、と言われたら小学生のころに会心の出来のテストで名前を書き忘れて0点になって返ってきたテストを見た時ぐらいか。
(いやいやいや、そんなことを考えている場合じゃない)
ここまで上手くて人に配慮できるプレイをするのだからきっと社会人の男性かな、と勝手に想像していた。
ところがどっこい、聞こえてきた声は小学生かと思うほど幼い幼女の声じゃないですか。
こんなガチグロなホラーゲームを、深夜にプレイしてるって。
「あ、あのすいません。助けてくれてありがとうございましたってお礼を言いたくて声かけちゃいました! 失礼しました!」
声を聞いて硬直するアタシに対していたたまれなく思ったのか、かぎっこさんが音声チャットを切ろうとする。
「ま、待って待って!」
アタシは慌てて呼び止める。
そうだ。声が幼いからって年齢まで本当に幼いとは限らない。
「その、こちらこそありがとうございました」
「いえいえカット……さん?」
カット、とはアタシのプレイヤーネームKATを見て言ったのだろう。
本名を適当にもじっただけのネームだが呼びにくいだろうなぁ。
「かつ、でいいですよ。それにしてもなんでこのタイミングでチャットを?」
「かつさん、ですね。何度かごいっしょしたことがあるんで、前からお話してみたいと思ったんです。さっきみたいな他のプレイヤーを助けるプレイだったりやさしそうな人だな、と思って」
それは、かぎっこさんがそういうプレイを信条にしてそうだから合わせただけで、アタシは別にいつもこうではないんだけど。
それにしてもしゃべり方もゆったりとしていて、より幼く感じてしまう。
「そう言ってもらえてうれしいです。あの、かぎ……OTLさんと話せてうれしいです。ただ、声を聞いてびっくりしちゃいました。失礼かもしれないですけど、アニメ声っていうか、小学生っぽくてかわいい感じで」
「ああ、実はわたし小学5年生なんです」
「え?」
「ぽい、じゃなくて11歳です。本当です」
驚くアタシに対して念押しするように話す。そこから嘘を言っているようには聞こえない。
速報、かぎっこさん、ガチ小学生だったー!
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! な、なんでこの時間帯にしかもこんなガチグロなホラーゲームやってんのぉ!?」
驚いて先ほどまでの敬語ではなく、思わずアタシは素の口調で話してしまう。
「そ、そのぉ。本当は他にも遊んでみたいゲームがあったんですけど……」
というと、困りながらかぎっこさんが説明してくれた。
最初は有名オンラインRPGで遊ぼうとしたのだが、初心者歓迎というタグがついていたギルドに入ったところ、ランクを満たしていないからお断りだとはじき出され、他のギルドでも同様の扱いを受けて悲しくなって辞めてしまった。
次に、某有名オンライン全年齢向けFPSで遊ぼうとしたら高ランクのプレイヤーにカモにされた上でフルボッコにされた、ということがあり、これもトラウマになって辞めてしまったとのことだった。
他にも、いくつかのオンラインゲームで遊ぼうとしたのだがことごとく妨害にあったり、初心者に厳しかったりで遊ぶことがままならず、かぎっこさんが行き着いたのがホラーゲームだった、というわけであった。
「とりわけ、この時間帯のプレイヤーさんが優しくて怒ったり、いたずらされたりしなかったんです」
たぶんそれは、この時間帯ガチ勢が多いからそれぞれ真剣に遊んでただけだと思う。
「初心者なのに嫌がらずに遊ばせてくれるのがうれしくて。だから、せめてみなさんが脱出できるようがんばろうと思って」
いやそれは、個人プレイなゲームだから一人に固執する時間が逆に惜しくなるわけで、別にそういう好意的な意図は周りは全くないと思う!
いろいろとツッコミどころは多いけれど、どうしてかぎっこさんの伝説が生まれたのかアタシは理解した。
「それで、捕まって負傷しているところに助けに来てくれた人は初めてだったので、うれしくてつい音声チャットをしちゃいました。迷惑でしたか?」
「ううん、そんなことないよ。これだけうまい人と知り合いになれたことはむしろ光栄だし。えと、おつるさん……?」
「おつるさん……なんか日本むかし話に出てきそうな名前ですね」
OTLから呼び方を考えてアタシが言うと、困った声が聞こえてきた。おつるさんというと、確かに白い着物を着て出てきそうな感じだ。
「あの、さっきかぎって言いかけてましたよね? 入力の時に失敗して変なプレイヤー名になっちゃただけなんで、いつもかつさんが読んでいる呼び方でいいですよ?」
「え……けど、それはそれで失礼なような」
「なんて呼んでるんですか? あだ名ってつけられるの初めてなので、聞きたいです」
興味津々に問いかけてくる純粋な声にさらにアタシは気まずくなる。
「その、OTLって、形が鍵みたいだから、かぎっこさんって呼んでたんだけど」
「かぎっこ……」
小学生に対してかぎっこ、とあえて呼ぶのもなんか寂しい子って言ってる気がして申し訳なく思う。
しかし、画面の向こうの少女はかぎっこ、という言葉を確かめるように何度も繰り返し呟く。
「かぎっこ、かわいいですね。うれしいです! ぜひそう呼んでください!」
ええぇー…そうかなー…?
アタシの気持ちとは裏腹にかぎっこさんはうれしそうだ。
まあ、本人が喜んでいるなら、いいか。
こうして、アタシは謎のゲーマー少女、かぎっこの名付け親になり、さらにフレンドになったのであった。
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