魔法騎士と錬金術師

moai

プロローグ

プロローグ

「レオルス。あなたが正しいと思った『正義』を貫きなさい」

 夢の中の麗しい女性は膝に乗せている幼子に向かってそう言った。

「どういうこと?」

 幼子は尋ねる。

「そうねぇ。じゃあ、どうしてレオルスは『魔法騎士』になりたいの?」

「かっこいいから!」

 幼子は目を輝かせながら即座に答えた。そのときの身振り手振りはとても大きく、本当に魔法騎士に対して強い憧れを持っていることがよく伝わってくる。

「じゃあ、どうして魔法騎士がかっこいいか分かる?」

「んー、分かんない」

 幼子は子供なりに考えてみせるが答えは出ず、困った顔をして母親に眼差しを向けた。

「それはね。これだけは絶対に譲れない――『正義』があるからよ。レオルスのお父さんも自分が正しいと思った正義を貫く真っ直ぐな人だったわ」

「パパも?」

「そうよ。だからね、レオルス」

 母親は幼い子供の頭を優しく撫でる。

「あなたもお父さんと同じように――ううん、お父さん以上に貫くべき『正義』を持った人になりなさい。そうすればきっと、あなたは最高の魔法騎士になれるわ」

「ホントに?」

「ええ。本当よ」

 膝の上に座る我が子に優しい声と共ににっこりと微笑みかける。その笑顔と眼差しはとても温かく、そして慈愛に満ちていた――。


 ガタンッと強い音と共に全身に伝わる衝撃。それによって少年は目を覚ました。

「夢……か」

 半ば呆然として少年は天井を見つめる。それから頬に違和感を覚えて手をやった。

「泣いて……たのか」

 手をやってみると、ほんの少しばかり濡れていた。どうやら夢を見ながら年甲斐もなく泣いていたらしい。

「久しぶりだなぁ……。母さんの夢見たの」

 在りし日に思いを馳せるように少年は目を細める。しかし、それと同時に襲う胸を締め付ける痛み。その痛みに負けないように少年は首からかけていた銀色のペンダントを強く握りしめた。

「母さん。父さん。俺、立派な魔法騎士になるから……!」

 脳裏に浮かぶ優しい笑みを湛える母親と父親への思いを込め、そして自分を律する確固たる決意とするために少年はそれを言葉にする。

 少年の傍らには年季の入った剣がある。それは父親から譲り受けた形見の剣だった。鞘に収まった剣を少年は強く握る。

 列車の窓から見える景色はまだ暗い。まだ目的地までは時間がかかりそうだ。

 明日から始まる魔法騎士としての初仕事のためにも、少年は再び眠りについた。

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