8、最近、どれもこれも種類が細分化しすぎてる気がするわ。その5

送られてきたのは一枚の写真だった。


そのままでは見づらかったので、表示されている『佐倉美玖 写真を送信しました』に触れ、画像を拡大してみる。

 すると、そこに写っているのは俺が宝生先輩の胸部、正確に言うと双丘の間に位置し一般的に谷間と呼ばれている場所を凝視している画像だった。

 ……これは~やってしまいましたねぇ~いや別に不純な気持ちで見ていたわけじゃないよ? ただ、最近ネットの何かの記事で『もともと胸が大きい人は谷間がI型になり、寄せ上げてまたは豊胸などでつくった胸はY型になる』と書いてあるのを見かけたから実際に確かめていただけだ!

 ネットリテラシーがある俺はその情報を鵜呑みにしたりしない。正確に情報の真偽を確かめ、正しいと確認できた場合のみ記憶に残すようにしている。

 このようなことから考えられるようにこの写真は俺は現代人が必ずしももっていなければならないネットリテラシーを正しく身に着けている証拠であって、不純なものではない。何なら、情報の真偽を確かめたいという気持ち以外混じりっ気のない純粋なものだと考えられる。――――以上証明終了、QED


 そこでふと家に帰るため校門に向いていた足が止まっていることを知る。

 歩を進めるため足を地面から離そうとするが離れない。

いっそ足と地面が磁石になってS極とM極で引きあっているのではないかと思うぐらい頑丈に結合していた。

まぁ、正確には地球全体的には磁気を帯びているので、地球を大きな磁石ととらえ、その一部である地面も磁石と考えられるのだが、ややこしいので気にしないことにしよう。

 なぜ、自分の足が地面と密着したがり続けているのかその理由は分かっている、わかってるよ! わかってますよぉ~だぁ! 

 俺はこの問題の解答を後ろで何故立ち止まっているのかと怪訝な顔をしている宝生先輩に向かって答える。


「やっぱり、大講堂行きましょうか、何かの参考になるかもしれませんし」


 俺は五秒前の俺に対して強烈なカウンターパンチを叩き込んだ。

 仕方ないじゃん……怖いのだもの あさひ

俺はネットリテラシーを身に着けていると同時にインターネットの恐ろしらも正しく理解している、よって一枚の写真がどれほどの脅迫力を持つかも正しく理解している。つまり、何が言いたいかというと……長々と言い訳してすみませんでしたぁぁぁーーー

 陰キャ特有の謎の強がりなんです。

自分でも言ってるうちに何を言ってるのか分からなくなってました。俺のどうでもいい言い訳に付き合って頂きありがとうございました。

 俺が読者の皆様に一通りの謝辞を述べ終えると宝生先輩が口を開いた。


「そうね、私たちは遊びに来たわけではなくて視察のために来たのだから、人気が高く人が集まるところに行かない道理はないわ」


 そう言うと大講堂の方へ向きを変え俺をおいて歩きだした。俺の方を振り向くことは一度もせず宝生先輩はずんずんと一人で歩を進めていく。

 風が吹き始めたのだろうか、宝生先輩の長く艶めいた黒髪がどこかリズミカルに揺れていた。その姿を嬉しそうと感じてしまうのは何故なんだろう。……これから苦手な人混みに行くのだからきっと、渋い顔をしているに違いない。脳裏に浮かんでくるどこかあどけない笑顔は幻想で、うっすらと聞こえてくるハミングは幻聴だろう。今ここには俺が宝生先輩に一方的に思いを寄せているという事実しかないのだから。……故にその答えはきっと風のせい、だろう。

 このままずっとこの後ろ姿を見ていたいと見惚れていたいと思ったが、自分から誘ったことを思い出しその気持ちをぐっとこらえ、大講堂へ足を進めた。

心の奥底で嬉しさと恐怖という相反する感情が癒着していくのを感じる。

この世界にはたとえ自分にとって良い知らせであろうと知らないほうがいいことがある。知らぬが仏という言葉は何も悪い知らせに対してだけ言えるものではない。

 確証のない良い知らせなんて百害あって一利無しの存在だ。

知れば一時とはいえハイになれる、嬉しい、楽しいと感じられる。だが、その情報が偽りだったと知った時、落胆する、絶望する、憤怒する。また、その情報が正しいと知った時も『あぁやっぱりな』とか『それもう聞いたよ』と当然のように感じて、大した喜びを得られない。そう、これはただの幸せの前借でしかない。しかも、場合によっては負の感情という利子がついてくる。

 だが、俺が確証のない良い知らせを嫌う一番の理由は別にある。

その理由とは『勘違い男ウゼェ~』である。

 当然と言えば当然だろう? 俺は絶賛思春期の真最中だ、思春期の男子高校生なんてどうでもいいことで怒り、その怒りを話のタネにして今度は笑う、いわば自虐のバケモノである。

そんな俺が幸せの前借とか人生の毒とか気にするわけがない。そんなことよりも好きな女子に自分のことをどう思われているのかのほうが重要に思えるし、気のなる。

 だから、今の俺に必要なものは冷静さと鈍感さだ。鈍感男はモテないとよく耳にすることがあるが、勘違いしてうっとうしいキャラになってしまうぐらいなら何も気付かなくていいと思う。

だから、俺は太古の時代からテンプレと評されている『鈍感主人公』を演じよう。何も気付かずただ、俺の魅力をいつも通りさりげなくアピールするだけでいい。空がきっと、恋愛という問題の解答への最短ルートなのだから。だから、だから……


「なんで、宝生先輩あんなにたのしそうなんだろう? あっ! 大講堂で何をやってるか本当は気になってたのかな!」


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