8、最近、どれもこれも種類が細分化しすぎてる気がするわ。その2
『やっと、出発ですか。歩くときは車道側を歩いてくださいね。陰ながら先輩のエスコートが上手くいくよう手助けさせていただきます』
は? なんで今出発したことがわかるんだよ! と思いせんげん台駅の方を見渡してみると改札につながる階段の出口の隣に店を構えるカフェの窓際の席に金髪の美少女の姿があった。
肩口に大きなフリルがあしらわれている純白のシャツにこちらもフリルが多くあしらわれている裾が膝下までくる長めの淡いピンク色のスカート、いわゆるガーリーファッションをしている美少女がこちらに向かって手をひらひらと振ってきた。
帽子を深めにかぶっているけど、流石にわかる佐倉さんだ。
やっぱり火曜日に言ってた『なら決まりですね!雪先輩とあさひさんは今週の土曜日頑張ってください。私も陰ながら応援しています』の陰ながらって物陰から俺たちを見守ってるってことかよ。
薄々気づいてたけど、社交辞令を逆手にとって堂々とストーカー宣言してたのかよ。
「朱染君? そんなに駅の方を凝視して何かあったの?」
「いっ、いえ、なんでもありません。行きましょう、さあ早くいきましょう」
「ええ、わかったわ。いきなり、何かを探すように後ろを見るものだからストーカーにでも付きまとわれているのかと思って心配してしまったわ」
「し、心配かけてすみません。でも男にストーキングする奴なんてそうそういなんですよ、宝生先輩こそ気を付けてくださいね」
「ええ、わかったわ」
あっぶね~、佐倉さんのことばれるかと思ったわ。
せっかくの二人っきりなのに邪魔されたくないし、なによりここで佐倉さんが来ていることをばらしたら後で何されるかわかったもんじゃない。
せんげん台駅から彩玉県立大学はスギの木通りをまっすぐ歩いて二十分程度、佐倉さんからの手助けという名の命令を何度かこなしながら、宝生先輩と卒業後の進路について軽く話していたらいつの間にか過ぎていた。
ちなみに、宝生先輩は彩玉県立大学に進学する気は全くないようだ。その気があればよい大学見学になると思ったがないようだ。
「思っていたより綺麗な建物ね、国公立大学なんてみんなボロボロかと思っていたけど」
「ここはまだ創設されてから二十一年しか経ってないですからね。しかも、デザインに結構凝ってるそうですよ」
俺は駅前で宝生先輩を待っている間に調べたこの大学の情報を面白可笑しく語りながらパンフレットを配っているであろう受付に向かった。
「へ~、施設内だけじゃなく外にも出し物があるんですね、流石大学!」
「お金がある私立高校とかも校舎外で出し物をするそうよ。まぁ、食べ歩きしやすい飲食物が多いみたい。ほら、ここもそうみたいよ」
「本当ですね、焼き鳥にわたあめ、たこ焼き……食べ歩きできるものだけって言っても結構種類ありますね」
「そうね、校舎内にある飲食店はやっぱりカフェ系が多いわね。漫画喫茶だったりトークショー喫茶だったり各部活動の内容をゆっくりしながら見てもらうっていう出し物が多そうね」
「まずはぶらぶら歩きながら参考になるものを探しましょうか」
「そうね、一番見ておきたい科学系のサークル、エニグマの出し物は13時から開始みたいだからそれまで適当にまわりましょうか」
そこから、俺たちは校舎内に入り、気になる出し物があれば実際に体験してみた。
俺らと同じ来場者が所狭しと廊下を移動しているため、後ろで俺たちをストーキングしているはずの佐倉さんのことをしばらく見ていない。しかも、佐倉さんも俺たちを見つけられていないのか校舎内に入ってから命令メールが一通も届いていない。
これは完全に二人きりになったんじゃないか?
駅からここまで来る間、佐倉さんから命令メールが何通のきたせいで全く二人きりって感じがしなかったが、佐倉さんとはぐれた今、精神的にも俺たち二人きりになったんじゃないか?
……落ち着け、落ち着け心臓。昨日調べたじゃないか、落ち着いた態度が女性に好かれるためには必要なんだ!
デートと思うから緊張するんだ! これは視察、これは視察……
「やっぱり、大学の文化祭の出し物は高校の文化祭と結構違うわね」
「え? あぁそうですね、定番中の定番のお化け屋敷とかないですね。軽いアトラクションとかはあるけど、謎解きとかストラックアウトとか各部活にちなんだものしかないですね」
「それは大学にはクラス分けがないからでしょうね、学部ごとに出し物をするっていう大学は聞いたことあるけどここはそうではないようね」
クラス分けが無いって言われても全く実感が湧かない、担任の先生がいないと色々困るんじゃ無いか? 例えば、欠席する時とか誰に連絡するばいいんだ?
それから少し時間が経ち、小腹が空いていたということで校舎外に出て、飲食系の出し物を見てまわり最終的に俺が焼きそば、宝生先輩がじゃがバターを食べることにした。
やはり、屋台の焼きそばは家で作る焼きそばより圧倒的においしく感じる。屋台の焼きそばは家よりも強い火力で一気に作るから美味しいだの、屋台が出るのは基本夏付近なので塩分チャージのために味を普通より濃くしているから美味しいだの言われているが、俺はそれだけではないと思う。
外の空気こそが焼きそばを美味しくするスパイスなんだと実際に感じる。
途中から自分でも何言ってるか分からなくなってきたな、まぁ、まとめると屋台の焼きそばには不思議な魅力があるよねって話だ。
軽めの昼食を終え、エニグマの出し物に参加するため再び校舎内に入ろうとしたとき、タピオカサイダーとかいう暖簾を見かけた。今やミルクティーや黒糖ミルクだけにとどまらず炭酸飲料にまで進出してきたのかタピオカ恐るべしだな。
「そういえば、宝生先輩。エニグマって今日どんな出し物をするかパンフレットに書いてありました?」
「えぇっと、『面白化学体験型学習! 特別なものなんて要らない、身近なものだけで摩訶不思議なことを起こしてみせます!』と書いてあるわね」
「身近なものだけですか、どんなことするんでしょうね?キュウリにハチミツかけたらメロンになる的なことですかね」
「確かに『面白』で、なおかつ作った後食べられるから『体験』ではあるけれど、流石にそれはないでしょう。そもそも化学かどうかが怪しいもの。それとキュウリにハチミツをかけてもメロンにはならないからやめた方がいいわ、ただの甘いキュウリが出来るだけよ」
いや、やったことあるんかい!
俺の渾身のボケによって予想外にも宝生先輩のおちゃめな一面が暴露されてしまった。
まぁ、わかるよ。
俺も烏龍茶に砂糖を入れると紅茶になるって聞いて実際にやってみたことあるからな。結果、美味しかったけど紅茶みたいな味には感じなかった。
それから意外と面白くなっていろんな種類のお茶に砂糖を入れてみたんだよな、俺が甘党っていうのもあるけど、どれも美味しかった……何かの味に似てるっていうのは一つもなかったけど。
台湾ではお茶に砂糖だけでなくミルクも入れてミルクティーにするらしいが当時の俺にはその勇気はなかった。
もしかしたら、タピオカの次に来るには緑茶ミルクティーや烏龍茶ミルクティーかもな。
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