8、最近、どれもこれも種類が細分化しすぎてる気がするわ。その1

8、最近、どれもこれも種類が細分化しすぎてる気がするわ


 彩(さい)玉(たま)県立大学は春日部北高校と同じせんげん台駅が最寄りの大学で県立大学というところからもわかる通り学部数も少なくキャンパスもここ三野宮(みのみや)キャンパス一つしかない。

 しかし、キャンパス内に存在する施設は白をベースに清潔感を感じさせ、また外に面している壁を従来のようなコンクリートではなくガラスにすることで外からの光をより感じられるようになっていて学生がストレスをため込まず開放的に勉学に励めるつくりになっている。

 なるほど、光の当たり方や風の通り道まで完璧に計算されているのか、グッドデザイン金賞を受賞しただけのものはあるな。

 それに、いろいろなドラマの舞台にも選ばれているにか、これから行くのが楽しみだな。


――――現在の時刻、九時三十分。俺こと朱然旭は宝生先輩との約束の時間の十時より三十分も早く集合場所であるせんげん台駅に到着していた。

 理由は簡単。出来る男は女性を待たせないからだ。

俺ぐらい出来る男になると五分前だの十分前だの甘ったるいことは言わない、男は黙って三十分前集合だ。

 ただ、そんな出来る男の俺にでもどうしても解決できない難問が存在する。俺は今、その難問と真っ向からぶつかっている最中だ。


 難問、それは『この三十分をどう過ごすか』だ。


 さっきから、無駄にトイレに行く回数が多い、この短い時間の間に何回自分の息子に挨拶したことか。それにスマホを手放すと途端にソワソワしてくる。だから、さきほどから意味のなく彩玉県立大学のことを調べ続けている。

 前日までにデートのいろはを頭に叩き込んでいるし、抜かりのない俺は大切なことを記したメモまで残している。事前の準備は完璧だ。

 なのに、なんなんだこの現象は!

 それから、スマホを見てはトイレに行くという意味のないルーティーンを4回ほど繰り返しちょうどトイレから出てきた時、宝生先輩が駅の改札口に通じる階段から降りてきた。

 その瞬間、心臓が激しく働き始めるのを感じた。

 『これは視察、これは視察、部活動の一環であってデートではない。だから、緊張する必要はない。落ち着いていつも通りにすればいい』と自分に言い聞かせる。

 調べたところ、女性が年上好きな傾向にあるのは年配者特有の落ち着きからくる安心感が女性の心をわしづかみにしているからみたいだ。

 つまり、このデートだけで終わらせず、次もデートしたいと思わせるには落ち着きが必要ってわけだ。

 いや、今回のはデートじゃなくて視察だけどな。例えばの話だぞ!


「宝生先輩、早いですね。まだ九時五十分、約束の時間より十分も早いですよ」

「それを言うなら、朱染君のほうが早いじゃない。長い時間待たせちゃった?」

「いや、今来たところですよ」


 キタ!イケメン語録の一つ『今来たところだよ。』これが言いたくて三十分前に来たまであるからな!


「そう、それはよかったわ。集合時間より前に来たとはいえ待たせてしまうのは心苦しいからね」


 ここで俺は畳みかけるようにもう一つの武器をイケメン語録から使う。

 それは男子が女子とデートする時、挨拶の次に言うべき言葉。言うだけで女子からの好感度を上げることができる魔法の言葉。だが、数多の男子が自分のセンスなどを言い訳にして発することができない厄介な言葉。


「宝生先輩、私服とても似合っていますね。いつも制服だから新鮮で、えぇっと、その……可愛いです」

「あ、ありがとう。……面と向かって褒められるのってやっぱり恥ずかしいわね」


 宝生先輩は顔を赤らめうつむきながら、それでも恥ずかしいよりも嬉しいという感情を匂わせながら答えた。

 今日の宝生先輩は白と黒のストライプ柄のTシャツの上に黒基調の薄手のアウターを羽織り、下はジーンズというカジュアルであるにも関わらず出来る女感がにじみ出ているOLが好みそうな服装をしていた。……大人っぽい宝生先輩最高です!

 ……話を戻そう。とりあえずこれで第一関門は突破した。このセリフで最も重要な『可愛い』を言うのを少し躊躇ってしまったが及第点だ。

 やはり、言うべきことはすぐに言うほうがいいな。後に引きのばすと頭の中で最悪の妄想がどんどん広がってしまう、思いついたら吉日とも言うし今言うべきだと思ったらすぐに言おう。その方が精神的な負担は少なそうだな。 


「少し早いけど、そろそろ彩玉県立大学に向かいましょうか」

「ええそうね、文化祭自体は九時から始まってるようだしね」


 そう言って歩き始めようとした時、不意にポケットの中に入れていたスマホが震えメッセージの受信を伝えてきた。

  女性と二人でいる時に他の女性からのメッセージに気を回すなんて紳士としてマナー違反かもしれないが、こんな時にいったい誰だよ! 空気読めよ! という感情が湧いてきてしまった。

このようなレディをエスコートするときにふさわしくない感情は即刻排除した方がいいと思い俺は堂々とスマホの通知を確認した。


『やっと、出発ですか。歩くときは車道側を歩いてくださいね。陰ながら先輩のエスコートが上手くいくよう手助けさせていただきます』


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