幕間~佐倉美玖の欲望~

幕間~佐倉美玖の欲望~

私は一つのものに執着しないタイプの人間だ。

なにか問題が起きてもそこに悲しみはなく、ただ今自分が出来ることをするだけ。やれることをやりつくしても解決出来なかったら、すぐに諦めて捨ててしまう。

 なにかを本気でほしいと思ったことが一度もない。

 まぁ、私可愛いんで何か欲しいと思ったらすぐに手に入るんですけどね。なんなら、欲しいと思う前に用意してくれる時もあるんですよ~


やっぱり、美少女である私の人生イージーモード♡

だから、あさひさんから廃部の危機を聞かされた時、さほど驚かなかったし悲しくもならなかった。今回もまたいつも通り、出来ることをやるだけ。

 いつも毅然とした頼れる先輩を演じている雪先輩があそこまで悲しむのは予想外だった。強気なキャラを装っているのは知っていたけど、いい落ち込みっぷりだった。女性なら包み込んであげたいという母性を、男性なら守ってあげたいという庇護欲をくすぐられる。

こういうギャップも可愛さを引き出すのか、と感心する。

あさひさんが漢らしいところを見せたのも意外だった。目線ですこし発破をかけてあげただけで存外に燃えたようだった。比熱が低く燃えやすい、よく言えばエネルギー効率がいい、悪く言えば乗せられやすい人だなと思った。

 ただ、実際に計画の詰めていくごとに顔色に絶望が混じっていくのを見て、どんなに頼りになる漢を演じてもあさひさんはあさひさんだなと半分呆れ、半分安心した。

 そして、化学室にいる三人の最後の一人である私も悲しいと悔しさを顔に滲ませながら、気まずそうにうつむきがちに先輩二人に目線を送っていた。

 実際、悲しさも悔しさも一ミリたりとも感じていない。ただ、今この状況において最善の行動だからしているだけだ。

 いるんだよね~みんなが一致団結して悲しさ百パーセントで不純物無しの雰囲気をつくっているのにそれを平気な顔して崩す人。

頑張って維持してるんだから見守ってあげないと可哀そうですよ。

 だから、私はしっかりとこの先輩二人がつくり上げた雰囲気にあった行動をします。健気で可愛いですよね。ね、ね!

 自分を取り巻く雰囲気を察知して、それに合った行動がとれるのはどこか冷めている私を可哀そうに思った神様が空気をよむ才能を授けてくれたからだろう。

 神様さえ魅了しちゃう私、可愛すぎ♡

 この才能のおかげで、私は自分の性格とは関係なくどんな状況でも冷静のまま、周りに好かれることが出来る。

 ふと、隣に目を向けてみると、何をするわけでもなくただただ虚空を仰ぎ見ているあさひさんの姿があった。先ほどまでかっこいいところを見せるかの様に率先して行動していたのに、少し前が見えなくなるだけでこの体たらく。

 私の主人公なのだから、少しはしっかりしてほしいものだ。

 このままでは埒が明かないので事前に友達から教えてもらっていた情報を渡す。

ゲームなら少しはサポート機能があってもいいかと思っての行動だ。

主人公に思考と感情がある時点でこのゲームは歪んてるますよね、などと考えながら静かにゆっくりと自分の心に問いただしてみる。


「この欲望と本心だけで行動しているまっすぐで愚かな先輩のことを深く知れば、私も建前ではない本物の感情を得られるだろうか?」

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