7.やっとヒロインとの仲が進展するイベントらしいものが発生したね

宝生先輩、今週の土曜日、彩玉県立大学の文化祭を見に行きましょう」


 佐倉さんの言葉をほとんど借りるような感じになってしまったが、今回は一切のよどみも躊躇もなく言うことができた。

 宝生先輩は俺の言葉に少し遅れて驚きの反応をみせつつも、一筋の光を見つけたことに—内心安堵した様子で答えた。


「そ、そうね、実際に他校の文化祭でどんなものが人気があるのかを確かめるのはいい考えね。………それにしても、よく今週末に文化祭をやっている学校を見つけられたわね」

「見つけたのは俺じゃなくて佐倉さんですよ」


 隣で佐倉さんが俺の足をガシガシ蹴ってくる、自分の手柄にして宝生先輩の好感度を上げろってことだったのか?だがそんなこと気にしない。

 この手柄は佐倉さんのものであって俺のものじゃない。

 この情報を見つけたのは佐倉さんだし、俺を後押ししてくれたのも佐倉さんだ。俺は何にもしていない。流石にこんな状況で手柄をかすめ取れるほどいい性格はしていない。


「そうなの、ありがとうね佐倉さん」

「いえ、何かないかな~って調べていたら出てきただけなので偶然ですよ」


 佐倉さんは両手を顔の前でパタパタと振り、謙遜した様子で答えた。

俺の足を蹴りながら……


「自分で見つけておいてなんですけど私、今週の土曜日ちょっと大切な用事があって行けないんです。だから、あさひさんと雪先輩の二人で行ってきてくれませんか?」

「へ?しゅ、朱染君と二人で!」

「そうです、‟あさひさんと二人で”です。見学に行くメンバーは多い方がいいじゃないですか、それに現地でお互いに意見を交換し合った方がいいアイディアも出ますよ」

「そ、それはその通りなんだけど………」

「行くメンバーが多い方が良いなら友樹とかも連れて行こぅゕ……いえ、なんでもないです、すみません。」


 場が少し温まってきたのを感じ、ここらで一つ冗談でもと思い佐倉さんの揚げ足を取るような冗談を言っていたのだが、言い終わる前に止められてしまった。

 笑顔を向けているだけなのにこの威圧感、前世でどれだけ悪行を積めばこんな芸当ができるようになるんだよ。前世は殺し屋か悪徳地上げ屋だったのか?


「雪先輩は勝つ気あるんですか?あるなら選択肢は一つだけですよね!」

「わかった、わかったわよ! 行くわよ、行けばいいんでしょ!」


 理論と精神論の両面から攻められた宝生先輩は一度の反撃をすることもなく、あっけなく撃墜され顔を耳まで真っ赤に染めてうつむいてしまった、負け犬のようなセリフと共に。

 てか、俺と二人で他校の文化祭を回るのってそんなに嫌なの! 最近俺たちの仲結構進展してきたと思っていてけど勘違いだったの! 俺と一緒に下校するの本当は面倒だなとか思っていたの!


「あの~宝生先輩、そんなに嫌なら俺一人で行ってくるんで大丈夫ですよ……俺と一緒にいるの嫌ですもんね」


 完全に諦めモードだ、言葉を取り繕うのは簡単だが態度を取り繕うのは難しいと聞くしきっとこれが宝生先輩の本音なのだろう。

実際に俺の隣に座っている金髪の美少女は本音とは違う言葉をいとも容易く言ってしまえるのだ……女子って本当に怖い生き物だわ。

 だが、宝生先輩はそんな最悪の考えとは全く違う反応をした。


「い、いえ、嫌ってわけじゃなくて……むしろ嬉しいぐらいで………でもでも、少し恥ずかしいっていうか、何かやらかしちゃって朱然君に嫌われるのが怖いっていうか…………」


 言葉の後半になるにつれだんだんと顔をうつむけ声が小さくなってしまったので後半の内容はよくわからなかったが、とりあえず拒絶はされていなさそうだ。

 よかった、うっかりアマゾンで荒縄をぽちっとしてしまうところだった。

いや~思わぬ出費が生まれなくて本当に……本当に良かった。


「なら決まりですね! 雪先輩とあさひさんは今週の土曜日頑張ってください。私も陰ながら応援しています」

「応援って大げさね。ただ、文化祭をまわって情報を集めてくるだけなのだから頑張るというほどでもないわ」


 宝生先輩は佐倉さんの発言を素直に受け取り、少し見栄を張ってかえす。

 佐倉さんの本性を知っている俺は素直に受け取ったりせず、しっかりとこの言葉に隠された本当の意味を理解する。

 ほんと、宝生先輩とのデートをセッティングしてくれるのはありがたいんだけど、それ以上のことは求めてないんだよな。

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