7.やっとヒロインとの仲が進展するイベントらしいものが発生したね。その2

「宝生先輩が思ってるほど俺、友達多くないですよ。休み時間に話すような友達なんて片手の指で足りるぐらいですしね」

「そっ、そう。いつも誰かと一緒にいるからてっきり、友達が沢山いるのかと思ってたわ」

「いつもって、俺のことそんなに頻繁に見かけてるんですか? ………あれ?でもおかしいな、俺そんなに宝生先輩を見かけてない気がするんですが………」

「くっ、詳しいことはいいのよ! 少ないと言っても5人程度はいるんでしょ、その人達と去年文化祭をまわらなかったの?」

「みんな、クラスの出し物やら部活の出し物で忙しくて暇してましたよ。友達一人に会いに行くためにそいつの出し物に一人で遊びに行く勇気なんて俺にはないですからね」


なんで、宝生先輩はこんなに俺のことを知りたかってくるんだ?

同じボッチ仲間を見つけて舞い上がっているのか?

俺は多くの友達と浅い関係を築くより少ない友達と深い関係を築く方が性に合っているから友達が少ないわけで、決してコミュ力が低いから友達が少ないなんてことは…………ない……筈だ。

だ、だから別に俺は友達が出来ないんじゃなくて友達になる人を厳正に選んでるだけだ。

子供の頃、親に言われただろ『関わる人はしっかり選びなさい!それがあなたの将来を決めるから』的な言葉を!

そう、俺はその言葉を今も守り続けているだけだ、俺は約束を守る男だからな! ……なんか言ってて心が苦しくなってくるな。

……えぇ、そうですよぉ〜、どうせ友達少ないですよぉ〜


「あの〜、その話はこの辺にしといてはばたき祭のための情報共有の続きをしませんか?」


俺が自分の考えによって自分を傷つけるという本当に無駄な独り舞台を繰り広げていると隣から健気さが感じさせる声が聞こえてきた。

そういえば、佐倉さんが俺の足を踏むのをやめている。自分の世界に入っていて気付かなかった。

いつの間に辞めたんだ?


「そ、そうね、話を戻しましょう。確か去年のはばたき祭での科学部の体験学習についてだったわね。えぇっと、確か………スライム作りだったわ! スライムを作る過程に一工夫を加えていろんな性質のスライムを作ってしたわ。例えば、ビタミンB2を加えてブラックライトを当てると光るようにしたり、グリッターと呼ばれるラメ素材やホロ素材を合わせもった粉末を加えて宝石のような光沢をもつスライムをつくっていたわ」

「スライムですか。簡単に出来るし子供人気も高い、ファミリー層の心をつかむには最高の出し物ですね」

「それに宝石のようにキラキラしたスライムはインスタ映えしそうですし女子ウケもいいと思いますよ」

「でも去年、科学部は来場者人気投票で五位だった。同じようなことをしても私たちに勝利はないわ。私たちは去年の科学部より魅力的な出し物をしなければいけない」

「そうですね、俺たちは一位を取らなきゃいけないですからね……そ、そろそろ具体的な話をしましょうか。はばたき祭の出し物でこんなことをしたいみたいな具体的なアイディアがある人いる?」

「「………………………」」


 俺の言葉を聞くや否や俺たちは沈黙に包まれた

 当然と言えば当然だ。俺たちは先ほどまで共有していた情報はあくまでも過去のもの、そして越えなければいけないもの。

同じようなことをしてもダメなんだ。

それを上回る一手を打たなければ敗北は確定する。

 ファミリー層向けの出し物をする、それはわかった。

でも去年、科学部は光ったり、宝石の様だったりといろいろな性質をもったスライムを実際に自分たちで作ってみるというファミリー層だけじゃなく女子中高生からも票が集まりそうな出し物をしたにも関わらず五位だったのだ。


 ……沈黙のまま時が過ぎていった。時計の秒針が時を刻む音が聞こえるたび頭の中が焦りで埋め尽くされていく。

 不可能なんじゃないかという考えがしきりに頭の片隅にちらついてくる。

まだ一か月程度猶予があると自分を落ち着けようとしてもすぐに、どんなに時間をかけてもいい考えなんて浮かばないよというネガティブな考えによってかき消されてしまう。

 そんな最悪なネガティブスパイラルに巻き込まれていると不意にズボンのポケットに入れていたスマホが震え、メッセージを受け取ったことを知らせてきた。

こんな頭じゃまともな返事は出来ないだろうがせめて誰からメッセージが送られてきたかぐらいは確認しておこうとスマホの画面を見ると、佐倉さんから一枚の写真が送られてきたようだった。

()()詳しく見てみるとさいのたま県立大学の文化祭について書いてあった。

今年で何周年目だの、ダジャレのきいた,見ているだけで恥ずかしくなってくるようなスローガンが大きく書いてある中、下のほうにひっそりと開催される日程が書いてあるのを見つけた。

 その日程をみて思わずうつむいていた顔をあげ、佐倉さんに驚きの表情を向けてしまった。だって仕方ないだろ、その日程っていうのが五月二日、つまり今週の土曜日だったのだから。

 佐倉さんは俺が写真に気づいたことを確認すると続けてメッセージを送ってきた。


『何か参考になるものがあるかもしれないのでこれを雪先輩と一緒に見に行ってください』


 このメッセージを受け取ったとき抱いた感情は怒りに限りなく近いものだった。化学部がこんなにピンチなのにこいつはなんで俺で遊ぼうとしてるんだよ!そんな考えが浮かんできた。

 だが、そこでハッと気づく、この情報はどこから手に入れたものだろうか?

 友達から事前に聞いていた?

 それはないな。事前に知っていたなら長い沈黙が訪れる前に話すなりメッセージを送ってくるなりしてきただろう。

 ということは考えられるのはただ一つ、この長い沈黙の最中に調べて見つけたのだろう。俺が絶望に打ちひしがれているときに一人で何か打開策はないかと抗ってくれていたのだろう。

 なら、怒りを感じるのは間違いだ。

怒りを感じる相手がいるとしたらそれは後輩が必死に頑張っているにいっさい気づかなかった俺自身だ。

 大きく深呼吸をする。長く沈黙してしまっている場で発言することは勇気がいる。

でも、その勇気はとなりに座る後輩からもらった。

佐倉さんは一人で頑張っていたのだ。なら、その勇敢な後輩に背中を押された俺が頑張らないわけにはいかない。

 再び顔を上げ、目の前に座っている先輩に顔を向ける。

見ると宝生先輩もスマホから何か情報を得ようと四苦八苦していた。

いつもなぜか偉そうでそのくせ何かあるとすぐしゅんと落ち込むこの人でさえ下を向かず抗っていた。

 俺って弱いな。

先輩、後輩の女子が頑張っていたのに一人で諦めようとするなんて。

いつもはしゅんと小動物を思わせるほど弱々しくなる宝生先輩が頑張っているのを、ドSは打たれ弱いと聞くのにそれでも必死に抗っている佐倉さんを見るとどうしようもなく胸の奥が熱くなる。

 頭の中からネガティブな思考が消えていることに気づいた。

これでようやく俺も抗うことができる。

ここが俺たちのスタートラインだ。


「宝生先輩、今週の土曜日、彩玉県立大学の文化祭を見に行きましょう」


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