7.やっとヒロインとの仲が進展するイベントらしいものが発生したね。その1

「ふむふむ、それで俺のところに話を聞きに来たってことか。なんていうか………ご愁傷様です」

「おい!縁起でもないこと言わないでくれよ。俺はまだまだ諦めてないんだからさ」

 場所が変わってここは化学実験室。ここはいつも俺たちが使っている化学室と違い高価な実験装置や薬品が各所に置かれていて、他の教室と一線を画す雰囲気を纏っている。

 まぁ、俺は見たところでどんな装置なのかなんてわからないんだけどね。

「で、俺に聞きたい事っていうのは科学部がはばたき祭でどんな出し物をしたかってことか?」

「そうだ、うちの部は今まで全くはばたき祭に参加してなかったからな、少しでも情報が欲しい」

「情報が欲しいって言われても俺は去年のことしか知らないぞ。…………俺たちは去年、ここ化学実験室で子供向けの体験学習と他校の生徒や大人向けの面白化学講義をしたんだ。ただ、講義はやらないほうがいい。客層を完全に間違えた、はばたき祭に来る奴のほとんどは何かを学びに来てるんじゃなく、ただ単に遊びに来てるだけだからな」

「そっか、それなら難しいことはせず、目で見て楽しんだり簡単な操作だけで不思議な体験ができるような出し物のほうがいいな」

「そうだな、あとはばたき祭には結構ファミリーが来るぜ。この辺、新興住宅地ばっかりだからな。去年はよその高校の生徒より多かったと思うぞ」

「あぁ~、そういえば去年子供がたくさんいるなぁ~って思った記憶があるわ」

「だから、校内人気投票は捨てて、来場者人気投票のためにファミリー向けの出し物をすべきだと思う。投票権は子供だろうと一票もらえる、つまりうまくいけば母と子供の二票、父母と子供の三票が一気に手に入る。これは美味しい!」 


いまさらながら解説すると春日部北高校の文化祭、通称はばたき祭は二日間開催される。

しかし、一日目は校内開催と言ってうちの高校の生徒しか参加することができないようになっている。 

 先ほど、友樹が言っていた校内人気投票とはこの一日目に行われるうちの高校の生徒だけが参加できる投票だ。

 俺たちが一位を取らなければいけないのは二日目に行われる来場者だけが参加でき、うちの高校の生徒が参加できない来場者人気投票だ。


「友樹、お前ずる賢いな!」

「言い方!もっといいのがあるだろ!」

「でも、ターゲット層を絞るって危険だよな。万が一、狙いを外したら大惨事だ。取り返しがつかなくなるよな」

「まぁ、そりゃ~リスクは大きいさ。でもあさひ、軽音部やチアリーディング部と他校の生徒の票を取り合って勝てると思ってるの?」

「そう………だな。確かに、俺たちは楽しむためではなく勝つためにはばたき祭に参加するんだ。なら、少人数の集団を敵に回してでも大人数の集団を味方につけるべきだな」

「敵に回すって、変なことはするなよ!」

「わかってる、例えばの話だよ。俺だって敵はつくりたくないしな」

「当り前だ、敵がいて得するのは出番ができる正義のヒーローぐらいだからな」

「相変わらず考え方がぶっ飛んでんな! ………まぁありがとな、いろいろ教えてくれて」

「おう、なんかあったらいつでも聞きに来いよ、暇だったら相談にのってやるからさ」


 そう言って友樹との会話を切り上げた。

 友樹から情報を得て分かったことはもっと情報が必要だということだった。

 一見振り出しに戻ったようにも思えるがこれは大きな前進だ。

 これから何をすべきかの見通しは立ったあとはひたすら頑張るだけだ。


* * *


「俺の友達の意見はこんな感じかな。佐倉さんの友達はどんなこと言ってた?」


俺達は科学部の人から得た情報を交換するため再び化学室に戻っていた。


「私の友達も同じようなことを言ってましたね。それ以外でいうと去年科学部の来場者人気投票が五位だったってことぐらいですかね」


五位か、それを聞いて少し安心することが出来た。

これで『科学部は去年最下位でした〜』なんて言われたら完全にお手上げだ。はばたき祭に来る人が完全に科学というものに興味を持っていなかったら俺達がどんなすごい出し物をしたとしても見てすらくれないからな。

でも、違う。五位だ、軽音楽部やダンス部など人気部活動が数多ある中で5位という十分に誇れる順位を取っている。

当然、実績と実力が確固として存在している科学部だからという考えも浮かんでくるがそれは簡単な話だ。俺達が去年の科学部の出し物より来場者の興味を引く出し物をすればいいだけだからな。

あれ? そういえば去年科学部どんな出し物したんだ?

友樹との話は攻略法得たりと思ってかっこよく切り上げたけど具体的なことなんも聞いてないじゃん。


「佐倉さんの友達は去年科学部がどんな出し物してたかとか言ってた? 出来れば参考にしたいんだけど」

「ん〜、特になにも言ってなかったですね。ここの文化祭ってなぜか五月末というすごい早い時期にやるじゃないですか、だから受験生が進路を決めた頃にはとっくに終わってるみたいな感じで誰も行かなかったみたいですね」

「そっか、まぁそうだよね………」


「それなら私が知ってるわ!」


突然の声に少し驚きながらも声のする方に目線を向けてみるとそこには腕を組み偉ぶっている黒髪の女子が立っていた。


「情報共有するなら部長である私も混ぜなさい」


少し前までこの事態を受け止めきれず自分のことを過剰に悪く思ったり口に出したりしてしまうしゅん状態だったがよくやく調子を取り戻したようだ。


「そうですね。三人寄ればなんとやらって言いますしね。でもなんで宝生先輩しってるんですか? 去年のはばたき祭満喫してたんですか?」


「………満喫なんてしてるわけないじゃない。ただ文化祭の最中やることなかったから一人で校舎内をなにをするでもなくまわって時間を潰していただけよ……………」

「「……………………………」」


そう言うと再びしゅん状態に入りそうな勢いで顔を伏せてしまった。

完全に地雷を踏んでしまったみたいだ。

この重い空気に耐えられず隣に座っている佐倉さんに目線で助けを求めた。 

すると、俺の考えが通じたのか佐倉さんは聖母マリアを思わせる慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、俺の足を手加減なく力一杯踏みつけてきた。

表情と行動が全く一致してないんだけど。

怖えよ、なんでそんなに笑顔で人を痛めつけられるんだよ。

ていうか、足をグリグリするな! 上履きの底って結構硬くて痛いんだぞ!

わかったよ、わかりましたよ! 自分でなんとかしますよ!


「あの〜、コホン……宝生先輩もそうだったんですか、俺も去年一人で校舎内をぶらぶらして時間を潰してたんですよ。ほんと友達の少ない人には厳しい行事ですよね、文化祭って」


ここで俺が取った方法、それはどんな状況においてもその場の誰も傷つけることなく丸く収めることができる伝家の宝刀、自虐である。

これなら誰も傷つかない、自分が傷つくだけだ……

そう、俺の心とさらに踏む力を強めてきた佐倉さんによって踏まれている足が痛むだけだ……


「そっ、そうだったの。意外ね、朱染君は友達と文化祭を楽しんでいるのもだと思っていたわ」


流石、伝家の宝刀! 面倒なしゅん状態になっていた宝生先輩がたった一言で立ち直ったぞ。

やっぱり、自虐は最高だぜ!

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