6.神様が本当にいるなら一発と言わず百発ぐらい殴りたいよな。その2
「文化祭じゃぁ~~~~~!」
時は4月28日、化学部軍と科学部軍の天下分け目の合戦が、ここ春日部北高校の地で行われようとしてぇ~いぃ~たぁぁぁ~~~
「何熱くなってるの、朱染君。うちの部は毎年展覧会という名のサボタージュを決めこんでるじゃない。今年も例年通りでいいでしょ」
「私も雪先輩に賛成でぇ~す。クラスの出し物の代表になったので忙しいんですよ」
俺が必死になっている事情を何も知らない黒髪ツンしゅん系ヒロインと金髪腹黒系ヒロインの呑気な発言に頭の血管がぴくぴく浮き出てきたのを感じながら本題に移った。
「おっほん。いまから真面目な話をしますから注目~、さっき担任の先生から聞いたばかりのホカホカの情報なんだが、次の文化祭で人気投票一位をとれないと化学部が廃部になるみたいなんだ!」
二人の危機感を煽るためにわざわざ初めに恥ずかしい演技をしたにもかかららず、当の本人達には全く届いている様子はなく、他人事のような返事が返ってきた。
「へ~、そうなんですか、かがく部が。それはご愁傷さまって感じですね」
「そうね。あの部、実績は確かにあるけど最近は廃れてきてるしね」
「友達が言うには結構学校からお金援助してもらってるらしいですよ」
「部費をたくさんもらってるのに成績が落ちてきてる、これは廃部になっても仕方ないわね」
実績?部費を多くもらってる? 何言ってるんだ?
もしかして、こいつら科学部のことだと勘違いしてるのか!
どこをどう頑張ったらそんな自分に都合のいい解釈ができるんだか。
「俺が言ってるのは化学部、つまりうちの部ですよ!」
「「えぇ、私たちのことだったの!」」
見事にㇵモった。さっきの会話と言いこの二人意外と気が合ってるのかもな。
「そう、無くなっちゃうのね。結構好きだったんだけどな、化学部」
宝生先輩は顔をうつむけ、長い黒髪で表情を隠しながら消え入りそうな声でつぶやいた。
無性に腹が立ってきた。
目の前で好きな人が悲しんでいるのをただ見てることしかできない自分にイライラする。
こんな状況にならなければ宝生先輩がどれだけ化学部を愛しているかに気づかなかった自分にイライラする。
何より、先ほどの俺の発言を聞いてからずっと「諦めるんですか?」という顔で見つめてくる金髪美少女の目線にイライラする。
……いいよ、いいだろう、やってやるよ、上等だよ!
俺は物語の主人公には向いてない。
目の前に困難があったら全力で目を背けるし、二つ道があるなら楽な道を選ぶ。
もっといい人間になりたい、頭よくなりたい、運動神経よくなりたい、なんてことは考えるだけでそのための努力は一切してこなかったし、これからもする気がない。
異世界転生系の物語なら初めのほうの町の武器屋、学園ラブコメなら主人公のクラスメイトぐらいがちょうどいい。
一応、役割はあるけどそこまで重要じゃなくてさぼってても誰にも文句を言われないようなポジションがちょうどいい。
そんな極楽至上主義者で怠け者だけど、俺だって漢なんだよ!
目の前で好きな子が悲しんでいたら、その涙をぬぐってあげたいと思う。
ぬぐってあげられるようなその人だけの主人公になろうって思うだけの気概はある。
今回だけ、今回だけだ!なってやろうじゃないか。どんな困難にも立ち向かい、どんな絶望にも膝を屈しない主人公ってやつに!
覚悟を決めて顔を上げると金髪美少女がすべてを見通してたかのように信頼のこもった微笑みを向けてきた。
本当にイライラする。どうやら俺の中身は本格的に主人公には向いてないようだ。
なら、外見だけでいい、虚勢でいい、目の前で悲しんだ顔をしている俺のメインヒロインに笑顔を再び教えられるような主人公になってやる!
7、やっとヒロインとの仲が進展するイベントらしいものが発生したね
こうして意気込んでみたけど実際何をすればいいんだ?
頑張るって決めたところで具体的に何をどうするのかが明確化されていないと頑張りたくても頑張りようがないからな。
今の俺たちに最も必要なものは情報だな。
どんな出し物をすればいいか?
そもそも化学部としてどんな出し物の選択肢があるのかを調べなければいけない。
化学部の出し物で詰め将棋とかストラックアウトとかを選んでも場違い感あって人は来ないしな。
「となると、ちょっと俺、科学部のところに行ってきます。科学部の友達に色々話が聞きたいので」
そういって化学室を出ようとすると佐倉さんが短い金髪を揺らしながらぴょんっと椅子から飛びあがり俺の後をついてきた。
「私も科学部に友達がいるので、一緒に行きます。情報は多いほうがいいですからね」
友達がいるって言っても友樹、一人しかいなかったからとても嬉しい。
佐倉さんは本性を知らなければコミュ力が高いうえに健気さを感じさせる仕草をして絶妙に庇護欲をくすぐってくる完璧な後輩キャラだからな。
その行動の全てが計算で行われているのだが。
この世の中には知らない方がいいことがあるって本当のことだったんだな!
本性さえ知らなければ佐倉さんのことをいつまでも妖精のように可愛い後輩だと思っていられたのにな!
そんなことを考えながら扉を開けようとすると後ろからどす黒い圧を感じて振り返ってみると未だに宝生先輩がうなだれていた。
「ごめんなさいね、私、友達全然いないから役に立てなくて。部長なのに役立たずってそんなの………そんなの…………」
「適材適所ですよ!今回はたまたま俺たちが適材だっただけでこれから絶対に宝生先輩が必要になる時が来ます。その時までいつもみたいに無駄に威勢を張っていてください」
「なによ、それ。…………まぁ、いいわ。いってらっしゃい」
「「いってきます!」」
歩いて一分もかからないところに行くだけなのに『いってらっしゃい』は甚だ疑問だが俺と佐倉さんは何の迷いもなく返事をした。
というか、そんな苦虫を噛み潰したような顔しないでよ、どんだけ俺とハモったことが嫌だったんだよ!
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