第17話 魔法合宿③
魔法合宿二日目は宿舎の中庭でひたすら魔法の練習だった。
フォルテ、マリルと共にレージも魔法の練習をする。
具体的には、教科書を片手に持って、記載されているイメージの通りの魔法を打つ練習だ。
「ファイヤーボール!」
手のひらを前に突き出し、あらゆる防護魔法がかけられた木偶の坊に向かって火の玉を放つ。
何度もやることでわかったことがある。
まず単純に火の玉と言っても、思ったようにいかない。
玉の大きさや威力、速度といったことのコントロールにブレが出る。
「これが魔法を制御するってことか」
「そのとおり。魔法は自分のイメージの通りにできることがベストだ」
オルンガの言葉に頷きつつ、ファイヤーボールを繰り返す。
魔法を繰り出すことで自分の手が火傷するんじゃないかと思っていたが、そういった心配は必要なかった。
魔法を放った瞬間に魔力の一部が自動で手を防護してくれている。火傷したいと思うなら別だが、自傷ということをイメージしない限り、自分の魔法で自分が傷つくということはないようだ。
隣ではマリルも同じ練習をしている。
ファイヤーボールは火F級の魔法であり、初歩の初歩である。
「剣の練習よりも楽しいですっ」
「マリルはいつから刀を振ってるんだ?」
「えーと、3歳くらい? わたしの家は代々悪魔祓いの家系でして、物心ついた時から剣を習っているのです」
「悪魔祓い……?」
「エクソシストと呼ばれています。まあ、私は出来損ないなんですけど」
なんか触れてはいけない話題に触れてしまったような……。
「エクソシストは光を宿した刀で悪魔を祓うのです。でも、わたしは魔法の才能が皆無なので……」
「いや、でも、その剣技がすごいんでしょ?」
「はい、天才です」
「……俺の知ってる出来損ないとなんか違うんだよなぁ」
「エクソシストとしてはダメですが、剣の腕前がすごすぎて、父から退魔の刀を譲り受けました。その名も【マジックレインボー】です」
「エー、刀の名前に横文字使うなよ。しかも全然退魔っぽい名前じゃないし」
「略してマジレボです」
マリルは鞘に収まった刀――マジレボに頬ずりをしている。
正直、世界観が全然わからない。
せめてそんな感じの名前なら【退魔刀・虹彩】とかにしてよ。いや、虹彩って眼球の膜のことだし微妙か。
「この刀の力によって、わたしには全く魔法が効かないのです!」
「あぁ、だから昨日は見破られちゃったんだ?」
「そのとーり!」
えっへんと、ない胸を張る。
「そして無意味に壁を壊した……と」
「うぐぅ」
フォルテが止めを刺すことを忘れない。
それにしても、魔法無効化の力とかチート級じゃないか。
「マリルも王国軍を目指してるの?」
「めんどくさいので正直イヤです。わたしは楽して生きていきたい派なので。でも父が歩兵部隊でさらなる剣技を学びなさいって言うから……」
「いちおうは目指しているってことなのかな……。ちなみに歩兵部隊ってどんな部隊なの?」
「わたしもあんまり詳しくないですが、なんか屈強な人たちの集まりみたいです。対人、対魔問わず戦いに長けた人たちばかりで、戦争の時は主力となる部隊なのです」
「へぇ」
そんな屈強な人たちの中に、こんな小柄な少女が入るというのか。
なんとなくめっちゃ守られてそうなイメージだ。オタサーの姫的な。詳しく知らないけど。
「さあ、お喋りはその辺にしようか。マリルなら余裕で歩兵部隊に入れるだろう。その前に魔法を練習しておこうね」
「オルンガ先生! わたし、ちょっと練習してみたい魔法があるんですけど」
注意されたことなんて全く気にせず、マリルが食い気味でオルンガに質問する。
「なにかね?」
「エクソシストの魔法の中に、刀に光魔法をまとわせるやつがあるんです」
「ふむふむ。そうしたら、マリルは水がE級に上がったし、水魔法で同じことをイメージしてみなさい」
「はーい!」
なるほど、武器に魔法を纏わせるということができるのか。
魔法は色々と応用が利く。
多属性の複合的な魔法もたくさんあるし、物に影響を与える魔法、人に影響を与える魔法など様々だ。
教科書には、癒やし魔法によって、身体能力を一時的に強化できる魔法も載っていた。
魔法というものがあるため、戦闘を多角的に考える必要がある。
といっても、戦闘素人のレージにはまだ何もオリジナリティのある戦い方は思いつかない。
まずは知識を増やすこと、そして戦闘のベースとなる基本的な戦い方を身につける必要がある。
「俺もその武器に魔法を纏わせるっていうのをやってみようかな」
「レージは風魔法が得意そうだったから、それでやってみなさい。まずは得意なところから伸ばすのが良い」
オルンガのアドバイスで、レージは弓矢を構えた。こういうこともあると思って、持ってきていて正解だった。
この世界で、丸腰で移動なんてできるわけもないし。
「矢に風を纏わせるイメージ……」
矢の周りにシュルシュルと風が集まる。
ここだ、と思って矢を放った。
しかし、纏っていた風は飛んでいく間に薄れてしまい、木偶の坊へ到達した時点ではただ矢を放ったのと変わらない結果となってしまっていた。
「難しいな……」
「お困りかな?」
「いや、困ってないです」
フォルテがイキってる感じがしたので、即答で断った。
「いや、ちょっと待ってよ、困ってるでしょ? 難しいなって言ってたでしょ?」
「まあ、困ってるというか、悩んでるというか」
「しょうがないから、闇の天才からアドバイスをあげよう」
「いや、いいです」
「ねぇレージくん? 昨日の今日ですごく冷たくなってない?」
フォルテはマジメに対応するだけ疲れるので、適当にあしらうくらいがちょうどいいのだと昨日の一件で悟ったのだ。
「で、アドバイスって?」
「よくぞ聞いてくれた! 矢に風を纏わせる時は、先端部分、つまり鏃を中心にスクリュー状に風を展開するんだ」
「おぉ、まともなアドバイス」
「魔法に関しては本当に天才だからね俺! レージがさっき放った矢は、矢全体を包み込むようにイメージしてたようだけど、それだと拡散しやすくなって威力が出ないんだ」
なるほど、結局ダメージを与えるのは鏃部分なわけで、そこに集中することで威力を上げるということか。
しかも、矢そのものは細いため、空気の抵抗は基本的に先端で受けることになる。そこに魔法で補うことで、より遠くまで飛ばせるようになるのだろう。
スクリュー状といったのはラグビーのパスのイメージが近いかもしれない。武器で言えば銃だ。
「本当に良いアドバイスでびっくりしてるよ」
「ふふ、エロいことのために魔法の勉強を頑張ってきたのは伊達じゃないのだよ」
目的がずれてるんだよなぁ。
マリルが冷たい視線でフォルテを見る。
そんなことは置いておいて、再び弓矢を構えた。
矢の先端部分に風の膜を張るイメージで、それを高速に回転させる。
イメージ通りの魔法が展開できたタイミングで矢を放つと、さっきとは比べ物にならないくらいの速度で一直線に木偶の坊の頭に刺さった。
木偶の坊の胸部を狙っていたのだが、思ったよりも落ちなかった。それだけ威力が上がったということだ。
「いいじゃないか」
フォルテがすぐさま褒めてくれる。
「ふむふむ、レージもなかなかに才能があるね。一回一回をちゃんと考えて実践していることがよくわかる」
「ありがとうございます」
「レージは弓兵部隊志望かな?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど」
「それはもったいないな」
あははと苦笑してやり過ごす。
ロゼットの部隊説明の中に、弓兵部隊というものがあったことを思い出す。
今のレージにはぴったりの職なのかもしれない。
「自分に何ができるのか、もうちょっと考えてみます」
そう言って、再び弓矢を構えた。
このまま牧場で働いて過ごすのか、それとも王国軍を目指すのか。
竜騎士を目指すのか、弓兵を目指すのか。
フォルテやマリルに感化されたものの、まだまだ迷いがあるレージだった。
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