第16話 魔法合宿②
魔法合宿一日目の夜。
サマンサにご飯をあげて、レージは宿舎に戻った。
レージはフォルテと二人部屋だった。
堅いベッドに腰を掛ける。
「レージ、俺は天才だっただろ?」
「うーん、魔法の優劣がまだよくわかってないから、あんまりピンとこないんだよね」
「そうか……。よし、俺の魔法のすごさを実感させてやろう!」
「いや、頼んでないけど……」
フォルテは立ち上がり、レージの手を引いて部屋の外に出た。
「いいかレージ、この魔導士協会の施設には、露天風呂があるんだ」
廊下を歩きながら、小声で話す。
浴場が凝っていることはオルンガから説明を受けている。
時間帯によって男湯の時間と女湯の時間が分かれている。
今は女湯の時間だから、浴場に用はない。
「今は女湯の時間っていうのはわかっているな?」
「まあ」
「そうか話が早いな」
「なんのだ」
「のぞきに行くに決まってるだろうが」
「はぁ!?」
レージは素っ頓狂な声を出してしまう。
日本でのぞきなんてやろうものなら普通に犯罪だし、今時そんなセキュリティゆるゆるの場所なんてないだろう。
ただ、ここが異世界ということを思い出す。
常識が違うのだろう、たぶん。
「おいレージ、行かないって選択肢があるのか?」
「いや、行かないだろ。犯罪じゃないのか?」
「何言ってるんだ? のぞき程度で犯罪なんてなるわけないだろう」
「うーん、犯罪じゃなくてもモラルとしてどうなんだろう……」
「お前は頭が固いなぁ! 女の裸を見たいか見たくないかどっちなんだ?」
「見たくないといえばウソになるけど……」
おかしな方向にいっている自覚はある。
強い拒絶をすれば、それで済む話だろう。
ただ、こういった背徳感のある行動を今まであまり経験してこなかったレージは、ちょっとワクワクしているのも事実だった。
「魔導士協会は美人が多いんだ。あと、A班にも美人がいたの覚えてないか?」
正直言って、自分の班しか覚えてない。
慌てて入ったし、すぐに班分けされちゃったし。
「よし、ここから俺の魔法を使う。シャドウウォーク。オプティカル・カモフラージュ」
ふたつの魔法を使う。
ひとつは足音を消す魔法、シャドウウォーク。
もうひとつは光学迷彩魔法のオプティカル・カモフラージュ。光魔法と闇魔法の高度な複合魔法だ。
「オプティカルカモフラージュは俺のオリジナル魔法なんだ。この時のために考案したんだぜ」
「のぞきに対する情熱がすごいな」
「ばかやろう、褒めんじゃねぇよ」
「褒めてないけど……」
結局レージはフォルテの後ろに付いて歩き、特になんの苦労をすることもなく露天風呂の外側へやってきた。
壁一枚を挟んで、向こう側はヒミツの花園。
「オルンガ先生って未婚よね? 相手いないのかなぁ」
「えー、狙ってるのぉ?」
壁の向こうからガールズトークが聞こえてくる。
これを聞いてるだけで罪悪感が半端ない。
「いいか、この壁を透かすことはさすがにできない。透視魔法は研究中なんだ」
「努力の方向性が迷子だな……」
「だから褒めるなって。まあ、つまりこの壁は登らなければいけない」
「最後の山場ってわけだね」
「その通りだ。俺たちのミッションはあともうちょっとで完遂する」
そう言って、二人とも壁に手を掛ける。ここまで来るとレージもノリノリだ。
土魔法を使って取っ手を出現させ、器用に登っていく。
二人同時にてっぺんに手を掛け、少しだけ頭を出す。
「こんにちは」
目の前にいたのは、バスタオルを巻いたマリルだった。
強気なその青い瞳は、無慈悲で冷酷な目線でレージとフォルテを見る。
いや、オプティカル・カモフラージュを掛けているのだから見えないはずだ。
「見えてないとでも思ってるんです?」
「くっ……。まさかお前が入ってる時間とは」
「わたしの前で魔法など無力なのです」
感情のこもっていない笑顔で言い放つ。
レージは諦めの表情をし、フォルテは怒りを露わにしていた。
「ちがう! 断じてお前の裸を見たかったんじゃねぇんだ! 魔導士協会のお姉さんたちを出せぇ!」
「うっさい! ぼけぇ!」
マリルは左手で刀を抜き、壁ごと切り伏せた。
浴場の壁が崩れ落ちる。
っていうかなんで刀を浴場まで持ってきているんだ……。
壁が崩れたものの、レージとフォルテは無傷で地面に着地する。
「お前アホか! 壁を壊したらのぞきたい放題じゃねぇか!」
「え? いや、そんなバカな……! なんでこうなるのぉ!」
あれぇ、もしかしてマリルってアホなの?
マリルは赤面し、慌てて脱衣所へ引き返していった。
「ふっ、勝ったな」
「なににだよ。誰もいないじゃないか」
結局レージとフォルテは壁を壊しただけ、というか壁を壊されただけで、特に望みを叶えることはできなかった。
翌日、壁は魔法によってすぐに修復され、壁の周りにトラップ魔法が張り巡らされることとなった。
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