第一章 転生者がドラゴンの背に乗って
第1話 目覚めから気絶
柔らかくて懐かしい感じがする。
乗馬クラブを手伝っている時に嗅いだことのあるカントリーな匂いだ。
全身を包み込むようなふわふわした感触。でもちょっと背中がチクチクする。
「ん……?」
零士が目を開くと、すぐに自分が寝ワラの上で寝ていることに気付く。しかも全裸で。
いや、ちょっと待て。
寝ワラの上で寝てるのは百歩譲ってアリとしよう。
ただし全裸は違うだろ? 股間の解放感がすごい。
チクチクした感触は、ワラの先が体のいたるところに当たるからだ。
というか、ここはどこだ?
体を起こして辺りを確認する。
零士が手伝っていた乗馬クラブとは絶対に違う。
木製の建物の中なのはわかるし、鉄製の檻で出れないようになっている。
しかし馬用の馬房であればこんなに広くする必要はない。
天井も高いし、馬房のおおよそ2倍(5m四方くらい)はある広さだ。
ドスドスドスドス
コツコツコツコツ
地響きとまでは行かないまでも、重いなにかが動く音がすると同時に、人のブーツの音だ。
「さっ、今日はこれで運動終わりね」
幼さの残る女性の声と、ふんすふんす言う鼻息っぽいものが聞こえる。
いや、もしかしてここに来るの?
左右に首を振るもののとっさに隠れられるような場所もなく、零士は慌てて立ち上がって、すぐにワラを両手に持って股間に当てた。
ちょっと待てよ、これは展開として男女逆だろ普通……!
ガラガラガラと重そうな鉄の扉が横にスライドする。
入ってきた少女と目が合って、時が止まった。
「キャーーーーーー!!!!!」
という少女の絶叫と共に、
「うわああああああ!!!!!」
という零士の絶叫が木霊する。
普段は割と冷静な方だと自負する零士が、卒倒寸前である。
裸を見られたから?
違う。
彼女の絶叫に驚いたから?
違う。
彼女の背後にいた生き物が、馬の2倍くらい大きなトカゲ……いやドラゴンだったからだ。
二人の絶叫にも、ドラゴンは全く動じることはない。
真剣な目で零士を睨んでいる。
それに気圧されて零士はブルブルと震えながら一歩下がる。当然、後ろにあった乾燥させたキューブ状の飼料が転がってるなど微塵も思わず。
見事に飼料を踏んで漫画のようにツルンと滑る。
「へぐっ!!」
後頭部を壁に痛打する。
幸いにも持っていたワラが股間に乗っかり、思春期のイチモツを見られる心配だけはない。
「ちょ、ちょっと! 君、大丈夫?」
一部始終を見ていた少女が、ドラゴンを別の房の中に入れてから駆け寄る。
朦朧とする意識の中で零士は思う。
ドラゴンて……なに……?
全く理解できない環境にいることだけは理解して、意識が遠のいていく。
目が覚めてから間もなく、再び闇の中へ落ちていくのだった。
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