第4話 報せ
シンは節々が痛む体を鞭打って起こした。自分の皺だらけになったスーツと脱ぎかけの靴、玄関口で倒れるようにしていたことから鑑みて、酒で潰れたことは明白だった。誰かがバーから送り届けてくれたに違いない。そう、誰かが。
「エイト!!」
ハッとして、すぐにポケットの中のスマートフォンを探り当て、ニュース情報を検索。すると、速報の欄に「首相、日本初の安楽死」と出ていた。
「本当に死んだのか、あいつ……」
全く実感の湧かない友人の死に、乾いた笑みが漏れた。なんだか現実じゃないみたいだ、とまでシンは思った。ゆっくりと立ち上がり、キッチンへ向かう。コップ一杯に水を汲み、一気に飲み干した。冷たい水が喉を潤し、胃にピシャリと現実が注ぎ込まれた。両頬を叩いて、シンは頷く。カレンダーをちらりと見て、昨日が金曜日だったことにようやく気づく。さて、これからどうしようかと考えあぐねていると、彼のスマホに着信があった。表示は「エイト 自宅」となっている。
「はい、もしもし。」
「正木さんのお電話でお間違いないでしょうか。」
少し若い、しっとりした女性の声がスピーカーを伝って耳に流れ込む。聞き覚えのある声だった。
「間違いありません。もしかして、奥さん?」
「そうです……この度は主人が亡くなったため、お通夜のご連絡をと思いまして。誠に急で申し訳ないのですが、本日の18時より自宅で執り行う予定です。生前から主人の1番の親友だった正木さんには、できればご参加いただきたいのですが……。」
「もちろん、伺います。この度はご愁傷様です。」
「痛み入ります。」
電話はそこで終わった。十八時からお通夜。現在時刻は九時。まだ時間はある。そこで、シンは弔いも兼ねてエイトとの思い出を巡ることに決めた。歯を磨いて珈琲を流し込み、シャワーを浴びる。適当に髪をワックスでセットして、普段着を着ると早速家を出た。随分な快晴。どこまで手を伸ばしても届かない青。しかし、まだ青の限界ではない。シンは目を細めて立ち止まり、やがて歩き出した。
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