変な夢

@ns_ky_20151225

変な夢

「最近変な夢を見るんだ」 休憩時間、ある兵士が笑いながら言う。「なんだか中世みたいな城で悪い竜が攻めてくるのを警戒してて」

「なんだそりゃ。クラシックゲームのやりすぎか」 コーヒーを一口飲んで仲間が返す。わざとおどけたような言い方だったが、他の兵士たちはあまり笑わない。今の状況そのもの過ぎる内容だからだった。

『敵発見。探査体一機。A警戒に移行』 指揮所とつながっているモニターから声がし、皆動きを止める。今では一機程度なら警戒態勢のままで休憩は終わらないが、それでも緊張はする。

『撃破。B警戒を維持』 動きが再開され、飲み物のカップが唇に押し当てられる。

「時計仕掛けどもめ、まともにコーヒーも飲めねえ」 誰かがぼやく。モニターが基地外部の光景に切り替わった。木星が明るく輝いている。

「いい天気だな」「ああ、あいつらさえいなけりゃ絶景なのに」

 そこに軌道をめぐる残骸が滑り込み、皆を黙らせた。つい一ヶ月前の激戦。多くの仲間と主力戦闘艦を失った戦いで傷を負わなかった者はいない。

「なんとかならねえのかよ。科学者どもは仕事してるのか」

「ぼやくな。俺たちは任務を果たせばいい。時間を稼ぐんだ」

「そうさ。我々が作った物なんだから必ず始末する方法はある」

「下手な慰めはいらん。誰でもいいからあの時計仕掛けの糞をなんとかしてくれ」

『非常事態。敵戦闘体十機。B警戒終了。C戦闘態勢に移行。繰り返す。C戦闘態勢に移行』

 全員配置に付くため休憩所を出た。もう誰も大声を出したり威勢よく駆け出したりしない。自らを鼓舞するような態度はここではとっくに擦り切れてしまった。淡々と部署に付き、そして狂った機械どもとのいつ終わるかわからない戦闘を始めるのだった。


「変な夢ばっかり見るんだ」 槍を所定の場所に立て掛け、夕食を食べながら兵士は仲間に言った。

「どんな?」

「うん、夢でも敵を警戒してる兵士なんだ。でも敵は鬼や竜じゃないんだ。ぴかぴかの金属で出来た怪物で、破裂する槍や当たると切れたり溶けたりする光を吐くんだ」

「なあんだ。今と変わらないじゃないか。お前夢の中じゃ金物の悪竜と戦ってるのか。ご苦労なこったな」

「そうかも知れねえが、この戦いいつ終わるんだろうな。賢者様は何をしてるんだ? 大体、悪竜って言ったってあいつらが……」

「おい、滅多な事を言うなよ。そりゃそうだが、口にしちゃいけねえ。首が飛ぶぞ。それに、呼び出した竜だからこそ手もあるはずだ。俺たちは時間を稼ぐんだ」

「お前、疲れてるんじゃないのか」 別の兵士が心配そうに声をかける。「もっと楽しい話をしろよ。なあ、故郷の、あの娘はどうした」

 言われた兵士の顔が暗くなった。

「この前手紙が来た。もう待てないって。いつ帰ってくるのって。給金なんかよりこっちでまじめに畑仕事してくれる人のほうがいいって」

「そりゃ……」

 その時鐘が激しく打ち鳴らされた。

「ありゃ小鬼だな」

 皆無言で立ち上がって自分の武器を取り、城門から外へ出ていった。夢の話をした兵士も槍を取って走っていった。


 科学者は図を表示させて説明を始めた。オールト雲の彗星の巣で資源探査・採取用の機械が無限に増殖し、その人工知能が到達可能な全世界の資源化を決定して人類の敵となるまでのあらましと、その対策だった。

 機械には機械をぶつける。それが作戦だった。バクテリオファージのように敵に取り付き破壊する。エネルギー源と増殖は敵の機構を利用する為、敵が全滅すればこの機械も同時に全滅する。

 ただし、敵密集宙域で散布しなければ効果は望めない上、敵人工知能を出し抜いて防衛機構をかいくぐるのに総攻撃が必要になる。これは決死の戦いであり、二度目はない。

 その説明に付随する資料が検討され、作戦は承認された。軍のほぼ全て、基地や艦船は言うに及ばず、兵士たちの大半も消耗すると予想されたが、うまく行けば人類は生き残れる。

「勝つ為です。我々は生き残らなければなりません」


 賢者は王や貴族たちに説明を始めた。軍の強化の為に召喚した竜がいかにして悪心を抱き、我らを裏切ったか、そして、その退治法だった。

 召喚した怪物には悪魔をぶつける。悪魔を呼び出し、命令に従わせるには多数の、しかも人間の生贄が必要だが、それは軍から募って対応する。これは戦死とみなし、遺族には十分な報酬と死後の栄誉を与え貴族とすると約束すればいい。

 支配者たちは賢者を褒め、作戦を進めるよう指示した。

「王の名のもとに、かならず悪竜を退治致します」


 オールト雲を漂う機械たちに探査体から通信が入った。人類の艦隊が木星系を出発した。総攻撃が始まった。目的はただ一つ。我らの密集宙域で抗機械体を散布すること。駆除される前に圧倒できるほどの数を撒くつもりだろう。

 しかし、そのような対策は予想済みだった。そして実行に移されたと知った瞬間、あらかじめ開発しておいた兵器を発動した。確実性に欠けるため使用を控えていたが、こうなっては使用しない理由は無い。

 次元転移兵器。実験ではかんばしい結果は得られなかったが、別の次元に情報が流れ出し、また、流れ込んできたと思われる計測値が得られていた。

 これで敵艦隊の情報を撹乱し、正確な散布を不可とする。また、実体を別次元に送り込んでしまう事が期待されていた。

 向こうの次元から何かが来るかも知れないが、人類の抗機械体ほど厄介な相手では無いだろう。

 オールト雲で資源のスープに浸かりながら、機械たちは人類殲滅後の宇宙の資源化計画を練り始めた。


 竜は波動を感じた。聖者だ。強い。生贄か。人間の。なら悪魔を召喚するつもりか。

 奥歯を噛みしめる。奴らとて愚かではない。いずれこういう決死の手段を取ると思っていた。同胞を生贄に捧げて悪魔をぶつけてくるとは。

 しかし、竜には対抗策があった。蓄えた魔力を一点に集中して門を開く。その先に悪魔を捨てるのだ。捨てるのと同じ値打ちのものがあちらの世界からやってくるが、悪魔ほど強力ではあるまい。

 竜は人間には分からない笑いを浮かべ、次元の門を開く祈りを始めた。


ーーーーーー


 私は近頃変な夢を見る。B級映画みたいなSFと、設定の練り込みが足りないゲームみたいなファンタジー。

 どっちもどっちだが、普通の夢と違って起床して時間が経っても覚えていられたので文章にしてみた。


 ちょうどいいからカクヨムに投稿しよう。

 でも、結末がないな。どうしよう。


 ハッピーエンドにしようかな。


 SFの世界の機械たちは入れ替わりにやってきた悪魔に滅ぼされる。機械が対応できる物理世界を超えた存在だから対抗しようもなく完全に消滅し、人類は生き残る。

 悪竜とその配下の鬼たちも同様に想定もしていない抗機械体に取りつかれて存在そのものを消されてしまう。こっちの人々も平和を取り戻す。


 両方とも被害なしにしてもいいかな。SFの世界の兵士は戦う前に悪魔が決着をつけてくれた事にすればいいいし、ファンタジーの方は悪魔が別次元に行ってしまったので生贄に用いられた魂が帰ってきて生き返るとかなんとか理屈をつけよう。


 ああ、つまらない。犠牲なしのめでたしめでたし? そんなもの誰が喜ぶんだ? カクヨムの読者だぞ。もう少し捻れないか。ちょっとくらい悲劇を混ぜようか。


 ふん、そもそもハッピーエンドが下らないか。どっちの世界も人類絶滅。バッドエンドはどうだ? 二つの世界が通じると思わせといて結局違うって落ちは?

 それとも機械と竜の繁栄を描いて別の意味のハッピーエンドがいいかもな。


 結末っていっつも悩むよな。考えてると頭が痛くなったのでこの話は結末なし。


 じゃ、おしまい。


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