15 秘めやかなる昔話
その昔、地元ではそれなりの家の御曹司である幹弥は、家族や使用人から甘やかされ尽くされ実に傲慢な子どもだった。
家の中だけでなく幼稚園、小学校と年を追うごとにそれはエスカレートしていき、同世代の中ではいろんな意味で一目置かれる存在になる。
幼児期のことなのでせいぜい女子のスカートをめくったり虫をけしかけたりするような悪戯程度のことだが、泣かされた女子は多い。この頃からある意味で女癖は悪かったのかもしれない。
財のある家の子どもではあるが、だからと言って周囲の大人が特別扱いするような環境でもなく(この頃はまだ地元の小学校に通っていた)ちゃんと注意も受けていた。
幹弥本人も悪いことをしている自覚があり、大人に見つからないように小細工などする知恵がついてきた頃、杏樹の堪忍袋の尾が切れた。
単純なガキ大将思考だった幹弥と違い当時から変に頭の回る子どもだった杏樹は、『なにをされるのが一番嫌か』を冷静に考えて『恥ずかしい姿を見られる』のがそうだという結論に辿り着いた。
時期も幼稚園から小学校に上がった頃で羞恥心も顕著になる年頃、普段泣かせたり恥ずかしい目に遭わせている女子から同じ方法(ただし数段上手)で報復を受ければさぞ屈辱に違いない。
その考えに至った杏樹は幹弥を学校の人が来ない空教室に連れ込み、身動き取れない状態にして服をすべて剥ぎ取った。ひとつ年下の、まだ未就学児だった杏樹に自分の躰を余すところなく見られた幹弥には効果は
半泣きになりながらもプライドが高い幹弥少年が言葉で謝ることはついになかったが、それ以降に彼が度の過ぎた悪戯をすることはなくなったのである。
ただしこの出来事は幹弥本人がショックで家から一歩も出られなくなったことで大人の知るところとなり、杏樹は(特に幹弥の家の)大人からこっぴどく怒られた。(ちなみに杏樹の家族は大爆笑していたのだが、世間的には神妙な顔をしていたので内緒である。)
それについては口では謝ったが、やったことに関して後悔はない。あれは正しいやり方ではなかったかもしれないが、やらないよりは絶対によかった。
だが確かに良いことをしたとも思っていなかったので一計を案じた。
誠心誠意の謝罪を向ける相手は幹弥本人であり、周りで
その考えに至った杏樹はショックで塞ぎ込んでいた幹弥を訪ね部屋でふたりきりになると、着ていたものをすべて脱いで余すところなく自らの裸身をさらした。
──わたしの恥ずかしい格好も見たんだからこれでチャラね。
未就学児にしてはやけに大人びた駆け引きを成立させた杏樹により、塞ぎ込んでいた幹弥少年は無事に復活。その後秘密を共有した仲となったふたりは、幹弥が小学校を卒業するまでの間それなりに仲良くやっていたのである。
○
「オレが女子と密室に閉じ込められてもヤろうと思わないのは、あの時の経験があるからだろうな。おまえ非常識だったけど暴力的ではなかったし」
「キレーに全部引っ剥がしただけでね。だって別に怪我させたいわけじゃなかったから」
秘密の出来事を思い起こしてみる。確かに今の年齢で同じことをしたら、もっと倫理観が欠如した結末が待っている可能性はある。
「まぁ、今回は相手がオレだったからよかったけど、気をつけろよ。おまえ既に目ぇ付けられてんだろ。ガキの悪戯とか仕返しとか、そんな可愛いもんじゃ済まねぇこともあるからな」
「ふふっ、まさか学院の有名人のミキヤ先輩に心配してもらえるなんて」
「茶化すなよ。あとおまえにそう呼ばれんのなんかやだ。気持ちわりぃ」
「昔はネコみたいに呼ぶなって怒ってたくせに。わがままさんか!」
「おまえ怒っても結局やめなかったじゃねぇか。つか脱線してんじゃねぇか」
「ふははっ」
「ったく。まぁ、今日の一件でオレのこと撃退した一年てことになってるだろうから、利用できるならオレのことも上手く利用しろよ」
(ヒール気取ってるとこに幼馴染みの登場で動揺して尻尾巻いて逃げた人が良いように言ったな)
そう思わないでもなかったが、口には出さなかった。この幼馴染みが自分を心配してくれているのは間違いない。
「うん、ありがと。でもほら、出る杭は打たれるって言うでしょーが。自分の見た目と頭がいいのは自覚済みよ。それに、」
「それに?」
一度言葉を切った杏樹は少し考えて。
「多分、大丈夫な気がするのよね。この学院に来てから……何か見られてる感じがするから」
余裕の笑みで言った。
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